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風のゆくえには~現実的な話をします 3 +おまけはBL

2017年03月14日 07時23分30秒 | 風のゆくえには~現実的な話をします


【有希視点】


2016年10月10日(月)


 バーベキュー翌日の夜、約束通り、溝部からラインが入った。

『陽太、今ゲームできる?』

 伝えると、陽太は「しょうがねえなあ」といいながら、嬉しそうにゲームを立ちあげた。

 溝部から誘われるかもしれないから、と、いつもは言っても言ってもなかなかやらない宿題を今日は自分から終わらせていた陽太。その点では有り難いといえば有り難いけど……。

 陽太は、真剣な顔をしていたかと思ったら、急に 叫んだり笑ったり。自分がやらないので、まったく分からない世界だ。
 一時間くらいしてからそれは終わったようで、

「あーあ。まだやりたかったのに、『お前の母ちゃん恐いからまた今度』だって」
「…………」

 また今度!? 恐いって……

「え、話できるの?ゲームの中で?」
「うん」
「へえ~……」

 知らなかった。すごいな……。と、文明の発達に感心していたところで、

『陽太のおかげで欲しかった装備揃えられそう。サンキューなー』

 溝部からラインが入った。装備ってなんだろう……
 こちらが返すよりも早く、次のメッセージ。

『お礼に飯おごらせて』

 ………………は?

『陽太、何食いたい?』

 ………………。

 画面をみて固まってしまった……。

 なんだろう……
 嫌悪感……までは大袈裟だけど、なんかゾワッとくる感じ。

 陽太に父親を思い出させたくない、父親を連想させるような大人の男の人と接してほしくない、という気持ち。

 それに……

『今だから言います! 鈴木さん、好きでした!』

 去年の6月の同窓会で、溝部がみんなの前で言った言葉を思いだす。
 聞いた時には、「いつも喧嘩ばかりしていたのに、何をいいだすんだこいつは」って感想しか持てなかった。それにその後、渋谷君と桜井君の家で飲んだ時も、溝部は今までとまったく態度が変わらなかったし、先日のバーベキューでも同じだったし、あの告白は冗談だと思うことにしたんだけど……

(こう誘われると……)

 恋愛から離れて15年以上……。鈍った恋愛アンテナではよく分からない。分からないけれども、もしかして、陽太に近づいたのも、私に近づくためだとしたら、嬉しそうにしている陽太がかわいそう過ぎる。

 心を決めて、『お礼は結構です』とだけ入れた。……が。

「……うわ」

 速攻で、『そんなこと言わず』とか、『うまいもん食わせてやる』とか、矢継ぎ早にメッセージが入ってきて(溝部、スマホ打つの早すぎ)、しまいには、

『別にお前来なくていいし。陽太と行きたいだけだから』

とまで書かれてしまった。その後も、直接会ってやった方が連携とれやすいから会ってゲームがしたい、だの、またキャッチボールしたい、だの……

(……だよね)

 私目当て?とか考えたのが恥ずかしくなってきた……。あの告白が本当のことだとしても、それは高校生の時の話だ。現役女子高生の私ならともかく、こんなオバサンには興味ないだろう。溝部は、有名メーカーにお勤めだし、金回りも良さそうだし、女に不自由はしていないに違いない。

(……結構お洒落だしね……)

 ふっと、元夫の姿が目に浮かんで首を振る。
 やっぱり、大人の男の人と陽太を会わせたくない……

『ごめん。行きません。行かせません』

 そう打つと……しばらーくたってから、ポツン、と返事がきた。

『わかった。しつこく誘ってごめん』

 ……………。

 あ、なんか申し訳ないことしたな……と、ちょっと胸のあたりがキュッとなったのに……

『でも、礼しないと気が済まねーんだよ。オレの自己満足につきあえ。いつでもいいから連絡待ってる』

 ……………。

「……………うざっ!」

 やっぱり溝部、うざいーーーー!!




【溝部視点】


2016年10月20日(木)


 恋というのは、一目惚れから始まるものだと思っていた。高校2年生のあの時までは。

(あの時…………)

 心臓を鷲掴みにされる、というのはこういうことを言うのか、と思った。


 高校2年生で同じクラスになって以来、ことあるごとに対立していた生意気な女、鈴木有希。

 綺麗な顔はしているけど、可愛げがない。色気がない。サバサバしていて男っぽかったから、バレンタインにチョコをたくさんもらうくらい女子からモテていた。

 オレは子どもの頃から、可愛いくて女の子らしい子が好きで、恋の始まりは必ず一目惚れだったので、鈴木のことはまったく眼中になかった。でも、その、打てば響く会話を楽しんでいたことは否定はできない。同性の喧嘩相手、って扱いだった

 でも、あの時……偶然、一人静かに涙を流し続ける鈴木の横顔を見て……オレは恋に落ちた。
 元々好きだったのを、その涙で自覚したのかもしれないし、今で言う『ギャップ萌え』というやつだったのかもしれない。それは分からないけれども……

 とにかく、それからのオレの恋愛人生は、鈴木有希に呪縛されることになる。


***


「オレ、何か失敗しました!?」
「うーん……失敗はしてないと思うんだけど……」
「いや、さすがにしつこいんじゃねえか?」
「まあでもさあ、いつでもいいからって書いたんだから、まだ気長に連絡待とうよ」
「だな。まだ10日だろ」

 桜井&渋谷カップルが呑気にいうのに、食いついてやる。

「まだ10日、じゃない!もう10日、だ! お前ら他人事だと思ってー!」
「まあまあ、溝部、お腹空いて気がたってる?」
「先食うか?」
「いや、いい」

 今日は木曜日。毎週木曜の夜はいつも一人だという山崎の都合に合わせて、桜井と渋谷の家に集合をかけたのだけれども、8時になっても山崎がまだ来ていないのだ。

「ゲームして待ってる」
「それ面白い?」

 コーヒーのおかわりを入れてくれながら聞いてきた桜井にコックリとうなずく。

「こないだ陽太とやって色々教えてもらってから俄然面白くなってきた」
「へえ……」

 そうなのだ。鈴木と会いたいというのはもちろんあるけれども、陽太に会いたいって気持ちも同じくらいある。オレにもし息子がいたらこんな感じかな……なんて思って嬉しくなってくるのだ。陽太は鈴木に似て、小学4年生ながら、打てば響く会話ができるのもいいし、キャッチボールも楽しかったし、ゲームも………

「あああ!!!」

 画面を見て叫んでしまった。陽太が集会所に招待してくれた!! あわてて行ってみると、

『みぞべの車、何人乗り?』

 久しぶり~~の挨拶もなく、いきなりの質問。戸惑いつつも、

『8人乗り』
『ト○タのア○ファード』

 答えると、しばらくの間の後、

『あさって、車かりれる?』

 ??? 何なんだろう? 分からないけど、『大丈夫』と答えると、

『あとでお母さんから連絡する』

 お!? なんだなんだ!? 
 でも、その前に!

