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BL小説・風のゆくえには~片恋6(浩介視点)

2016年01月22日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋

 6月になって初めての木曜日。
 物理の先生が急に休んだため、自習になったのだけれど、

「大富豪やるぞ大富豪!」

 溝部がニヤニヤとトランプを持っておれの席までやってきた。

「え、でも」
「どうせ誰も様子なんか見にこねえよっ」

 最近、同じクラスの溝部と山崎と斉藤と、渋谷とおれは毎休み時間ごとに、大富豪をやっている。おれはやったことがなかったので、はじめは大貧民になりがちだったのだけれど、コツをつかんできた今は、貧民以下に落ちることは滅多にない。面白い。

 授業中だというのに、トランプをするなんて………ちょっとワクワクしてしまう。

「そういやさ……桜井って、最近美幸先輩と仲良いよな」
「え!?」

 斉藤の言葉にドキッとする。斉藤はおれと同じバスケ部なのだ。

「そ、そうかな……」
「あーいいなーバスケ部。女バスと合同で何かやること多いもんな」
「野球部、男しかいねえもんなあ」
「マネージャーは?」
「あれキャプテンの彼女だもん」
「パス」
「オレもパス」
「流すぞ?」

 喋りながらも、どんどんゲームは続いていく。

「で? 桜井、お前まさかその美幸先輩とやらと付き合ってるんじゃないだろうな?」
「ま、まさかっ」

 いいながらも赤くなってしまう。付き合うなんて、恐れおおい。
 でも、部活の前とか後とか、結構お喋りしたりしてる。それから、先月駄菓子屋に一緒にいったのと、先週、部活が急に休みになった時に、渋谷に強引に一緒に帰るように仕向けられたのと、あと昨日、の合計3回一緒に帰ったけど……

「顔赤いぞ」
「慶っ」

 小さく冷やかすように言ってくる渋谷を肘でつつくと、溝部がそれに目ざとく気付き、

「え、なになに? やっぱ付き合ってんのか?」
「マジで?」
「教えろよー」
「だから、ちが……っ」

「何が違うって?」
「!!」

 突然の野太い声に、5人全員固まってしまう。ぎぎぎぎぎ………と、声の主を見上げた………のと同時に、

「痛っ」
「痛い痛いっ」

 交互に悲鳴があがり、最後におれの頭にも、ゴンッと衝撃が走った。

「いたっ」
 上野先生の、ゲンゴツだ。

「ひでーよっ何でオレらだけっみんな喋ったりしてて、だれも自習なんかしてねーじゃん!」

 溝部の抗議に、上野先生ははああっと拳に息を吹きかけ、再び構えた。

「授業中にトランプするような度胸のある奴はお前らだけだ」
「ぎゃーっ」
「痛い痛い」

 再びゲンゴツが落ちてくる。

「さっさと席戻れ! 自習しろ!」
「はーい……」

 みんな頭をさすりさすり席に戻る。

「…………慶」
 渋谷と目が合い、思わずぷっと吹き出してしまう。渋谷もニッと笑ってくれた。

 ああ……楽しい。こんな風に先生に怒られるなんて初めてだ。

「桜井……お前、楽しそうだな」
「…………はい。おかげさまで」

 小さくおれにだけ聞こえるように言ってきた上野先生に、にっこりと笑い返す。

 上野先生はおれが中学時代あまり学校に行けていなかったことも、一年の時はクラスに馴染めずにいたことも知っている。それで内緒で渋谷と同じクラスになるよう画策してくれたのだ。

「あんま変な影響受けるなよー?」
「はい」

 ぐしゃぐしゃと頭をなでられ、笑ってしまう。影ながら見守ってくれる存在がありがたい。


 小中学校時代、過干渉な母は何かあるとすぐに学校にのりこんで騒ぎ立てていた。おれはそれが本当に嫌だったけれど、止めることもできなかった。
 高校生になって、それがピタリと止んだのは、上野先生のおかげだということを知ったのは、つい最近のことだ。バスケ部のもう一人の顧問である三田先生から聞いた。

「高校生にもなって、母親が学校に様子を見にきているなんて、友人から馬鹿にされてしまうのでやめてください」

と、高校に入学してすぐに学校に現れたおれの母に、上野先生がバシッと言い放ったのだそうだ。おそらく中学側から情報がいっていたのだろう。

「もう高校生なんです。何かあったら自分で対処できないようでは困ります。親離れ、子離れ、してください」

 さすがの母も先生からここまでハッキリと拒絶されたため、学校にくることはなくなった。でも、何かと電話をしてきたりすることはあるようで、担任の先生には迷惑をかけていて申し訳ない……。


 でも、おかげで、学校では本当に楽しい毎日を送れている。
 大好きな親友。楽しいクラスメート。充実した部活動。片思いしている先輩。
 『友情』『部活』『恋』……夢に描いていた学校生活だ。おれにこんな日が訪れるなんて……

 怖いくらいだ。

 怖くなって、手先がすーっと冷えてくる。でも、そんな時でも、

(………渋谷)

 斜め後方の席に座っている渋谷を振り返る。ちょうど偶然こちらの方を見ていた渋谷とバッチリ目があった。ふっと笑ってくれた渋谷。その笑顔に指先までポカポカ温かくなってくる。

(大丈夫)

