十五曲目。「プロローグ〜世界の始まりの唄」(ライオンズポートレート2に収録)。
エアーズロックに行きたいと、時々想う。
エアーズロックに登るのは、お金もかかるし、命の危険も伴うし、一度登ったからもういいかな、と想う。でも、でも、神の風が吹くエアーズロックの頂上から、遥か彼方に見えるマウントオルガは、やっぱり見たい。
僕はオーストラリアを一周している。ケアンズを出発して2000キロほど走ると分かれ道に突き当たる。その名をスリーウェイズという。ただの丁字路なのだが、荒野の一本道をただただ西を目指してひたすら走ってきた者たちにとっては、ここが大きな分岐点だ。
北へ上ればダーウィンへ向かう。南へ下りれば南オーストラリアのアデレードへ向かう。つまり、どでかいオーストラリアを縦に分断する一本道が、そこにはある。
僕は、スリーウェイズの手前で車を停めて、スリーウェイズのなんてことのない道の写真を撮ったりしながら悩んでいた。迷っていた。・・・北か南か。
北へ向かう道は、オーストラリア一周のすんなりコースである。ダーウィンから西へ向かえば、西オーストラリアへ出る。
南へ向かう道は、アリススプリングスへと向かう。アリススプリングスにはエアーズロックがある。地球のヘソ。オーストラリアのど真ん中、エアーズロック。
エアーズロックにはそれほど興味がなかった。なぜなら、何度も見たことがある。もちろん、写真やテレビで。まぁ、すごいんだろうが、なんとなく想像がつくじゃないか。荒野にどでかい赤い岩がどかーんとある風景。想像がついてしまうじゃないか。しかも、エアーズロックの高さは、たかだか400メートルくらいだ。富士山は3667メートルだろ?つまり、富士山の方が9倍も高い。
エアーズロックなんて、見なくてもいいんじゃない?このまま北へ向かってしまえばいいんじゃないの?
なぜ悩むのかというと、スリーウェイズからアリススプリングスまで500キロある。アリススプリングスからは、元来た道を戻って北へ向かうわけだから、往復1000キロの回り道になるのである。ただただ荒野を1000キロ。・・・エアーズロックに、それほどの価値があるのか?ただのでかい岩じゃねーのか?
スリーウェイズから南へ25キロ。テナントクリークという小さな町がある。どちらにせよ、僕はその町へ行かねばならなかった。なぜか?ついさっき、通りすがりの警察に捕まったからてある。最悪なのである。
道すがら、すれ違ったパトカーが、急旋回して、猛スピードで追い上げて来た。何事かと思った。
車を停めさせられ、アルコールチェックをさせられる。もちろん、アルコールの反応などない。まぁ、無実が証明されたわけだからよし。
保安官は言った。
「オッケー。アルコール、異常なし。オッケー、シートベルト、してなかったね?オッケー、反則切符を切るよ。オッケー、ここから200キロくらい行くとスリーウェイズに出るから、そこを左ね。オッケー、テナントクリークの警察署へ寄って罰金払ってね。オッケー、じゃあ、良い旅を!」
頭に来たのである。アルコールチェックはフェイクだった。くっそぉ!
今思うと、警察に捕まったから、しょんぼりしてしまって、エアーズロックになんて行かない!と言っていたのかもしれないな。忘れたけど。それは大いにありえる話だ。
とりあえず、南へ向かった。テナントクリークへ行かねばならぬ。
色々と後から考えると、罰金なんて払いに行かなくても良かった。ブッチしてしまえば良かった話だ。その後駐車違反で切られた反則切符は、全部ブッチした。
だがしかし、その時は南へ向かった。25キロ。罰金を払いにテナントクリークの警察署へ。
しかし、これが良かった。南へ25キロも走って来てしまった。スリーウェイズまで戻れば、往復50キロ。払いたくもない罰金のために、馬鹿みたいである。頭に来た。馬鹿みたいなのはイヤなのである。
あったまにきた!おれ、このままエアーズロックへ行っちゃうわ!そしたら、この25キロも無駄じゃない!
ブーン。
長くなったので、つづく。
写真は、昨日の夕方の三日月。