『みぞべ、レベル上がったな』
『なんかやりたいことある?』

 陽太からの誘いに俄然、テンション上がってきた!

『ある!』

 あとで連絡? 車? 何でもいい!
 よし。一歩前進しそうだ!

「あ、山崎きた」
「溝部、ご飯……」
「悪い!」

 二人の声に速攻で答える。

「先食べててくれ! オレはこれから狩りに行く!」
「はあ?」 
「へえーホントにそういうこと言う人いるんだ……」

 何とでも言え!
 呆れた感じの二人の声を無視して、オレは狩りにいく。陽太と一緒に。


 一時間後、陽太と別れた直後に、鈴木からラインが入った。

『車を貸してください』
『陽太の野球チームでいつも車出してくれる人の一人が、今度の土曜日どうしてもこられなくて』
『子供たくさん乗せたいんだけど、車、土禁とかじゃない? もちろん清掃して返すけど、少し汚れても大丈夫?』

 おお、なるほどなるほど……

『全然大丈夫! 運転手付きでお貸しします』

 ウキウキして答えたら、速攻で、

『運転手いらない。全然いらない。絶対いらない。車だけ貸してよ』

 …………。なんだとーっ!

『オレも陽太の野球みたいんだけど!』
『無理』
『なんで!?』
『対戦相手の学校の駐車スペースが限られてるから、まとまって車で行くの。保護者含めて、もう定員オーバー』

 …………。だったら!

『じゃあ、オレは歩いて行く。場所教えろ』
『はあ?なんでくるの?バカじゃないの?』
『誰がバカだ!小学校だったら別に行けるだろっ教えろっ』
『行けるけど、山の上だよ。かなりの急坂』
『元ワンダーフォーゲル部なめんな。町中の坂なんか普通に登るわ』
『え、あんたワンゲルだったの?』
『去年言っただろ!』
『そうだっけ?覚えてない』
『お前もっとオレに興味持てよ!』
『1ミクロンも持てない』

 ああ……やっぱり鈴木だなあ。このノリ、懐かしくて、嬉しくなってしまう。

『来てもいいけど、隠れて見ててよ? 絶対に陽太と私に話かけないでよ?』
『わかったわかった。変装してく』

 ああだこうだとやり取りの後、土曜日の朝に鈴木の実家に車を届けることになった。

 子供の少年野球の応援に行く、なんて、高校時代に描いていたオレの将来そのものだ。
 そして、横に鈴木がいてくれたら、もう言うことはない。完璧だ。




------------------

お読みくださりありがとうございました!
溝部君、中高は野球部でしたが、大学はワンゲル部でした。鈴木さんは中高バレー部。大学はスキー部です。

続きまして今日のオマケ☆

-------------------


☆今日のオマケ・浩介視点


 溝部と陽太君がゲームをしているのを見て、やっぱりちょっと羨ましいな、と思う。

 と、いうのが、おれと慶には共通の趣味が一つもないからだ。

 高校時代は「バスケ」という共通点があった。でも、正直、おれはバスケがすごく好きだったわけではなくて……自分の中にあった「高校3年間バスケ部」という目標を達成したら、もうバスケへの情熱は冷めてしまった。以前勤めていた高校ではバスケ部の顧問をしていたけれど、それはプレーヤーとしてではなく、監督としてだったので、それはそれで面白くはあったけれど……

(おれといて楽しいのかなあ?)

 そんなことを時々考える。
 山崎と戸田菜美子先生は、映画の好みが合うそうで、よく一緒に映画を観に行ったり、ビデオを借りてみているらしい。
 鈴木さんの親友の小松さんとその旦那さんは旅行が趣味で、月に一度は小旅行、年に一度は海外旅行、と決めているそうだ。

 おれと慶は、映画の好みも違うし(慶はアクション物が好きだけれど、おれはヒューマンドラマが好き)、旅行も、慶は食べる系、おれは歴史系。唯一、温泉でのんびり、は二人とも好きかな……

 こうして家にいても、おれは本を読んでいることが多いけれど、慶はテレビを見ていたり、仕事をしていたり、筋トレをしていたり……

「何? どうかしたのか?」
「あ、ううん……」

 ソファーに座って本を開きながら、慶が柔軟をしているのをぼんやり眺めていたら、終わったらしい慶に声をかけられ我に返った。

「あいかわらず体柔らかいなあと思って……」
「そりゃ毎日の積み重ねだ。お前も毎日やればこんくらいになるぞ」
「あ、耳が痛い」

 大袈裟に眉を寄せると、慶はクスクス笑いながら、テレビをつけて、おれの横に座った。いつも見ているニュース番組のスポーツコーナーの時間だ。でも、

「もし寝たら起こしてくれ」
 そう宣言すると、体をずらして、おれの膝にとん、と頭を預けてきて……

(膝枕、だ)
 今さらながらキュンとなる。読んでいた本を閉じて、ゆっくり慶の頭を撫でる。

「寝たら起こしてって、寝る気満々じゃん」
「いや、寝ない。寝ないぞ」

 言いながらも目がつむりそう……。愛しい気持ちでいっぱいになりながら頭を撫で続けていると、

「あー……」
 CMを見ながら、慶がボソッとつぶやいた。

「お前がいるっていいなあ……」
「……え?」

 聞き返すと、慶はおれの膝を撫でながら、しみじみ、というように言った。

「こういうの、至福の時っていうんだろうなあ」
「慶……」
「あ、はじまった」

 パチッと目を開けた慶。興味のあるニュースらしく、真剣に見ている。

(………至福の時、だって)

 お前がいるっていいなあって……
 慶は、おれが「いる」だけでいいんだ……

 おれも慶がこうしていてくれるだけで、それだけで、幸せ。

 閉じていた本を左手で開いて、読書を再開する。右手で慶の頭を撫でながら。

 二人、違うことをしていても、同じ空間にいられるだけで、それだけで幸せだ。




-------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
趣味の違う2人、でも一緒にいられるだけで幸せ^^

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!!泣けます……感謝感謝でございます。
毎週火曜日と金曜日の朝7時21分頃に更新する予定です。
次回は3月17日金曜日、どうぞよろしくお願いいたします!