 おれには渋谷がいてくれるから、大丈夫……。



***


「今日やっぱおれ、写真部休む……」
 放課後になってから、渋谷が言いにくそうにいった。

「え、具合でも悪い?」
「まあ……うん。そんな感じで……。じゃ」
「えええっちょっと待ってちょっと待って」

 カバンを持って出て行く渋谷を慌てて追いかける。

「だったら自転車で送っていくよっ」
「いや、いいよ。お前は出ろよ」
「でも………」

 具合が悪いというわりに、渋谷はものすごい早歩きをしている。
 そのまま昇降口に行くために職員室の前を通ろうとしたところ、

「あ、お兄ちゃん。浩介さん」
「南ちゃん」

 職員室に部室の鍵を取りに来たらしい渋谷の妹・南ちゃんと出くわした。
 
「どうしたの?」
 いぶかし気に聞いてきた南ちゃんに、渋谷がやっぱり言いにくそうに答える。

「いや、ちょっと……おれ、今日は、写真部休むから……」
「え?そうなの?」

 南ちゃんが首をかしげたのと同時に、

「えええ! 渋谷先輩お休みしちゃうんですか?!」
「!」
「え?」

 渋谷が……わりといつも冷静な渋谷が、こっちがビックリするくらい、ビックリしたように跳ね上がった。
 職員室から出てきたのは、部長の橘先輩の妹・真理子ちゃん。

「えー困ったなあ。私、今日先輩にご相談があるんですけど」
「え……あ、そ、そう……」

 なんだ? なんだなんだ???
 渋谷の様子がおかしい。真理子ちゃんの登場に明らかに動揺している。

「お休み、しちゃうんですか?」
「あ……いや、じゃあ……行くよ……」
「わあ。良かった」

 ハテナハテナハテナ??となっているおれを置いて、渋谷は真理子ちゃんと並んでいってしまった。

「何、あれ……」
 南ちゃんも眉間にシワをよせている。南ちゃんも知らないらしい。

「なんか真理子ちゃん、今週入ってから、妙にお兄ちゃんのこと聞いてくるようになったんだよね」
「え、そうなんだ」
「先週なにかあったのかなあ」

 先週……木曜日は普通に部活があって……

「あ、金曜日」

 そうだ。金曜日、渋谷は写真部に用があるって言ってた。それでおれに強引に美幸さんの待ち伏せをさせて……

「金曜日の放課後、渋谷、写真部の部室にいったはずだよ」
「え。真理子ちゃんも写真部の部室行くっていってた」
「ってことは……」

 そこで何かあったんだ……

 南ちゃんと顔を見合わせる。南ちゃん、大変フクザツな表情をしている。

「お兄ちゃん、浩介さんに好きな人ができて、やけくそになってるのかな」
「えええええ?!」

 す、好きな人ができて……っって!

「南ちゃん、おれの好きな人って……っ」
「女バスの先輩でしょ? 見てればわかるよ」

 し、渋谷兄妹、恐るべし! 見てればわかるって渋谷も同じようなこと言ってた。

「……って、あれ? それで渋谷がやけくそって?」
「ああ……」

 南ちゃん、真面目な顔をしておれをジッと見つめてきた。

「浩介さんは別にどうも思わない? お兄ちゃんに彼女ができても?」
「え………」

 渋谷に彼女……。

「んー……渋谷の恋は応援しないとって思う」
「………………あっそ」
「南ちゃん?」

 南ちゃんはなぜかプリプリ怒りながら行ってしまった。
 その後ろ姿を見ながら、想像してみる。

 渋谷に彼女ができたら……

 渋谷はその彼女と一緒に帰るようになるのかな。
 日曜日はデートだから、おれとは遊べなくなるのかな。
 今みたいに頻繁におうちに遊びにいけなくなるのかな。

(………やだな)

 我儘だけど、そんなことを思ってしまう。

 あの、おれにだけしてくれる、甘えるみたいにギュッと抱きついてくることとか、彼女にするようになるのかな……。彼女にはもっともっと色々なことするのかな……。
 想像の中の彼女が、真理子ちゃんと一致してしまい、余計にリアルな映像が浮かんでしまう。

(まさか真理子ちゃんと付き合ってたりするのかな……)

 心の中がモヤモヤしてくる。
 なんで教えてくれないんだろう……おれたち『親友』のはずなのに……


 部室に入ると、真理子ちゃんと渋谷が並んで立って、橘先輩と話していた。

「…………」
 渋谷と真理子ちゃんが付き合っているとしたら、今後は渋谷の隣にはああして真理子ちゃんが並ぶことになるのかな。おれじゃなくて……。

 ますます、モヤモヤ……いや、ザワザワ……してくる。なんだろう……

 でも、モヤモヤもザワザワも心の中に押し込めないといけない。
 おれは、渋谷の『親友』。
 渋谷の恋は応援しないといけない。今、渋谷がおれのことを応援してくれてるみたいに。




----------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!

先生からゲンコツ指導が普通にあった時代の話でございます。
(自習中トランプやっててゲンコツくらったこと、あります。まじ痛かった^^;)

浩介君、「偶然こちらを見ていた渋谷と目が合った」なんていってるので、
偶然じゃないしっ慶は君のことずっとずっと見てるんだよっばかっ……と突っ込みたくなりました。

次回は真理子ちゃんが……、ということで、また明後日!よろしくお願いいたします!

