ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

マーメイドの涙

2023-07-31 12:04:49 | 

世界水泳最終日

女子メドレーリレー決勝は、ベテランの鈴木聡美の頑張りもあり

6位を保ってアンカーの池江璃花子がプールに飛び込んだ

 

 

白血病から復帰して1年足らずの2021年の春

東京五輪の代表選考の舞台に池江は立った

100メートルバタフライ決勝

横に並ぶ選手たちの肉体に比べ

池江のそれは明らかに見劣りした

肌は青白く、体は細い

病み上がりの姿は隠しようもなかった

ところがこのレースで池江は優勝した

恵まれた体格、上り坂の勢い

そうしたものを抜きに池江は勝った

この時ほど彼女を泳ぎの天才と思ったことはない

 

奇跡の東京五輪出場から2年

池江の肉体は回復途上とはいえ、随分アスリートらしくなった

50メートルバタフライでは7位に入った

しかしインタビューでは「いつになったら戻れるんだろう」と答え、悔しさを滲ませた

ただ、こうも言った

「まだまだ諦めません」と

 

メドレーリレーのアンカーとして6位を死守し、池江は役割を果たした

それから少しして池江はプールから出ようとした

しかし、そこから抜け出る力すら、彼女には残されていなかった

懸命に両腕に力を込める

その時、零れ落ちた水滴が 

彼女の全身から溢れた涙に見えた

 

 


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