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風のゆくえには~現実的な話をします 2 +おまけはBL

2017年03月10日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~現実的な話をします


【有希視点】


2016年10月9日(日)


 たいして行きたくもない同級生の集まりに、二つ返事で「行く」と答えたのは、陽太の所属する少年野球チームの練習を見に行かない正当な理由が欲しかったからかもしれない。

 当番じゃない親は行かなくてもいいのだけれども、ほとんどの子の父親が、お父さんコーチをしているので、母親が来なくても父親は来ている。父親がいない陽太には、私しかいない。

 保護者の人達は、皆いい人ばかりで、うちが片親なことも理解して受け入れてくれているし、それについて何か言われたこともない。
 でも、やはり、その場に居づらい……と思う瞬間が度々ある、というのが正直なところで……

 そんな裏事情があって参加することになったバーベキュー大会。
 午前中からの雨で野球も中止になったので、バーベキューも中止になるかと思いきや、

『午後は晴れる!晴れ男渋谷様がいるから大丈夫!』
『つか、肉大量に仕入れちゃったから中止は無し! 屋根あるから大丈夫!』

と、やたらテンションの高い、幹事の溝部のラインメッセージが、今回のバーベキューのためのライングループの中に何件も入ってきて……

「…………うざっ」

 溝部、あいかわらずウザイ!
 思わず声に出してしまったら、なんだかおかしくて笑えてきた。

 私はこんなに変わったのに、全然変わらないでいる溝部。つられて私も変わる前の私に戻れそうな気がする。

 真っ直ぐ前だけを向いていた、あの頃の私に。


***



 今回のバーベキュー大会は、山崎君の結婚祝いと、私たちの母校・白浜高校を目指して頑張っている斉藤君の息子さんの激励会、ということで開かれたらしい。

 よってメンバーは、

 山崎君と山崎君の奥さんの菜美子ちゃん(なんと今日婚姻届けを提出してきたそうだ。そんな大切な日にバーベキューなんか来て良かったの?と聞いたら、山崎君は苦笑いしていた。あいかわらず、溝部は強引に山崎君を引っ張り回しているらしい)

 斉藤君とその奥さんと中3の息子さんと中1の娘さん。

 長谷川委員長とその奥さんの沙織(この2人は高校の同級生カップルだ)と小3の娘と年長の息子。

 小松ちゃんと、その旦那さん。

 私と陽太。

 渋谷君と桜井君(あ、この二人も高校の同級生カップルということになるな)。

 それから、幹事の溝部(あ、溝部だけ誰とも一緒じゃない……)

 総勢17人。でも、会場である溝部の家は、庭もすごく広くて、庭の端に大きな屋根もあるため(元々庭で畑をやっていて、収穫したものを一時的に置いておくためのスペースだったらしい)、降ったり止んだりしていた雨に影響されることもなかった。


 そして、バーベキュー自体も大変スムーズに行われた。
 6歳年上の小松ちゃんの旦那さんがいわゆる「バーベキュー奉行」で、全部仕切ってくれて、やたらと手際のいい桜井君が野菜を切るのとか全部やってくれて……

「今日は主婦休みの日だから、奥様方は何もしなくて結構です!」

 溝部が喜々として言って、自分も小松ちゃんの旦那さんの指示に従って、セコセコと働いている。
 溝部って昔から、発言力もあって仕切ることもできるのに、仕切れる人がいると全部そちらに任せられる度量の広さがある。場の雰囲気とかそこにおける自分の立場とか、そういうものに敏感なんだと思う。

「おれも主婦なんだけどなあ?」

 テキパキと野菜やキノコ類の用意をしながら桜井君がいうと、それを運ぶ溝部は軽く笑って、渋谷君をアゴで指した。

「じゃあ、渋谷にやらせろよ」
「それはダメ。使い慣れない包丁使って怪我したら困るから」

 桜井君、あいかわらず渋谷君を溺愛してるんだなあ。この二人も変わってない。

 斉藤君のうちの子供二人も思春期真っ只中だろうに、よくこんな父親の同級生の集まりなんて来てくれたな、と感心して奥さんに聞いてみたところ、

「長男は肉で、長女はイケメンで釣ったの」

 とのことだった。渋谷君のイケメンっぷりは、今時JCにも有効らしい。そしてJSにも有効らしく、沙織の娘も一緒になって頬を紅潮させながら渋谷君に話しかけている。今時の子は積極的だ。

 うちの小学校4年生の陽太といえば……

(あ、またゲームやってる……)

 みんなの輪から抜けて軒下の隅に腰かけて、一人携帯ゲーム機に向かっていた。
 こっちに着いたらしないでねって言ったのに……

「もう、陽………」
 声をかけようとしたところで、言葉を止めた。

(………溝部)
 あちこち動き回っていたはずの溝部が、いつの間に陽太の横にいた。何か話しかけている。でも、画面から目を離そうともしない陽太……態度悪すぎ。

(ああ、イライラする)
 ああいうところ、本当にイライラする。どうしてあの子はああなんだろう。家にいてもゲームばかり。こちらが話しかけても生返事で……

 ふっと周りに目をやり、余計に落ち込む。

 斉藤君の息子君は、斉藤君と小松ちゃんの旦那さんと三人で肉の話で盛り上がっていて、沙織の息子君は沙織にべったりくっつきながらも、菜美子ちゃんと何か話していて……。
 どうしてうちの子はああなんだろう。あんな風に冷めてて、すかしてて。私の育て方が悪かったといわれればそれまでで……でも……

「うわっお前すげーな!」
「!」

 溝部のあいかわらずの馬鹿でかい声にハッと我に返る。……何?

「お前強えなー。後で一緒にやってくれよー」
「………。何で?」
「欲しい素材があるんだけどオレ一人じゃ取るの無理でさー」
「………」
「で、こないだネットで全然知らない奴とやったら、オレ弱いからすぐ死んじゃってボロクソ言われてさ。もう二度と知らない奴とはやんねーって思って、そのまま取れてなくて」
「………。オレもボロクソいうよ?」
「直接ならいい。画面に「シネ」とか書かれると凹む」
「………。そんなことは言わないけど」
「じゃ、よろしくな! あ、そろそろ肉焼きあがりはじめるぞ?」
「………」

 陽太は画面と溝部と見比べてから、パタンとゲームを閉めると、溝部の後について立ち上がった。そのまま二人で何かゲームの話をしている。

(…………溝部)

 さすがだな、と思う。溝部って昔からそういう奴だった。クラスの輪に入れてない子に、それとなく声をかけたり……

(まあ、それでウザがられてたりもしてたけど)

 ふっと笑ってしまうと、すかさず溝部が突っ込んできた。

「今、笑ったか?」
「え」
「なんだよ、呆れてんのか? あーやだねえ、ゲームの面白さが分かんない奴はっ!」

 ゲーム? ああ、ゲームの話をしていることを笑ったと思ってるのか。

「いや……溝部、全然変わってないなって思って、ちょっとおかしくなっただけ」
「なんだそれは。オレが高校から成長してないとでも……」
「してないじゃん。ゲームしてるなんて子どもみたい」
「ばっかだなあお前!今やゲームに年齢の壁はないんだぞ! なあ?陽太!」

 ぽん、と肩をたたかれた陽太。さっとその手を払い除けると、高飛車に言ってのけた。

「陽太さん、だろ? オレの方がレベル高いし」
「なんだとー!みてろよすぐに追い抜いてやるー!」

 うりうりと頭を撫でられ、陽太はムッとした顔を作ろうとして失敗して、変な顔をして笑った。

(…………陽太)

 胸が詰まる……。こうして撫でてくれる男の人の大きな手を陽太から奪ったのは私だ。私がもう少し我慢すれば、もう少し見て見ぬふりを続けられたら、この子から父親の手を奪うことはなかったのに……


***

 これでもかというくらい、お肉を食べて、食後にケーキまで出てきて、その上、本当に上げ膳据え膳。

「天国だわあ」
 斉藤君の奥さんがビールを飲みながら呟いた。帰りは斉藤君が運転してくれるから飲めるらしい。斉藤君より5つ年上の奥さんは、頼りがいのある姉貴っていう雰囲気。斉藤君、尻に敷かれてる感じがする。

「溝部君っていい男だよね」
「…………は?」

 奥さんの言葉に耳を疑う。え、どこが?