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!!のろのろ展開ですみません。もう少しお付き合いください。。。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~片恋5-2(慶視点)

2016年01月20日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋

 浩介に好きな女ができた。

 堀川美幸、という女子バスケ部の3年生。ショートカットの美人。おれと同じくらいの背で、スタイルがいい。でも何か、フワフワした感じの人。独特の間があるというか……、女子の間で浮いてるんじゃないか? って気もする。

 写真部の部室から手を振ってからちょうど一週間後の昼休み、偶然彼女と出くわしたのだけれど、

「あ!桜井君! と、緑中の切り込み隊長、渋谷くーん」
「………え」

 開口一番そう言われた。切り込み隊長、というのはおれの中学時代のバスケ部でのあだ名だ。おれは小さいせいか目立っていたらしく、そんな変なあだ名をつけられ、他の学校のバスケ部員にも顔と名前を覚えられていた。

「美幸さんって田辺先輩と同じ中学だったんだって」
「あ、そうなんだ」

 浩介は横でおれにボソボソっと言ってから、近づいてきた美幸さんに向き直った。

「あ、もしかして、これからですか?」
「うん。そうそう。ホントにいる?」
「是非!!」

 浩介、頬が紅潮している。
 おれには分からない、2人だけの会話……

「じゃあ、今日の帰り……昇降口でいい?」
「はい! よろしくお願いします!!」

 浩介はにこにこと言って、そのまま通り過ぎていく美幸さんを、ぽーっと見送っている。

「……何の話だ?」
「あ……うん」

 照れたように浩介が肯いた。

「今日ね、調理実習でカップケーキを作るんだって。昨日その話したときに、おれが食べたいっていったから」
「へえ。すごいじゃん」

 この一週間でそんなに親しくなったのか……

「美幸さんね、将来はケーキ屋さんで働きたいんだって。お菓子作りとか大好きで……」
「…………」

 はしゃいだように話し続ける浩介……

 なんでおれ、お前の好きな女の情報聞かされてんだ?
 なんでおれ、それ聞きながら笑ってんだ?

 そんな内心の葛藤を押し隠して、

「良かったなあ。お前、美幸さんとそんなに仲良くなったんだ」
「うん!」

 やけくそ気味にいったおれに、浩介は無邪気に笑って言う。

「それもこれもみんな慶のアドバイスのおかげだよー本当にありがとうね!慶!」
「…………」

 そう……おれ達は『親友』。『親友』だから当然だよ。


**


 写真部4回目の活動は、険悪な雰囲気のまま終わった。まだ、部長の橘先輩と妹の真理子ちゃんの喧嘩は続いているようだ。
 でも、美幸さんからカップケーキをもらってウキウキしている浩介は、そんな雰囲気にも気が付かなかったみたいで、終始はしゃいでいた。

「カメラって面白いね~おれはまりそう」
「そりゃ良かった」

 帰り道、いつものように浩介の漕ぐ自転車の後ろに乗りながら、浩介の話をきく。浩介、いつもより饒舌だ。

 浩介の心地よい声、すぐそばにあるぬくもり……コツンとその背中に額をつけると、浩介が心配そうに後ろを振り返った。

「慶? 眠い? 落ちないでよ?」
「………ん」

 どさくさに紛れて、浩介の腰に手を回す。愛おしさが募って、ぎゅっと抱きつくみたいにすると、浩介は嫌がるでもなく、クスクスと笑いながら言ってくれた。

「ちゃんと掴まっててね?」
「ん」

 そのまま目をつむる。浩介のぬくもり……離したくない。離れたくない。

 だからこそ、おれは『親友』として、浩介の応援をしなくてはならない。
 離れないために。一緒にいるために。


 翌日……

 急遽体育館の照明の点検が入り、バスケ部が休みになった、と帰りのホームルームで担任から告げられ、

「慶の家、遊びに行ってもいいー?」
「…………」

 ニコニコと言った浩介に、胸が締めつけられる。
 一番におれと遊ぶことを思いついてくれた。それだけで充分だ。

 だから……

「ばーか」
 なんでもない顔を装って、浩介のおでこを弾いてやる。

「せっかく部活休みになったんだから、それこそチャンスだろっ」
「え」
「美幸さんとどっか行けよ?」
「えええっ」

 途端に真っ赤になった浩介。

「そ、そんな突然……」
「速攻で昇降口前、待ち伏せ。決定。ほら行け」
「えええ……っ、ちょっと待って。慶は……」
「おれ、写真部に用事あるから。じゃあな」
「慶……っ」

 浩介の声を背に、走って教室をでる。振り返ったら決心が鈍りそうだった。そのままの勢いで職員室に鍵を取りに行き、走って写真部の部室に飛びこむ。

「……………」

 息を整え、窓辺に寄る。

 昇降口前……浩介が傘をさして立っているのが見える。急に雨が降り出したけれど、用意の良い浩介はちゃんと折り畳み傘を持っていたようだ。傘がなくて走って帰っていく生徒が多い中、浩介は、ソワソワとした様子で昇降口を見張っている。

