2018年本屋大賞2位「盤上の向日葵」の感想を。読者大賞というのは書店員の投票によって決まるんですよね。
一言でいうとタイトルに含まれている向日葵とはむしろ対照的な、いまにも降り出しそうな雨雲が物語全編を覆っているような印象でした。向日葵も小説の中で効果的に使われてはいるんですが。
上条桂介六段という将棋棋士がこの小説の主人公で、今から約四半世紀前、タイトル戦の大舞台に立つのですが、彼がそこに至るまでの軌跡と、日本に7つしかない高級駒とともに遺体が発見された事件の捜査が交互に書かれていて、この2つの話が一本の線としてつながっていく過程を丹念に描いています。舞台を現在に設定しなかったのは、将棋界への影響を考えたからかもしれません。いま将棋界で最も輝いている藤井聡太七段を陽とすれば上条六段は暗い陰を纏っています。将棋界全体を照らす眩いばかりの才能もあれば、悲しい才能もある。上条は後者です。
彼の生い立ちも母親はいなくなってしまい父親には虐待を受ける幼少期。しかし、そんな中でも彼を救おうとする恩人が現れます。そして何よりも将棋との出会い。上条は将棋の大好きな少年でした。才能を見込んだ恩人は上条の父親に将棋のプロ養成機関である奨励会に入会することを許可してほしいと頼みに行くのですが、上手くはいきません。上条は将棋から離れたり、またふとしたきっかけで将棋と再会したりを繰り返すことになります。
もう一つの小説の軸は高級駒とともに遺棄された殺人事件の捜査ですが、中心人物は石破というひと癖あるベテランと佐野というまだ若い元奨励会員の2人の刑事です。本業は一流でも将棋はずぶの素人の石破と、未熟な刑事ではあっても元奨励会員で将棋には詳しい佐野のやり取りも物語を引き締めています。
小説の出来もいいのですが、もう一つの楽しみは将棋の描写です。僕は楽しかったけど、将棋の局面などはかなりリアルでマニアックなため、何が何だかわからなかったという読者も多かったと思います。それでも読者大賞2位というのは、書店員の方々の読書のプロとしてのレベルの高さを示しています。わからない部分をうまくスルーして楽しむ技術は凄いですね。
文章だけを読んでいると男性作家が書いたのだろうと推測してしまいますが、柚木裕子という女性の作家です。将棋の盤面の描写だけでも相当なエネルギーを使わないと書けないはずです。彼女はどうしてもこの小説を書きたかったのだという思いが伝わってきます。
登場人物にはプロアマ問わず何人かの実在の棋士たちがモデルになっていたり、居飛車穴熊や米長玉なども登場して将棋ファンには楽しめると思います。藤井システムが出てこないあたりもきちんと精査していますね。この小説が描く時代のもう少し後ですから。ちなみに藤井システムとは振り飛車党の改革者、藤井猛九段であり、藤井聡太君ではありません(笑)
一言でいうとタイトルに含まれている向日葵とはむしろ対照的な、いまにも降り出しそうな雨雲が物語全編を覆っているような印象でした。向日葵も小説の中で効果的に使われてはいるんですが。
上条桂介六段という将棋棋士がこの小説の主人公で、今から約四半世紀前、タイトル戦の大舞台に立つのですが、彼がそこに至るまでの軌跡と、日本に7つしかない高級駒とともに遺体が発見された事件の捜査が交互に書かれていて、この2つの話が一本の線としてつながっていく過程を丹念に描いています。舞台を現在に設定しなかったのは、将棋界への影響を考えたからかもしれません。いま将棋界で最も輝いている藤井聡太七段を陽とすれば上条六段は暗い陰を纏っています。将棋界全体を照らす眩いばかりの才能もあれば、悲しい才能もある。上条は後者です。
彼の生い立ちも母親はいなくなってしまい父親には虐待を受ける幼少期。しかし、そんな中でも彼を救おうとする恩人が現れます。そして何よりも将棋との出会い。上条は将棋の大好きな少年でした。才能を見込んだ恩人は上条の父親に将棋のプロ養成機関である奨励会に入会することを許可してほしいと頼みに行くのですが、上手くはいきません。上条は将棋から離れたり、またふとしたきっかけで将棋と再会したりを繰り返すことになります。
もう一つの小説の軸は高級駒とともに遺棄された殺人事件の捜査ですが、中心人物は石破というひと癖あるベテランと佐野というまだ若い元奨励会員の2人の刑事です。本業は一流でも将棋はずぶの素人の石破と、未熟な刑事ではあっても元奨励会員で将棋には詳しい佐野のやり取りも物語を引き締めています。
小説の出来もいいのですが、もう一つの楽しみは将棋の描写です。僕は楽しかったけど、将棋の局面などはかなりリアルでマニアックなため、何が何だかわからなかったという読者も多かったと思います。それでも読者大賞2位というのは、書店員の方々の読書のプロとしてのレベルの高さを示しています。わからない部分をうまくスルーして楽しむ技術は凄いですね。
文章だけを読んでいると男性作家が書いたのだろうと推測してしまいますが、柚木裕子という女性の作家です。将棋の盤面の描写だけでも相当なエネルギーを使わないと書けないはずです。彼女はどうしてもこの小説を書きたかったのだという思いが伝わってきます。
登場人物にはプロアマ問わず何人かの実在の棋士たちがモデルになっていたり、居飛車穴熊や米長玉なども登場して将棋ファンには楽しめると思います。藤井システムが出てこないあたりもきちんと精査していますね。この小説が描く時代のもう少し後ですから。ちなみに藤井システムとは振り飛車党の改革者、藤井猛九段であり、藤井聡太君ではありません(笑)