「尽くす男って感じ」
「ああ……そう、ですね」

 確かに今日もみんなに尽くしてたか……

「子どもの扱いも上手いし」
「………え」

 奥さんの視線を追って庭に目をやると、陽太と溝部がキャッチボールをしようとしていて驚いた。さっきまで軒下でゲームをしていたのにいつの間に……。降ったりやんだりしている雨も今はあがっているようだ。

「おー、ナイスボール。いい球投げるじゃん、お前」
「当たり前っ」
「お!いいねー」

 陽太の生意気な口調も気にならないように、溝部は笑っている。

「良い父親になりそう」
「ああ……そう、です……かね……」

 奥さんの言葉にうーん、と唸ってしまう。

(良い父親……良い父親ってどういう人のことを言うんだろう……)

 陽太にとって、父親は、何でも買ってくれて、甘やかしてくれる人、という認識だろう。元夫は、自分の気が向いたときだけ、陽太のことを猫可愛がりする人だった。

 でも、本当にしてほしいこと……例えばこんな風にキャッチボールをしてくれたことは一度もない。自動車ディーラーである元夫は、土日はほとんど仕事だったので、陽太の少年野球の試合も一度しか見に来たことはないのだ。

 それでも、父親は父親……。
 私の選択は正しかったのだろうか、と、この一年ずっと自問自答し続けている……と、

「鈴木!」
「……っ」

 いきなり名前を呼ばれ、ドキッとする。
 旧姓に戻って10ヶ月目なのに、いまだに変な感じがする。結婚生活15年でしみついた「田中」姓がまだまだ抜けきらない。

「お前の息子すげーぞ!」
「え?」

 溝部のデカイ声に、陽太を見ると、陽太は照れたように溝部に叫んだ。

「溝部、大袈裟!」
「お前、年上呼びつけにすんな! 溝部さん、だろ」
「お前が『さん』なら、オレは『さま』だ!」
「年上にお前言うな! 陽太さまっ」
「うわ、ほんとに『さま』って言ったー」
「お前が言えっていったんだろー!」

 …………。溝部、小学生か。

「……で、何?」
「フォークだよ!フォーク!」
「は?」

 フォーク?って、え、まさか。

「小4でフォーク投げられるなんてすげーじゃん!」
「ちょっと、陽太!」

 小学生は体の発達を考えて、変化球の投球は禁止されている。

「フォークなんか投げちゃダメじゃん!」
「え、そうなのか?」
「みんなやってるよ。試合で使わなきゃいいだけだろ。つか、オレ、ピッチャーじゃないから関係ねえし」
「陽太……」

 陽太は元々ピッチャー志望で、以前所属していた野球チームでは、ピッチャー候補と言われていた。
 でも、ティーボール(3年生の12月末までは、バッティングティーを使うため、ピッチャーはいない)が終わると同時に、離婚により引っ越しをしたため、そのチームを退団することになり……。

 新しい野球チームには、4年生から本格的に入ったので、すでにいるピッチャーを押し退けてまでピッチャーをやりたい、とは言えなかったらしい。

「あーそうなのかあ。なんだ。もったいねえなあ。いや、ほんと、すげー落ちたんだよ!」
「だから溝部大袈裟ー」

 あはははは、と笑った陽太。グローブをした陽太がこんな風に笑うのを久しぶりに見た。

 陽太は今、打撃面でも伸び悩んでいるのだ。ティーではあれだけ打てていたのに、ピッチャーからのボールは打つことができず、バッティングセンターにもしょっちゅう連れていっているけれど、今のところ成果はみられず……


「あ!見て!」
「虹!ママ、虹ー!」

 沙織の子ども達のはしゃいだ声に、皆一斉に空を見上げた。

 ぼやっとした虹……でも、綺麗。

「わあ、虹だ……」
「おー、虹だあ」

 ポカーンと口を開けて虹を見上げる陽太と溝部。妙に、似てる……

(兄弟みたい)

 そんなことを思った。
 でも、そうすると、溝部は私の息子ということになってしまう。

(それはナイ。ナイナイ)

 また笑ってしまった。でも、馬鹿兄弟は揃って空を見上げたままで………

 だから、私も、空を見上げた。



-------------------

お読みくださりありがとうございました!
こんな真面目で地味な話、読んでいただいてすみません~っでも書かないと進めない!
「策士策に溺れる」タイプの溝部君。果たして今回この策で良かったのか……

続きまして今日のオマケ☆

-------------------


☆今日のオマケ・浩介視点


 バーベキューから帰ってきてから、腹ごなしのために二人でスポーツクラブに行った。

 4キロは泳ぐ慶には付き合っていられないので、おれはいつものように一人でユルユルと水中ウォーキングをして、マッサージプール、サウナ、ジャグジー……と転々としていたんだけど……ジャグジーの中で、はしゃいだ女性たちの声が聞こえてきた。

「みてみて! 今日、王子いる~ラッキー!」
「あ~今日もかっこいい~~」
「やった!こっちくるよ!」

 ………。

 日に日に渋谷慶王子ファン増えてるような……

「こんばんは~♥」
「こんばんは~~♥」

 その30代くらいの女性たちに♥つきで挨拶された慶。水泳帽を脱ぎながら、「こんばんは」とにっこり返していて……

(あーもー、どんだけかっこいいんだ……)

 毎日見ているおれでさえ赤面してしまうイケメンっぷりに、女性二人もきゃあ♥と声をあげてしまっていて……

(いや、気持ちはわかる。わかるよ! この顔!この体!抱かれたい!とか思うでしょ~?)