「………浩介」
 小さくつぶやく。

「浩介。浩介。浩介………」
 
 知ってる。おれはお前の『親友』。それ以上にはなれない。どうやっても。
 この想いは知られてはいけない。知られたら、そばにいられなくなる。

「………あ」

 浩介が慌てた様子で昇降口に走り寄ったので、屋根で隠れて見えなくなってしまった。

 でも………

「………っ」

 次の瞬間、心臓に鋭い痛みが走る。
 屋根の下から出てきた浩介の傘の中……美幸さんが一緒に入っている。

「……やるじゃん。浩介」

 自虐的につぶやく。……あいあい傘、だ。

「……お似合いだな」

 二人が寄り添うようにして、校門から出て行くのを、息を止めて見送る。

「…………」

 苦しい……

 椅子に座り、膝に肘をついて顔を覆う。

 知ってる。分かってた。
 いつの日か、浩介に特別な人が現れることなんて。その特別な人に、男であるおれが選ばれることがないってことなんて。

 だから、だから、おれは『親友』という座を選んだ。
 親友でいれば、いつまでも一緒にいられる。いつまでもそばにいられる。

 覚悟はしてたのに……どうしてこんなに苦しい……涙が溢れてくる……

「………椿姉」

 姉はおれに言ってくれた。

『自分の心に正直に。あなたの思った通りにしなさい』
『後悔しないように。今のこの瞬間は一度しかないのよ?』

 椿姉……思った通りにしたけど、つらいよ。後悔はしてないけど……でも、つらいよ。


 こんなにつらい思いをするなら……好きにならなきゃよかった……

「………なんて、言うわけねえだろ。ばーか」

 自分で自分に答えてやる。

「好きにならなきゃよかった、なんて死んでも言わねえよ」
 
 好きにならないなんて選択肢、おれにはない。

 ただ、一緒にいたいだけなんだよ。浩介……


 お前が他の誰を好きでいても構わない……、なんて、本心で思える日がくるのかな……

 まだ、無理だ。でも、もう受け入れないといけない。でも、つらい。つらい……

 涙が……止まらない……

 思うまま、静かに涙を流し続ける。

 と、そこへ……

「………渋谷先輩?」
「!」

 ビクッと跳ね上がってしまった。
 この声、真理子ちゃんだ。しまった! あわてて頬に流れている涙を手で拭ったのだが、

「先輩……泣いてるんですか?」
「あ……」

 振り返り、

(椿姉!)

 ドキッとする。違う。彼女は姉ではない。姉ではないけれど……

「……先輩?」
「………」

 まっすぐに彼女の瞳を見上げる。

 澄んだ瞳の色が椿姉に似てる……

 椿姉だったら、こんな時、きっと何も言わずに………

「先輩……」
「…………」

 ふわりと抱きしめられた。女の子の柔らかい胸……
 ゆっくりゆっくり頭をなでてくれる優しい手……

「泣いて、いいですよ?」
「…………」

 再び涙が流れはじめる。
 雨の音が心地いい。
 薄暗い写真部の部室の中、おれはそのまま静かに涙を流し続けた。



----------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
各方面やきもきする感じですが…続きはまた明後日!よろしくお願いいたします!

クリックしてくださった方、こんなやきもきする展開にも関わらず本当にありがとうございます!!暗いトンネルを抜ければ明るい明日がやってくるはず……。どうぞお見届けいただければと……今後とも、よろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~片恋5-1(慶視点)

2016年01月18日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋

「好きな人が、できたんだ」

と、浩介が言った。

 覚悟はしてた。そんな日がくることは。
 浩介だって、健全な男子高校生だ。恋くらいするだろう。この一年、何も浮いた話がなかったのが珍しいくらいだ。

 覚悟はしてた。してた。してたはずなのに……

「とりあえず、中間テスト終わってからにしねえか?」

 相談がある、といわれ、テストを盾に思いっきり話を遮ってしまった。おれ、嫌な奴……。

 でも、浩介はあっさりと、

「そうだね。そうする」
と、うなずき、何事もなかったかのように、また基礎解析の問題を解きはじめた。

「………………」

 え、それでいいのか……?
 いや、いいならいんだけど………っていうか、このまま無かったことになってくれたら……


 なんて、甘い話にはならず。

 中間テストが終わった翌日の昼休み。
 弁当を食べながら、浩介がケロリといった。

「慶は好きな人いないの?」
「……………」

 お前が言うな。

 ……という本音は隠して、ぶっきらぼうに答える。

「………いねえよ」
「そっか……」

 微妙な沈黙が流れる……

 もぐもぐもぐもぐ………

 浩介の喉元を見ながら、卵焼きをしつこいほど咀嚼して、ゴックンと飲みこむ。

 覚悟を決めた。

「で? お前のその好きな人ってのは誰なんだ?」
「え?!」

 途端に真っ赤になる浩介。

 くそー……初めてみるそんな表情。おれがさせるわけでなく、他の奴のためにする表情……

 そんな内心の沸騰を抑え込んで、普通の顔をして聞く。

「女バスの先輩?」
「え?! なんで分かったの?!」
「…………」

 あー……そうですか。やっぱりあの女か……

「こないだの試合の時、話してたの見たから」
「え!? それだけで分かっちゃうの? うわーさすが渋谷ー」
「………」

 渋谷……って、なんで名字呼びに戻ってんだよっ。
 なんてことは言えず、他のことを聞く。

「なにが『さすが』なんだよ?」
「え、だって、聞いたよ。渋谷は中学時代モテモテでファンクラブまであって、女の子落としまくってたって」
「…………」

 誰がモテモテ? 何がファンクラブ? 落としまくって……??

「なんの話だそりゃ」
「え、違うの?」

 きょとんとしている浩介。
 ああ、もう、色んな意味でイライラしてきた。

「確かに女友達は多かったけど、落としまくった覚えはねえよ。荻野にでも聞いてみろ」
「あ、そうなんだ……ごめん。話信じちゃった」
「………」

 なんだそりゃ。
 イライラが最高位まであがっていて、言葉がトゲトゲしくなってしまう。

「で、相談ってのは何だ」
「あ……うん……」

 おれのイライラを察知したのか、浩介は若干ビヒリながら言葉を続けた。

「おれ………これからどうしたらいいのかな」
「……………………」

 知るか。んなこと。

 …………と、言いたい気持ちを押さえつける。

 浩介の真剣な目………。おれのこと信頼して相談してくれてるんだよな………。

 頭が冷えてきた。
 おれ達は『親友』。親友なんだ。親友の相談………ちゃんと乗ってやれよ、おれ。

「あー………、それはお前が『どうしたいか』によるんじゃねえの?」
「どうしたいか?」

 首をかしげた浩介に指をつきつける。

「その先輩と、付き合いたいのか?」
「え!? いや、それは無理………っ恐れおおいというかなんというか………」
「………………」

 ふーん…………
 ちょっと安心………、あ、いや、安心してる場合じゃなくて。

「じゃあ、とりあえず、友達からってやつだな」
「あ、うんうんうん。それで充分」
「……………」

 ふーん…………
 ちょっと笑いそうになってしまうのをどうにか押さえる。

「じゃ、積極的に話しかけるってことから始めたらどうだ?」
「話しかけるって………何の話したらいいの?」
「まあ、共通の話題……共通の知り合いの話とか。同じ部活なんだし、いくらでもいるだろ。例えば『田辺先輩って一年生の時どんな感じだったんですか?』とか」
「なーるーほーどー」

