十六曲目。「銀の跳ね馬」(アルバム未収録)。
いつかはフェラーリに乗りたいなぁ・・・と想ったことがないわけではない。
いつかは六本木の超高層マンションの最上階に住んで、夜景を鑑賞しながらメーカーズマークの18年物を飲みたい・・・と想ったことがないわけではない。
まぁ、どちらにせよ、誰もが認める成功を果たして、心の中でピースポーズを決めたい、いつかは・・・と想っていたことは確かである。特に22歳とか、23歳の頃とかはね、なんたって、若い。とてつもなく・・・若い。
西オーストラリアにエクスマスという町がある。
ケアンズを旅立つ前、僕には旅立ちの準備が必要だった。
ケアンズに着いた頃は、家賃が払えないほどスッカラカンの僕だったのだが、三ヶ月みっちり働いたお陰で、金はある。なかった頃と比べると、信じられないくらいの金持ちだ。だから、オーストラリア一周の旅に出る。
金持ちだとはいっても、それは、比較的金持ちだというわけで、ゼロに対して金持ちだというだけで、本当のところは金持ちではない。
テントを買うことにした。テントを持っていれば、一泊300円で泊まれる。
つまり、キャンプ用品一式を揃えねばならない。シュラフとかマットとか、バーナーとか鍋とか、旅の生活用具一式・・・色々。
話はそれるが、数年前にバイクで北海道へ行く直前の話。
僕は借金返済のために懸命に働いていた。借金は返さなければならないが、働くのがほとほと嫌になった。伝家の宝刀「おれはこんなことをするために生まれて来たんじゃねぇ!」がちょこちょこと顔をのぞかせるのである。
で、借金返済は後回しにして、旅に出ることにした。
旅には出たいが金がない。金がないから働いている。金がないのに働きたくなくなって旅に出ることにした。どうすんだ?
バイクは、ある。
職場のイエスキリスト似の大ちゃんに相談した。
「ねぇ、北海道にはさ、無料のキャンプ場、たくさんあんの?無料のライダーハウスもいっぱいあんの?」
元ライダー、元旅人、今はイエスキリスト似の大ちゃんは答える。
「ある」
そんなわけで、借金返済のために働いて稼いだ金で、テントやら何やら、キャンプ道具一式を揃えたのである。借金返済なんて後回しである。「借金を返すために生まれて来たんじゃねぇ!」である。いいのである。借金なんて、利息さえ払っておけば、いくらでも待ってくれるのである。それが、社会のシ、ク、ミ。
僕は想う。キャンプかぁ。テントかぁ。出来るかなぁ。うまく立てられるかなぁ。
テントなんて初めてだからなぁ・・・キャンプなんてしたことないしなぁ・・・出来るかなぁ?
そんで、近くの河原に二回ほどテントを立てる練習に行った。
そして旅に出た。北海道、30日間、色々な場所でテントを張って過ごした。すごく楽しかった。
旅の最中・・・ふと、思い出した。
「あっ、おれ、オーストラリアにいた頃、60日間連続でテントを張って過ごしてたわ・・・忘れてた!ククク」
話は戻って、僕のキャンプ用品。
ガソリンストーブというのを買った。
ガソリンを入れて、ポンプをシュポシュポして、コックをひねって火を点ける。ガソリンを燃料にすれば、困ることはない。
同じ職場にいるマコトくん。マコトくんはもうすでにオーストラリア一周の旅を終えている。
関西人のマコトくんは言う。
「そんなストーブじゃあかんわ!そんなんじゃ周れへんで。やめときや!せっかく買ったのに?せれやったら、おれが使ってたガスタンクのストーブ、もう使わへんからタダであげるわ。そんなガソリンストーブじゃあかんで!」
せっかく買ったのに。シュポシュポガソリンストーブ。確かに、使い勝手はすごく悪い。
そんでもって、マコトくんは本当にガスタンクをくれた。
ガスタンクってわかるかな?
プロパンガスのタンクあるでしょ?あれ。あれの小さいやつ。屋台の焼きそば屋とかが横っちょにおいて使ってるやつ。
小さいっていっても大きいよ。重いし。ガスタンクだし。
ガスタンクの上のガスの出口に、ガスコンロの火が出るところみたいな部品をくっつける。そんで、そんでガスタンクの栓を緩めて、ライターで火を点けると、ボーッと燃える。
つまり、ガスタンク直なの。
見たことある?ガスタンク直で火を点けて調理をしている人。
いるんだよねぇ。マコトくんと、おれ。
そのマコトくんが行った。
「エクスマス、行かなアカンよ」
エクスマス?
聞いたことがない。
何があるの?
「めっちゃエエことがあんねん!」
つづく。
写真は、隣町、都幾川の紅葉。