 ふっと笑ってしまう。

(まあ、残念ながら、この人、おれだけのものだけどね。しかもおれが抱いてるんだけどね……)

 ふっふっふっ……と笑いを押さえきれず、ジャグジーの水の中に口元まで沈んでいたところ、

「お前、何やってんの?」
「…………」

 ご本人様が、一人分のスペースを空けておれの横に座った。さっきの女性二人も、少し離れたところにいるため、念のため「友達」の距離を保っているのだろう。

「何ニヤニヤしてんだよ?」
「えーっと……」

 本当のことを言ったら恐ろしいことが起こるので、無難な返事をしておく。

「いやー、今日、溝部、頑張ってたなーと思って」
「だなー。『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』ってのミエミエだったけどな」
「まあねえ。雨のおかげで陽太君もはじめからこられて良かったよね」
「すっかり仲良くなってたよな」

 溝部があんなに用意周到な奴だとはちょっと意外だった。前もって小松さんから陽太君の情報を聞き出していて、今日はグローブと携帯ゲーム機まで用意していて……。まあ、溝部は元々、本当に野球もゲームも好きなので、苦はなかったようだけど……

「いやー、でも鈴木的にはどうだったんだろうなあ?」
「来たときと何も変わらず帰っていったよね……」
「なあ……」

 うーん……と二人で唸ってしまう。

「大変だよなあ。これから恋愛って……」
「だよねえ……」

 以前にもしたことのある会話だ。この歳になってからはじめる恋愛は大変だって。

「おれ、ほんとに無理って思った」

 慶はしみじみ、といった感じに呟いた。

「高校時代、頑張っておいて良かった」
「!」

 ちょん、と腿のあたりにくすぐったい感触。慶の足の指……。パッと横を見ると、慶が照れたようにうつむいていて………

(うわ、かわいい……っ)

 抱きしめたい……っっ
 と、思ったら、バサッと慶が立ち上がった。

「じゃ、おれ、もうちょっと泳いでくる」
「う、うん……」

 か、顔のニヤケがおさまらない……
 慶の完璧な後ろ姿を見送りながら、再度ブクブクと水中に沈む……

「あ、王子行っちゃった」
「あの人、王子の知り合いなのかな?」
「ちょっと話しかけてみる?」

 こそこそと話している女性二人の声が聞こえてきて、

(……面倒だな)
 話しかけられる前にジャグジーを出た。

 まあ、おれに何を聞いたところで、残念ながら、王子とその先には進めないけどね。
 だって、王子はおれしかみてないから。おれだけの王子だから。

「…………あ」
 水中ウォーキングのレーンに入ろうとしたところ、コースの折り返しにいた慶が即座におれに気がついて、ニッと口の端をあげた。

 ほら、やっぱりおれしか見てない。

 慶は昔からそうだ。おれがどこにいても、すぐに探しだしてくれる。

 綺麗なフォームで泳ぐ慶を横目で見ながら、ゆっくりと水中を歩く。
 この人はおれのもの。おれだけのもの。そんな幸せな気持ちに包まれながら。


-------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
慶にはレーダーついてます。浩介探知機。

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風のゆくえには~現実的な話をします 1 +おまけはBL

2017年03月07日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~現実的な話をします


【溝部視点】


2016年9月11日(日)


 正直に言おう。

 オレは、桜井と渋谷が羨ましい。
 男同士のくせに、四半世紀もずっと想いあっていて、今も一緒に暮らしていて、ちょっと油断すると、イチャイチャしてたりして………お前らどんだけだ!どんだけだよ!羨ましすぎるんだよ!

 そして、斉藤も羨ましい。
 さっさと結婚して、今や中学生の息子と娘がいて、息子はオレ達の母校、白浜高校を受験するために頑張っていて……オレが高校の時に描いていた未来予想図そのものの生活してやがる。小遣い減らされてる、とか贅沢いうな!

 そして、今、一番羨ましいのは山崎。
 8歳年下の菜美子ちゃんと、12月に結婚することが決まったという。一緒の合コンに参加して、一緒のタイミングで出会ったオレと明日香ちゃんは、結局どうにもならなかったというのに、山崎の奴だけ上手いことやりやがって……くそー………


「招待状は?」
「今月末には発送する予定なんで。よろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げた山崎。
 前日が桜井の誕生日だったので、そのお祝いのお好み焼きパーティー、ということで集合かけたんだけど、山崎の結婚式の日程が決まったことも分かり、急遽山崎の結婚祝いの乾杯もすることになった。

「相手、医者だっけ?」
「うん。美人女医だよ~」

 菜美子ちゃんに会ったことのない斉藤の質問に、なぜか桜井が自慢げに答えている。

「慶の同僚で、おれの主治医」
「主治医? 桜井、どっか悪いの?」
「うん。でもおかげでもうだいぶ良いんだ」
「ふーん?」

 斉藤、それ以上突っ込むなよ? と心の中で思う。
 菜美子ちゃんは、心療内科の医師だ。と、いうことは、桜井は心の病気ということだ。詳しくは知らないけれど、人に話したい話ではないだろう……と、思ったら、

「心療内科の先生でね、慶の病院と、心療内科クリニックと掛け持ちしてるんだよ」
「…………」

 あっさりと桜井が言うので拍子抜けしてしまった。周りが思うほど、本人は気にしてないのか……

 でも、斉藤もそこは掘り下げず、山崎に向き直ると、

「去年言ってた合コンの相手だよな?」
「うん。そう」
「その合コンって、確か溝部も……」
「わーわー」

 そこを掘り下げるかっ

「まだ傷が癒えてないから、その話題はやめてくれー」
「傷? え、じゃあ……」

 え、と口に手を当てた桜井にコクコクとうなずいてみせる。

「そうなんだよー明日香ちゃん彼氏できちゃったんだよー」
「え、知ってた?山崎」
「あー、まあ……」

 頬をかいた山崎。山崎の婚約者の菜美子ちゃんは、明日香ちゃんの親友だ。当然知ってるだろう……

 明日香ちゃんは、6月末に一緒に幹事をやった結婚式の二次会で、佐藤という軽~い感じのイケメンと速攻で意気投合してしまったのだ。二人とも平日休みなので、予定を合わせやすかったのが一番の理由だと、明日香ちゃんは言っていたけれど……

「どうしてあんなチャラ男と付き合うかなあ。オレのこの大人の魅力が分からんかなあ」
「溝部も充分チャラいだろ……」
「なんだとー!?」

 聞き捨てならない山崎の発言に、食いついてやる。

「オレは全然、チャラくないっ。明日香ちゃんにだってずっと紳士的にだなあ」
「チャラいくせに押しがたりなかったってことか……」
「さーいーとーおーっっ」

 今度は斉藤。結婚歴16年=恋愛から離れて16年の奴に言われたくない! 
 斉藤は「まあまあ」と苦笑すると、

「その明日香ちゃんってのは、どんな感じの子だったんだ?」
「どんな感じ……」
「うーん、見た目は可愛い感じだよね?目がキョロッとしてて」

 明日香ちゃんと一度だけ会ったことのある桜井が、一年以上前の記憶を呼び起こしてブツブツといいはじめた。

「誰に似てる?」
「うーん……顔だけいったら、吉田さんとか?」
「ああ~~」

 高校の同級生の名前を上げられ、オレと山崎も納得でうなずく。と、桜井はそのまま、アッサリと嫌なことを言った。

「でも性格は鈴木さんに似てるよね。サバサバしてて、言いたいことズバッていう感じ」
「…………」
「…………」
「…………」

「………………あ」

 ハッとしたように口を閉じた桜井。遅いっもう遅いっ!

「さーくーらーいー!!古傷を抉るなー!!」
「わーごめんごめんっっ」

 ガシガシと蹴ってやる。いつもなら速攻でやめさせに入るであろう恋人の渋谷は、現在ソファで爆睡中なので、遠慮なく蹴ってやる!