 浩介はパアッと明るい顔になり、無邪気に笑った。

「ありがとう!渋谷!やっぱり渋谷に相談して良かった!」
「………………」

 覚悟は、してた……。

 いつか浩介に彼女ができて、おれよりも彼女を優先させる日がくることを……。

 その時、おれは………おれは。

「………『親友』なんだから当然だろ」
「うん!ありがとう~!しぶ……、慶!」
「……………」

 浩介の笑顔………

 もう、何でもいい。
 渋谷でも慶でも何でもいい。
 どんな形であれ、お前のそばにいられれば、それでいい。
 そのためならおれは何でもする。



 今日は写真部活動3回目。ようやく浩介もこられた。

「とりあえず、カメラに慣れろ。細かいことは言わないから、何枚か撮っていいぞ」
「わ~やった~」

 部長の橘先輩の言葉に、浩介は嬉しそうにカメラをいじりながら、窓の外に向かってピントを合わせはじめた。

 小さい子供みたいでカワイイ………

「渋谷先輩」
「ん?」
 トントンと橘先輩の妹、真理子ちゃんに小さく腕を叩かれ振り返る。 

「先輩はどう思います? コンテストのこと……」
「あー、うーん……」

 橘先輩が「今年は文化祭にだけ参加して、コンテストには出さない」と言ったことに、真理子ちゃんは大反対している。

 正直、おれはコンテストなんてよくわからないし、文化祭だけで充分だと思うんだけど………

「せっかく去年も入選したのに、もったいないんです。これじゃ何のために写真部に入ったのか……」
「真理子」

 橘先輩のきつめの声。

「いい加減にしろ」
「だって!」
「そんなに出したきゃ俺抜きでやれ」
「お兄ちゃんが出さないと意味ないでしょ! どうして……っ」
「うるさい」
「……っ」

 真理子ちゃんは涙目で橘先輩をにらみつけると、部室から出ていってしまった。様子を見ていた南が慌てて追いかけていく。
 橘先輩もムッとした顔をして、暗室に入っていってしまった。

「……………」
「……………」

 残されたおれと浩介。思わず顔を見合わせてしまう。

「兄妹喧嘩……」
「にしては、なんか訳ありな感じだよな……」

 まあ、考えていてもわからない……。
 おれ達はとりあえず、各々でそれぞれに与えられた課題をこなしていたのだけれども………

 ふっと浩介に目をやると……

(浩介……、何か……見てる?)

 浩介がさっきまで構えていたカメラを下ろして、じっと外を見ている。
 見ている、というか、ぽや~……っと見とれている……

(まさか…………)

 そっと近づいて外を見て………

「!」

 わかっているのに、胸がナイフで抉られたようになる。
 浩介の視線の先………あの女だ。ショートカットのフワフワした感じの女……

「……………」

 浩介……っ

 そんな目で見るな。そんな愛しそうな視線を送るな。

 やめろ……やめてくれ……

 浩介…………浩介っ、こっち見ろっ 

 おれを…………っ

「浩介!」
「わっ」

 衝動にかられて、後ろから抱きついた。

「…………け、慶?」
「………………」

 ぎゅううううっと力をこめる。
 浩介の温もり、浩介の匂い、浩介の………

「慶? どうし……」
「…………手」
「え?」

 聞きかえされたのと同時に、後ろから浩介の手首を掴んで、外に向かって手を振りながら、叫んでやる。

「せーんぱーい!」
「え、ちょ、慶!」

 そのまま浩介の右手を操って振る。

「せんぱーい!」
「わわわっ慶!」

 慌てる浩介の脇腹をつつく。

「ほら、お前も呼べよ」
「え、え、えーと………美幸さーんっ」
「!」

 名前呼びかよ……っ。

「美幸さー………、あ」
「…………」

 ほっとしたように、にっこりとした浩介……。あの女……美幸さん、が、こちらに手を振りかえしてくれている。今から帰るところのようだ。
 彼女が校門から出て行くのを見送ってから、浩介が「もー」と言っておれを振り返った。

「びっくりしたよーあんな急に……」
「お前がぼけらーっと見てるからだろ。ちゃんとアピールしろよアピール」
「うう……キビシイ……」

 言いながらまたカメラを手にした浩介。でもその口元には幸せそうな笑みが浮かんでいる。

「…………」

 お前が幸せならそれでいい。

 ……なんて思えるようになるまで、どのくらいかかるんだろう。

 浩介がこの恋を成就させることができたら………おれもお前のこと、ただの親友とだけ思えるようになるのかな……。



----------------------------------------




お読みくださりありがとうございました!

