また、僕はエクスマスの海岸沿いの道を歩いている。
右手にはサバイバルナイフ、左手には・・・バケツ。
今日も牡蠣を獲ろう。せっかくだから牡蠣を獲ろう。と。
昨日と同じ場所で、岩場と格闘する。
牡蠣を獲るのは結構大変で・・・初日の昨日と比べると、やる気メーターは五分の一くらいに減っている。
牡蠣、獲るのはいいけど・・・牡蠣、獲るのも食うのもちょっと飽きたなぁ・・・。
捕獲した牡蠣の断片をエクスマスの海に放り投げると、たちまち無数の魚が群がってきて食べてしまう。
釣り竿があれば、いくらでも魚が釣れそうだが、釣り竿はない。釣り竿がない以前に、僕は釣りなどしたことがない。
そういえば、ケアンズでシェアメイトだったマサくんが言っていた。
「オーストラリアの魚は、パンで釣れますよ。パン屑を丸めて針につけて海に入れたらすぐ食いますよ」
どうも、オーストラリアでの釣りは比較的簡単らしい。でも、僕には釣り竿が、ない。
マサくんはパンをエサにするって言ってたけど、牡蠣をエサにしたら瞬殺だと思う。今度会ったら教えてあげよう。と思いながら、牡蠣を海に投げ入れる。魚が食う。こんなことをしばらくの間繰り返している。
潮の干満というものがある。潮は満ちたり引いたりする。釣りをしないので、普段は潮の干満などには興味がない。
そういえば、昨日よりも潮が引いてるなぁ・・・と気づく。
昨日よりも見えている岩場の面積が広い。
「あれれれれぇ、これはなんだろう?」
トゲトゲがいっぱいついた丸い物体が、潮溜まりの中に見える。
「あれれれれぇ、こいつはもしやもしや」
サバイバルナイフの先っぽでツンツンとつついてみる。無数のトゲトゲがウニョウニョと動く。
「ウニや!これはウニやで!」
そう叫んだはいいのだが、ウニなど獲ったことがない。本当にウニかどうかもわからない。
そこらへんを見回してみる。なんと・・・億のウニがいるではないか。俄然やる気が漲ってくるのである。
ウニには大きく分けて、二種類、いると思う、もっといるだろうけど、大きく分けて。
黒くてトゲがしっかり気味のヤツ。北海道でいうとムラサキウニ。
赤っぽくて、白い短いトゲトゲがたくさんあるやつ。北海道でいうとバフンウニ。
エクスマスのウニの巣窟、二種類のウニがいた。僕が知っているウニは黒いトゲトゲのやつ。僕が知らなかったのは、赤いミニトゲのやつ。
そして、僕が知っている黒いトゲトゲウニは、岩場の穴ポコに上手にはまっていて、全然取れない。粉々に砕かないかぎり取れない。気がする。
僕が知らない赤いミニトゲウニは、そこらへんにコロコロコロコロ、いくらでも転がっている。
「この赤いミニトゲはウニなのかなぁ?食べられるのかなぁ?」
試しに割ってみることにした。ウニの割り方など知らない。ナイフを刺そうとしたが刺さらない。仕方がないので、靴底で軽く踏み潰してみた。割れた。
若干グシャグシャ気味になったウニくん。中から脳ミソみたいなのがいっぱい出てきた。気持ち悪くてちょっと引いた。
脳ミソみたいなやつを海水で洗ってみると、黄色いウニが・・・見えた。
指で殻から剥がして食してみる。
「うぉーーーー!ウニやぁーーーーー!」
この旅一番の絶叫である。
裏側のおヘソみたいなところにナイフを入れれば簡単に割れるとか、ウニは真水で洗った方が美味しいとか、何個かのウニをさばくうちに知る。
エクスマスの海岸沿いの道を僕は歩いている。右手にはサバイバルナイフ。左手には・・・ウニでいっぱいになった、バケツ。
キャラバンパークの炊事場で、ウニを割って、身を取り出して、真水で洗って、まな板の上に並べていく。オレンジがかった黄色が鮮やかで美しい。絶景である。オーストラリアの絶景はここにあり。
今日はウニ丼。
でかい鯛をさばいているオージーのおじさん達がいる。懲りもせず、今日も焼き魚を食べるつもりらしい。
「新鮮な鯛を焼いちゃってもったいない、刺身で食えや!」と思いながらも、僕は自分の作業に集中する。
隣のオージーのおじさんが、まな板に並んだビューティフルウニを見て僕に聞く。
「おっ、ワンダフルじゃないか、それはキドニー(肝臓)かい?」
「おじさん、これはキドニーじゃないよ。シーアーチン(ウニ)だよ!美味そうだろ!」
おじさんはギョッとした目になってから、ギョッとしたのを隠そうとしながら、「おぉぉ、そうかぁぁぁ、シーアーチンかぁぁぁ。なるほどねぇぇぇぇ」といいながら、オエッとなっていた。こんなドン引き具合を、僕はいまだかつて見たことがない。
「うまいぜ!食うかい?」と聞いてみたが、ドン引きしながら首と手を横に振られてしまった。
シーアーチンを生で食うクレイジーなジャパニーズ。ジャパニーズはクレイジー。日本人は頭がおかしい。
きっと、おじさん達の夜の宴会のいい話題になったことだろう。
ご飯を炊いて、酢飯を作って、酢飯の上に海苔を刻んで、その上に山盛りのウニを載せて食う。
この幸せは、日本人にしかわかるまい。それでいいのだ。だから、ここにはウニが億個いるのだ。
西の空に沈むでっかい夕陽を眺めながら、ウニを噛みしめ、僕はつぶやく。
「ありがとな、インド洋」
「オージーのおじさん達、ウニを食わないでいてくれてありがとな。ここのウニは、全部おれのや」
つづく。
写真は、この前載せた羊腸で作った自家製ソーセージ。羊腸のあとで載せるの忘れてた。