「まあ、鈴木のことはもういいんだけどな! 人妻には興味ねえし!」

 そう言ったところで、斉藤が「いや?」と手を振った。で、驚きの発言。

「鈴木、離婚してこっち戻ってきてるぞ?」

「え?」
「え?」
「えええ?」

 な……なんだとお!?

「な……なんだよそれっ」
「ほら、オレ、実家が鈴木んちと近いじゃん? 先月実家帰った時に、偶然鈴木と会ったんだよ。年末に離婚成立して、年明けから息子と一緒に実家に住んでるって言ってた」
「え………」

 鈴木、去年の7月に飲んだ時は、旦那とも上手くやってるって、幸せだって、「溝部もさっさと良い人みつけなよー」とか言ってたのに……っ

「斉藤ー!! なんでそれを早く言わない!?」
「そんなこと言われてもっっ」

 鈴木……っ
 あいつ、また、泣いてるんだろうか。あの時みたいに、一人で隠れて、静かに涙を流してるんだろうか………

 オレは……オレは、また、何もできずに見ているだけなのか……?

 そんな……そんなの……っ

「よし!決めた!」

 ぐっと拳を握りしめ、立ち上がる。

「バーベキューやるぞ!バーベキュー!」
「は?」
「は?」
「バーベキュー?」

 こういうときは、肉だ肉!

「名目は、山崎の結婚前祝い!」
「え」
「あと、斉藤息子の激励会!」
「は?」

 きょとんとした山崎と斉藤をビシビシッと指差す。

「だからメンバーは、山崎と菜美子ちゃん、斉藤一家、でー……」

 鈴木を誘えるメンバーと言ったら……

「桜井と渋谷、桜井経由長谷川委員長一家、そこ経由で小松夫妻、鈴木親子! これでどうだ!」
「どうだって……」

 顔を見合わせる3人に畳み掛ける。

「去年、鈴木とはライン交換したから連絡とることはできるけど、オレがいきなり誘ったって断ってくる可能性高いだろ! まずは外堀を埋めるんだよ!」
「あ、なるほど」

 桜井はうなずくと、「それじゃあ……」とスマホを取り出した。

「とりあえず委員長に、奥さんの川本さんが鈴木さんか小松さんと最近連絡とってないか聞いてみるね」
「おお。頼む。川本と小松は同じバトン部だったから繋がってると思うんだよ」

 委員長は、同じクラスだった川本沙織と結婚して、現在小3の娘と年長の息子がいる。……揃いも揃ってみんなして幸せ一家してやがって…………

「でも、こんな大人数でバーベキューってどこでやるの?」
「前みたいに海の公園予約するとか?」
「あ、いや」

 ブンブン手を振る。前にバーベキュー合コンをしに海の公園にいったこともあるんだけど、今回は子供もいるし、リーズナブルにいきたい。金がかかる、とか、行くのが大変、とか、断る理由になりそうなことは全力で排除するっ!
 
「うちの実家の庭、畑やめたから広さだけはあんだよ。前に会社の連中20人以上集まったけど大丈夫だった」
「おー、それはいい」
「あ、そう言えば溝部のうちって広かったよな」

 ぽん、と手をうった斉藤。

「一回行ったことあるよな? あれ? それこそ、鈴木と小松と……」
「あ、クリスマスパーティー?」

「斉藤君、山崎君、君たちもオレの古傷を抉らないように!」

 ムッとして遮ると、二人は「ごめんごめん」と苦笑いしやがった。

 くそー……今に見てろよ!!
 逆転サヨナラホームラン打ってやるー!!!


-------------------------------


お読みくださりありがとうございました!

この話、『幸せな誕生日(後編)』の後半の話直後の話となっております。

浩介と委員長は昨年の再会時にフェイスブックを教えあって以降、やり取りが続いています。(浩介は記事はあげないけれど、委員長が読んだ本の感想とかをあげるので、それにコメントしてるって感じ)

続きまして、今日のおまけ。


-------------------


☆今日のおまけ・慶視点


 ふっと目を覚ますと、じーっとこちらを見ながら何か飲んでいる浩介の姿が目に入った。

「………あれ? みんなは?」
「もう帰ったよ?」
「あー、また寝ちゃったのか、おれ……」

 最近、どうも酔いが回るのが早い。家なので安心感があるせいかもしれないけど……

「お水飲む?」
「いや、いい。……お前何飲んでんの?」
「これ。昨日実家から貰ってきたやつ」

 ウイスキーの瓶がテーブルに置いてある。昨日浩介の実家に行ったときに、お中元のお裾分け、といってお母さんがくれたのだ。

「慶もいる?」
「…………」

 軽く首を振ると、そう?といって、浩介は再びグラスに口をつけた。おれは寝そべったままなので、浩介が斜めに見える。斜めの浩介は、まだ目を細めておれを見ている。

「何?」
「ん?」
「何見てんだよ?」
「えー?」

 嬉しそうに笑った浩介。

「ほんと、綺麗な顔してるなあと思って観賞してたの」
「観賞?」
「そう。昔、美術部の浜野さんが『渋谷慶は観賞物』って言ってたんだけど、なんかそれ思い出しちゃった」
「……は?」
「いや~も~この顔を独占して観賞しながら飲むお酒は最高です」
「…………。なんだそりゃ」

 変な奴。あいかわらず変な奴だ。
 浩介はニコニコという。

「見てていい?」
「……やだ」
「えー」

 なんでーケチー、と、間延びして言う浩介にちょいちょいと手招きをする。

「なにー?……わっ」
 近づいてきた浩介の腕を掴んで引き寄せる。

「おれは観賞物じゃねーよ」

 そして、噛みつくみたいなキスをしてやる。

「おれは実用品だ」
「ん」

 もう一度キスをする。
 見てるだけ、なんて許さない。ちゃんと触れて、ちゃんと包み込んで、一緒にいるって感じさせろ。

「慶」
「…………浩介」

 愛しそうにおれの名を呼んでくれる浩介を、ぎゅうっと抱きしめた。



-------------------------------


お読みくださりありがとうございました!

今日のおまけは『ウイスキーをチビチビ飲みながら、慶の寝顔を眺めてニヤニヤしてる浩介の図』が書きたくて書きました。
『渋谷慶は観賞物』と浜野さんが言った話は、『巡合2-2』。まだ浩介が慶を親友としか思ってない時代。青春の高校二年の文化祭♪

オチも何もない『おまけの話』。誰得?私得!
こういう小話書くの大好きでして、学生時代も色々な話の小話をノートに書き綴り、最終的には7冊分計63話になってました。
今後もそのノリで合間合間に書かせていただこうと思っております。

毎週火曜日と金曜日の朝7時21分に更新する予定です。
次回は3月10日金曜日、どうぞよろしくお願いいたします!