察しの良い方はお気づきかもしれませんが……
最後、浩介が幸せそうに微笑んでいるのは、もちろん美幸さんと手を振りあえて嬉しいってのもありますが、こうして慶と恋ばなできたりしたのが、本当の友達って感じがして嬉しいっていうのもあったんですね~。
慶はそんなこと知るわけなくて、どんどんドツボにはまっていく……

続きはまた明後日、よろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~片恋4(浩介視点)

2016年01月17日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋

「大丈夫?」
 そういって、白いハンカチを差し出してくれた美幸さん。

(女神だ……)

 しばらくポカンと見惚れてしまった。
 ふんわりとしたその笑顔は、おれが思い描いていた『女神』の姿そのものだった。


*** 

 せっかく写真部に入部したのに、バスケ部の練習が入ったため行けていない。
 ゴールデンウィーク中も試合と練習があり、親から「ちゃんと勉強してるのか」と言われてしまったため、一日だけあった休みも家でずっと勉強するはめになり、結局、親友である渋谷とも全然遊べなかった。


 ゴールデンウィークが空けて二日目の水曜日。

 委員会の仕事でバスケ部の練習に行くのが遅れてしまったのだが、体育館に着くなり、

「桜井、外周10周!走ってこい!」

 部長の田辺先輩に言われて、あわてて外に戻った。みんなはもう走り終えて戻ってきたらしい。
 早く走って戻らないと……と、気が焦っていたせいだろうか。8周目の途中で派手にすっころんでしまった。

「痛……っ」

 左の肘、血が出てる……
 ああ、しまったなあ……ジャージの上着にハンカチとチリガミ入れてあったけれど、体育館に置いてきてしまった……
 とりあえず、このまま保健室に行くか……そんなことを思いながらしゃがみこんでいたら、

「大丈夫?」

 凛とした、女性の声。

「え……」
 見上げると……ハンカチが差し出されていた。

(女神だ……)

 ポカン、としてしまう。
 その優しい笑顔はまるで女神のようで……

 えーと、この人は、女子バスケ部の……

「あの……先輩」
「え」

 彼女は、あはは、と笑って、

「先輩っていうのやめて。こそばゆい」
「………」

 女子バスケ部の子達は名前にさん付けで呼び合っている。名前で呼び合っているので名字が分からない。確かこの人は……

「えーと……美幸さん」
「そうそう当たり。っていうか、ほら、血、垂れてるよ」
「え」

 白いハンカチを躊躇なくおれの傷口に当てくれた美幸さん。

「ハンカチ汚れちゃいますよっ」

 やめさせようとしたけれど、美幸さんは「いーからいーから」と笑って、

「保健室いこ、保健室」
「え、いえ、一人で大丈夫です」
「いーじゃん。外周サボりたいから一緒に行くよー。はい、立って?大丈夫?」
「!」

 顔を至近距離でのぞかれ、カアッとなる。女の人の……ふんわりした髪の匂い……。

「えーと、君は……しのさくらの……」
「あ、桜井、です」

 しのさくら、というのは、篠原と桜井の略。同じ日に同じくバスケ未経験で入部した篠原とは何かとペアを組まされることが多くて、いつの間にバスケ部内では二人合わせて『しのさくら』と呼ばれるようになっていた。

「しの、じゃなくて、さくらのほうね」
「はい」

 歩きながらも、ふわっと良い匂いが漂ってくる。
 フワフワ、フワフワ…… 
 なんだか体が軽くなったような感じだ。


**


 お借りしたハンカチに血が付いてしまったので、どうしようかと思ったのだけれども、帰宅後、母に見せたらすぐに染み抜きをして洗ってくれ、アイロンまでかけてくれた。いつもは、嫌悪の対象でしかないはずの母だけれども、今回ばかりは本当に本当に本当に感謝の言葉しか出てこなかった。


 翌日、部活にいってすぐに、美幸先輩にその綺麗になったハンカチを返した。
 雨なので部活中止になるのかと思いきや、バトン部が体育館を譲ってくれたそうで、助かった。また写真部に参加できないのは申し訳ないけれど。


 ハンカチと一緒に、お礼の品(男子バスケ部御用達の駄菓子屋のチョコレート)を渡すと、

「私、その駄菓子屋、一回しか行ったことないんだよー。連れて行ってくれる?」

 そうニコニコ言われ、思わず二つ返事で練習の帰りに一緒にいく約束をしてしまった。

(先週の木曜日は渋谷と約束して一緒に帰ったけど、今日は約束していないから大丈夫だよな……)

 どのみち雨だから、自転車で家の前まで送ってあげることもできないし、まあいいか、と結論付け、雨の中、美幸さんと一緒に駄菓子屋へ行った。
 いつもよりも少しゆっくり歩くことも、男は目に止めないような、小さなメモ帳とかキラキラしたシールとかを彼女が手に取っている姿も新鮮……。

 心の中で、渋谷の下駄箱に靴が残っていたことが気にかかったけれど、まあ、約束してないから、渋谷がおれのことを待っているってことはないだろう、と自分を納得させる。

 案の定、翌日、渋谷は何も言ってこなかった。安心したような、おれがどうしたかなんて渋谷には興味がないことなんだな、と思ってガッカリしたような……。
 やっぱり渋谷にとって、おれの存在なんて些細なものでしかないのかな……。


***


 週末、大きな試合があった。
 その打ち上げの席でも、少しだけ美幸さんと話せて、ちょっと浮き浮きしてしまっていたら……

「さーくらーいくーん!」
「え」

 いきなりガシッと後ろから頭を抱えこまれた。篠原だ。

「な、なに!?」
「なに、じゃないでしょー」

 そのままズルズルと壁際に連れていかれ、しゃがまさせられる。
 篠原はニヤニヤとおれの顔をのぞきこむと、

「桜井、美幸さんのこと狙ってるでしょ?」
「え」

 狙……狙ってるって!!
 途端に、自分でも赤くなったのが分かった。
 篠原が笑いながらおれをつついてくる。

「わっかりやすーい」
「え、そんな……っ」
「こないだ一緒に駄菓子屋も行ったよね?」
「え…っ」

 どうしてそれを!!

「一年の奴が見たって。それに今日もなんだかんだ話してたしね~」
「それは……その」

 うひひひひ、と篠原は変な声で笑うと、

「いいじゃん。美幸さん。彼氏いないらしいし」
「え、そうなの?」
「らしいよ。ってやっぱ喜んでんじゃんっ」
「いや、そんな……っ」

 言いながら、チラッと美幸さんの姿を見る。……やっぱり女神だ。狙ってるなんてそんな恐れおおいというか………

「相談のるよー」
「相談って……」

 篠原はしつこくまたつついてきたが、「あ、そうか」と言って手を止めた。

「桜井って、あの渋谷慶と仲良いんだっけ?」
「え? あ、うん」

 どうしてここで渋谷の名前が? って、それに『あの』渋谷ってどういう意味?

「渋谷に相談してるんだ? だって、渋谷ってあれなんでしょ? 中学の時、女落としまくってたんでしょ?」
「………………………………え!?」

 落としまくって!?

「まあ、あの顔だもんねーああ羨ましい」
「え、え、ええ!?」

 し、渋谷が女落としまくって………?
 でも、考えてみたら、渋谷は男女問わず誰とでもすぐ仲良くなって………

 おれがアワアワしていたら、篠原がキョトンとなった。

「え、そういう話、全然しないの?」
「う………うん」
「えーーーー」

 篠原は呆れたように肩をすくめた。

「それ、ほんとに仲良しなのー?」
「え」

 グサッ

「女の話もできないなんてーホントは心開いてないんじゃないのー?」
「う………」

 そ、それを言われると…………
 たぶんおれが全然女っ気がないから、渋谷もそういう話、したくてもできなかったのでは………

 と、そこへ。

「しのさくらー? 二人してなーにこんな隅っこに固まってるのー?」
「!」

 み、美幸さん………
 いきなり声をかけられ焦ってしまう。

 篠原がヘラヘラと美幸さんに言う。

「しのさくら、さくらの方が美幸さんと話したいらしいので、しのは退散しまーす」
「篠原………っ」

 止めるのも聞かず、篠原はスキップしながら行ってしまった……。残されたおれはどうしたら………っ。

「話?」
「え、いや……っ」

 美幸さんに聞かれ固まってしまう。そんな話なんて何も……っ

「何の話してたの?」
「あ…………えーと…………」

 何の話って…………
 ぐるぐると頭をめぐらせ、最後にした話を思い出す。

「あ、あの、僕の友達の話、です」
「友達…………って、もしかして、渋谷君のこと?」
「え?」

 な、なんで美幸さんまで渋谷のこと知ってるんだ!?

「あれよね。『緑中の切り込み隊長』」
「あ、はい」

 緑中の切り込み隊長っていうのは、渋谷の中学校時代のバスケ部でのあだ名。渋谷という人は、この近辺の中学校のバスケ部の間ではかなりの有名人だったらしい。

「すごい人気だったのよねーファンクラブみたいなのもあったらしいよー」
「へえ………」

 そうしたら『女落としまくってた』っていうのも、あながち噂だけではないのか………

「特定の彼女とかいなかったらしいから、余計にモテてたのかもね」
「あ………そうなんですか」
「やっぱりモテると逆に特定の子作るのも難しいのかな」
「…………」

 美幸さん………視線の先には、キャプテンの田辺英雄先輩?

 ああ、田辺先輩もモテるもんな。今も女子バスケ部の人達に囲まれている。この人もやっぱり渋谷ほどではないけれど、オーラがある。

「!」
 ふっと美幸さんに視線を戻して……ドキッとした。その横顔………本当に女神のようだ。光がさしてみえる。

「…………あ」
 ちょっと離れたところで、篠原がニヤニヤと手を振っている。

『美幸さんのこと狙ってるでしょ?』

 狙ってる……って、それは………好きってこと?

 再度美幸さんに視線を戻す。美幸さんの女神のような微笑み………ずっと見ていたいと思うような、優しい笑み………

(好き…………?)

 気になってそちらを見てしまう。話すとドキドキする。

 そうか……これが、好き? これが、恋?

(渋谷………)

 明日、渋谷に話してみよう。
 こういう話をしたら、おれ達、もっと仲良くなれるのかな? 本当の親友になれるのかな………。



----------------------------------------

お読みくださりありがとうございました!

篠原君は、恋愛第一主義。女バスに可愛い女の子が多い、という理由で高校からバスケ部に入ったような子です。
篠原君にたきつけられ、美幸さんのことを好き?と思いはじめた浩介君……。

続きは、火曜日メンテらしいので、火曜をさけるため、明日更新します。どうぞよろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~片恋3(慶視点)

2016年01月15日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋


 ついに、恐れていた瞬間がきてしまった。

「好きな人が、できたんだ」

 そう浩介が、恥ずかしそうに、言った。



 話は4日前に遡る。


 5月の第2木曜日。写真部活動2回目。
 せっかく同じ部活に入ったというのに、浩介は1回目も2回目も来ていない。バスケ部で大きな試合があるため、木曜日も練習になってしまったからだ。

 今日は雨だから練習ないと思ったのに、バトン部が体育館を譲ってくれたとかで(譲るなよ!)今日もこない……
 ゴールデンウィークも試合や練習で全然遊べなかったし……バスケ部の存在が恨めしい……


「お兄ちゃん、楽しい?」
「………おもしろい」

 妹、南の言葉に適当に肯く。
 今、現像液というのを作っている。化学の実験みたいで面白い。おれは写真を撮ったりするより、こういう作業をしているほうが性に合っている。
 そんな中で……

「………あ」
 横でシャッターを切る音がした。まただ……

「あのー……」
「気にするな。続けろ」
「気にするなって言われても!」

 横で写真を撮られて気にならないわけがない!!