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風のゆくえには~現実的な話をします 0 おまけのBL

2017年03月03日 07時21分00秒 | 風のゆくえには~現実的な話をします

☆本編はじめる前に、おまけの話☆


1991年12月(高校2年生)

23日の夜、めでたく両想いになった慶と浩介。
24日の朝、溝部からその夜のクリスマスパーティーに誘われますが、二人して断ります。だってクリスマスデートの約束してるんだもん♪
溝部は山崎と斉藤を誘って、女子とパーティーしたらしいけど……

ということで。25日の朝。2年10組の教室にて。浩介視点です。


**


注:両想い3日目の浩介君。超浮かれてます。


(あー………)

 どうしよう……幸せすぎて、顔のゆるみがおさまらない……。
 冷静になろうと、いつものように本を開くのだけれども、一行も頭に入ってこない。

(わああ……)
 顔をおさえようとしたところ、唇に手の平が触れ、それで昨日のキスを思い出して余計に顔がにやけてくるんだからどうしようもない。

(慶……まだかな……)

 早く会いたい。って気持ちと、今でももう心臓がドキドキしてるのに、会っちゃったらこれ以上どうなっちゃうんだろうっていう心配と、でも会いたい。会ってぎゅううってしたいって気持ちと……もう、本当にどうしようもない。

(今日、授業なくて良かった……)
 今日は2学期の終業式と学活だけだ。授業なんか絶対に何も聞けなかっただろうから助かった。


「桜井? どうかした?」
「おっ、おはようっ! 山崎っ」

 山崎から声をかけられ飛び上がってしまう。2学期の間、山崎はおれの後ろの席だった。せっかく話せるようになったのに、3学期からは席替えで離れてしまうだろうから、ちょっと残念だ。

「き、昨日どうだった? 溝部のうちでパーティーしたんでしょ?」
「そうそう。大変だったんだよー」

 山崎が苦笑して言う。

「溝部が荒れちゃって」
「荒れる?」
「いや、ほら、鈴木がさ……」

 声をひそめる山崎。

「やっぱり、好みは大人の男!って言って……」
「あー……」
「で、溝部がいつもの調子で鈴木をからかって、喧嘩になって」

 溝部と鈴木さんはいつも喧嘩をしている。それなのに、昨日、溝部が赤くなりながら、パーティーに鈴木さんを誘った、と言ったからビックリしてたんだけど、やっぱり喧嘩になったんだ……。

「まあ、それはいつものことだったんだけど……」
「だね……」
「女子が帰った後に、溝部がヤケ食いみたいに馬鹿みたいに食べて飲んで、んで、食べ過ぎて吐いちゃって」
「えええっ」
「溝部、今日学校休みかも」
「…………」

 た、大変だったんだな……

「まあ、せめてあんな失態を鈴木に見られなくて良かったよ」
「山崎……」

 山崎って良い奴だなあ、と思う。おれと同じでおとなしくて目立たないタイプなんだけど、おとなしさの中に芯があるというか……ちょっと大人っぽいのかもしれない。

「で、桜井は? どうだった?」
「え」

 急に話を振られ、きょとんとしてしまう。

「デートだって言ってなかった?」
「あ」
「あ、違うか。デートだったのは渋谷で、桜井は何もなかったんだっけ?」
「えーっと……」

 なんと答えたものかと迷っていたところで、

「はよーっす」
「!」

 途端に世界がパーッと明るくなった。眩しいオーラを振りまきながら、慶が教室に入ってきたのだ。

「わ、なんか渋谷、いつもにもましてキラキラしてるな」
「…………うん」

 山崎の言葉にコクリとうなずく。ほんと、キラキラしてる……

 慶は窓際のおれの席まで真っ先に来てくれると、真っ直ぐにおれを見つめて、

「はよ……」
「おはよ……」

 う……照れる……。
 そんなこと知らない山崎が、ちょっと笑いながら慶に言った。

「渋谷、デートうまくいったんだ?」
「え!?」

 二人一緒に声をあげてしまったけれど、山崎は気にした様子もなく肩をすくめた。

「そんなキラキラ、溝部に見せつけたら何されるかわかんないから気を付けて」
「なんだそりゃ」

 眉を寄せた慶。ああ、可愛い……

「まあ、溝部、今日休みかもしれないけど」
「なんで?」
「あー……あ、ごめん、桜井あとよろしく」

 山崎は手を振りながら、廊下に向かっていってしまった。鉄道研究部の一年生がきていたのだ。その背中を見送ってから、慶がこちらを振り仰いだ。

「溝部、なんで休み?」
「んー、なんか昨日のクリスマスパーティーで食べ過ぎたらしいよ」
「アホだな、あいつ」

 慶が、あはは、と笑う。
 その原因は鈴木さんとうまくいかなかったことらしいけど……。

「慶……」
「ん?」

 見上げてくれる慶の瞳は湖みたいに澄んでいて、今にも吸い込まれそうだ。こんな人がおれなんかのこと好きでいてくれる……
 溝部は想い叶わず、やけ食いして具合悪くなったっていうのに……

「両想いになるって、ホント大変なことだよね……」
「…………何いってんだお前」

 照れたように顔を赤らめた慶。

「………」
「………」

 あーもー!可愛すぎる!!

「慶ー!」
「わっお前!やめろ!」

 我慢できなくてムギューッと抱きしめると、慶がおれから逃れようとワタワタしはじめた。それもまた可愛いすぎる!!

「大好きー!」
「人前で抱きつくな!」
「じゃ、人前じゃなかったらいい?!」
「アホかっ」
 
 真っ赤になった慶は可愛いすぎて可愛いすぎて!

「あ~~も~~幸せ~~」
「分かった分かったっ。分かったから落ち着けっ」
「あー」
 
 無理矢理腕から抜けられてしまった。あーああー……

 ガッカリして席に座って俯いたら、こんっと額を拳骨で押された。そして耳元に顔を寄せられ、囁かれた。

「………続きは今日帰ってからな」
「!」

 バッと顔を上げる。慶はやっぱり照れたように笑って、いいこいいこって頭を撫でてくれた。

 もう、幸せ過ぎる……


 結局、この日溝部は学校にこなかった。でも、鈴木さんはいつもと何も変わりなかった。やっぱり恋って難しい……。

 そして年明け……。教室に入るなり、

「くっそー! クリスマスの奇跡、おれにはなかったぞー!」

 そう叫んだ溝部に体当たりされた。八つ当たりもいいとこだ。

 女の子紹介してもらうのに一緒にこいとかうるさいから、溝部にもさっさと彼女ができればいいと思う。鈴木さんは無理そうだけど……。



-------------------------------

お読みくださりありがとうございました!
深夜に投稿した、人物紹介・あらすじに引き続き、おまけの25年前のお話でした。
「巡合」「将来」の間の話になります。
この頃の浩介君は、まだ慶にしか心を開いていないので、溝部に対してもイマイチ興味が薄いというか……
今、同じことが起きたら(わー溝部かわいそうにー。おればっかり幸せでごめんねー。溝部も上手くいくといいのになー)くらいのことは思いそうだ。

自分が高校生の時は、40過ぎなんてすごいオトナ!って思ってましたが、実際自分がなってみると、高校の時と感覚とかそんなに変わっていなくて……
でも、色々なことに割り切りができてたり、一歩引くことを覚えていたり……

そんな大人の現実的なお話を火曜日からお送りいたします。
BLカテなのに、男女カップルですみません…でも、浩介×慶、しょっちゅう出てくると思います。
出てこない回は、どうでもいい二人のマッタリ話をおまけに書きたいなあ……とか思っていたり。
やりたいことだけは頭の中で盛りだくさんです。

毎週火曜日と金曜日の朝7時21分に更新する予定です。
次回は3月7日火曜日、どうぞよろしくお願いいたします!