 前回もそうだったのだけれど、部長である橘先輩がやたらとおれの写真を撮ってくるから困っている。

「もう、お兄ちゃん!」
 妹である真理子ちゃんのたしなめも聞かず、橘先輩はジーッとカメラを構え続けていて……困る。

「いいじゃないの。お兄ちゃん。減るもんじゃなし」
「うるせーよ」

 南がニヤニヤと言うので言い返す。あっちでもお兄ちゃん、こっちでもお兄ちゃん、紛らわしい。でも、真理子ちゃんの「お兄ちゃん」は軽やかで可愛らしくて、南の「お兄ちゃん」は低くてかわいげがないので間違えることはない。

「お兄ちゃん、渋谷先輩モデルの写真を次のコンテストに出すつもりなの?」
「いや」

 真理子ちゃんの問いに、橘先輩はようやくカメラから目を離した。

「今年は出すのをやめようと思っている」
「え?」
「今年は文化祭だけでいい」
「えええええ?!」

 真理子ちゃん、悲鳴みたいな声をあげた。
 おれと南は様子が分からず、きょとんとしてしまう。

「どうして? どうして出さないの?!」
「……………」

 橘先輩はなぜかちらっと、自分が昨年撮って入選したという、バレーボール選手の写真を見ると、またカメラに視線を戻した。

「俺以外はみんな初心者なんだし、文化祭で充分だ。っていうか、文化祭に出せるレベルのものが撮れるかどうかも怪しいくらいだろ。5分後に撮影練習はじめるぞ」
「えー……」

 ブツブツ言う真理子ちゃんを置いて、おれと南で片付けをはじめる。……と、またシャッター音……。

「だから、先輩……」
「気にするな。さっさと片づけろ」
「………」

 ホントに……どうにかしてほしい……


***

 カメラの操作の練習をしていたら、あっという間に5時半になってしまった。

 バスケ部の練習が終わったら一緒に帰ろうって言おうと思っていたのに、浩介は今日一日中なんかソワソワしていて、その上、帰りのホームルームが終わった途端、ものすごい勢いで部活に行ってしまったので、声をかけそびれてしまった。

 まあでも、先週も、バスケ部が終わってすぐに写真部の部室にきてくれて一緒に帰ったし、言わなくてもここで待っていれば来てくれるんだろう、と思いながら、部室の窓から外を眺めていたら……

「あれ……」

 浩介がいる。
 昇降口を出たところで、浩介が傘をさして立っていた。もう制服に着替えているしカバンも持っているので、あとは帰るだけの状態だ。

「なんだ?」
 おれ達は下駄箱の場所も上下なので、靴に履き替えた時におれが校内にいることは分かっているだろう。入れ違いになるのを避けるためにそこで待ってるのか?

「雨降ってるのに……」
 バカだなあ……と思いながら、それじゃ、すぐに下に降りるか、と立ち上がった、その時だった。

「…………え?」

 浩介が、昇降口からでてくる誰かに向かって手を振っている。

(………誰だ?)

 赤い傘が浩介の前で止まった。

 何か話している……

 浩介、笑ってる………

 そして、校門の方に向かって二人並んで歩いていく。おれの見ている真下を通って。
 浩介、こちらに気がつきもしない。おれがいるっていうのに……

(………誰だよ?)

 赤い傘が傾いて、さしている女の横顔が見えた。ショートカット……結構美人……。
 見たことあるような……たぶん同じ学年ではない。先輩……?

 浩介の黒い傘と、その女の赤い傘は、並んで校門から出ていってしまった。

 おれが待っていたのに……待っていたのに、気がつかないで、行ってしまった。


***


 翌日、浩介は何も言わなかったから、おれも聞かなかった。というか、聞けなかった。というか、聞きたくなかった。

 浩介は、なんとなくフワフワしている感じがしたけれども、それもおれの考えすぎかもしれないし、そうなのかもしれないし、分からない。

 だいたいあの女はどこのどいつなんだ……

 という謎は週末に解けた。
 週末のバスケ部の試合を見に行ったら、女子バスケ部の集団の中にあの女がいたからだ。やっぱり結構美人。スタイルがいい。おれと同じくらいの背だろうか……。

 浩介、またあの女と少しだけ話しをしていた。
 浩介のあの表情、あれは………。
 考えたくなくて、思考を停止させる。考えたくない。考えたくない……。


 そして………月曜日の放課後。
 中間試験一週間前で部活停止のため、いつものようにおれの部屋で一緒に勉強していた最中、恐れていた瞬間が訪れた。

「慶………相談があるんだけど」
「……………」

 浩介のはにかんだ笑顔………
 嫌な予感しかしない。聞きたくない。聞きたくない………

 耳を塞ぎたいのを理性で押し留めて、「なんだ?」と浩介に問いかけると、

「おれ………」

 浩介は今までに見たことがないくらい真っ赤になって…………

「おれね」

 恥ずかしそうに、言った。

「好きな人が、できたんだ」
「……………………」

 ああ………夢なら覚めてくれ。 

 

----------------------------------------

お読みくださりありがとうございました!
夢なら覚めてくれーって感じで(^-^;
また明後日、よろしくお願いいたします!

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます。これから慶君どん底に落ちていきますが……今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!


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