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(BL小説)風のゆくえには~秘密のショコラ(おまけ)

2017年03月01日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切


こちら、2月23・25日にアップした秘密のショコラ(前編)(後編)のおまけの話になります。


慶と浩介が住んでいるのは、201号室。中村優花さんは、302号室。
5階建てです。201号室は角部屋です。マンションの前に公園があります。
このマンションには元々、浩介の友人・あかねが住んでいました。今も名義はあかねで、格安で賃貸契約を結んでいます。

ということで、中村優花さん視点のおまけ話。



---


『秘密のショコラ・おまけの話』



「優花ちゃんちのマンション、すんごい美形が住んでるんだって?」

 時々、ママ友からそんなことを言われる。自宅で料理教室を開いている関係で、何人ものママ友がうちには来るので、そこから噂が広がっているようだ。火曜日がその「すごい美形」との遭遇率が高い、という情報まで出回っているため、「火曜日に料理教室に行きたい」って希望も多い。同じマンションというだけで、本人が教室にくるわけじゃないんだけどね……

「しかも、その人、男と住んでるってホント?!」
「うわ何それ?! 見たい!超見たい!!」
「優花ちゃん、見たことある?!」

 みんな興味深々だ。

「見たことあるけど……普通だよ? あ、美形っぷりは普通じゃないけど……」
「じゃ、何が普通?」
「何ていうか……存在が普通」
「存在が普通?」
「うーん……」

 上手く言葉にできない。
 そりゃ正直言って、2年くらい前に引っ越してきた二人をはじめて見た時には「?」で頭がいっぱいになった。なんなのこのイケメン?とか、二人どういう関係?とか。
 でもそのうち、どうやら二人はカップルらしい、とか、一人はお医者さんで一人は学校の先生らしい、とか、前に住んでいた超美人の一之瀬さんのお友達らしい、とか、噂が流れてきて、二人が仲良さそうに外出している様子も見るようになって……そうすると、人間慣れるもので、なんとも思わなくなってくる。

 「写真撮って送ってよー」と無茶ぶりしてくるママ友達に、その「すごい美形」の勤務先の病院のホームページを教えてあげた。

「なんじゃこりゃー!」
「芸能人か!」

 先生紹介のページの個人写真を見てみんな大騒ぎ。実物見たい!教室予約する!と言ってくれる人もいたりして……おかげで料理教室はまずまずの人数のお客さんを確保することができている。


***


 そんな「すごい美形」の渋谷さんが、バレンタイン当日の料理教室に参加してくれることになった。渋谷さんがポスターを見ていたところに偶然通りかかったので勧誘したら、本当に来てくれたのだ。その上、何がどうしたのか、その恋人の桜井さんまで参加してくれ……


「はああ……目の保養になった……」
「眼福眼福……」
「目正月だな……」
「あ~~写真撮らせてもらえば良かったなあ……」

 渋谷さんと桜井さんが帰ったあと、残りの参加者である4人のママ友はしばらくの間ぽや~~っとしていた。
 二人がいる間はまったくそんな素振り見せなかったんだから、4人ともたいした演技力だ。

「あんな女優みたいに綺麗な顔した渋谷さんの方が男っぽくて、背の高い桜井さんの方が一歩控えた感じっていうのがまた萌えるわ~」
「でも、あんないい男二人がくっついてるってのは、世の中的にはもったいないよねえ」
「えー、どうせ付き合えるわけじゃないんだから、むしろこの方がいいよ」
「あはは、確かに!」

 みんな好き放題言ってる。

「あーでも、優花ちゃんが『普通』って言ってた意味は分かったよ」
「でしょ?」

 そうなのだ。二人はいたって『普通』なのだ。『普通』のカップルだ。



 その後の日曜日。ちょうど出かけるところらしい二人に出くわした。

「先日はありがとうございました!」
「あ、いえー、また是非いらしてくださいね~」

 そんな思いきり社交辞令な会話をしながら二人とすれ違ってから、二人の後ろ姿を見送る。

 渋谷さんの真横か、ほんの少し後ろを歩く桜井さん……見下ろしている瞳は本当に優しくて、愛しくてたまらないって感じで……

「なんだよそれっ」
「えーだって本当だよ~?」

 聞こえてくる二人の声もすごく楽しそうで……笑いながら桜井さんの腕を軽く叩いた渋谷さんからは、幸せオーラがだだ漏れていて……

「普通じゃないな……」

 思わず一人ごちてしまう。

「25年たってもあんなにラブラブ全開って……」

 普通じゃない気もしてきた……

 そのままぼんやりと二人を見送っていたのだけれども、

「マーマー! 何してるのー?」
「早く早く!」

 駐車場から子供達の声が聞こえてきて我に返った。

「どうかした?」
「え……」

 荷物をトランクに入れていた夫が、こちらまで小走りに戻ってきて、私の持っていたお弁当の入った袋を何も言わず持ってくれる。

「何かあった?」
「…………」

 急に軽くなった右手……
 いつもは気にも留めない小さな優しさに、なぜか心がキュンとなった。

「パパ?」
「あ?」

 振り返った夫にニッコリと言う。

「ありがとう」
「お? おお」

 ハテナハテナ、という顔をした夫。桜井さんみたいにスラッと背が高いわけでもないし、渋谷さんみたいに美形というわけでもない。でも、私にとっては、この上もない幸せを与えてくれる人だ。

「ママー今日、私前に座ってもいいー?」
「ママ、ボクの隣座ってー」
「飴なめてもいいー?」
「ねえもう時間だよー」

 4人の子供に一斉に話しかけられて、「はいはい」と答える。これが私の日常。

 前言撤回。やっぱり、渋谷さんと桜井さんも、何も特別ではなく、そんな普通の日常を送っているのだと思う。



---


お読みくださりありがとうございました!
自分でもビックリするくらいまったりな話第2弾。
最後までお読みくださり本当にありがとうございました!

本当は今日から溝部君のお話を始めるつもりだったのですが、用意が間に合わなかったため、急遽、いつか書いてみたかった二人と同じマンションの住人のお話を書いちゃいました。私も同じマンションに住みたい。


今後のことなのですが、今まで通り2日に1回更新は無理なので、しばらく週二回(火曜と金曜)更新にしようと思います。
慶たちの同級生、溝部君の普通の恋愛物語。BLカテのくせにBLじゃなくて申し訳ないです。でも慶×浩介はしょっちゅう出てくるはずなので……どうぞよろしくお願いいたします。

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