先週の休日日直の時に、溺水の方が救急搬入された。救急隊の第一報から内容は厳しいものだった。
滝の近くで測量の仕事をしていた若い男性の姿が見えなくなった。同僚が救急要請をして、救急隊員が滝壺の中に沈んでいるのを発見した。その時点で、姿が見えなくなって30~40分経過している。雨のあとで、滑りやすい状況だった。救急車の装備では対応できず、さらに応援を呼んで、発見から引き上げるのに20~30分を要した。
心肺停止を確認して、救急隊が心肺蘇生術を開始した。心電図上はcardiac arrest。約50分かけて病院に到着した。心肺停止・瞳孔散大・対光反射消失で、その後も心肺蘇生術を継続したが、反応はなかった。
救急隊が蘇生術を開始してから、約2時間経過していた。家族は他県なので、到着を待つことはできなかった。蘇生術を中止して、死亡を確認した。警察の現場での事情聴取も終わって、会社の同僚の人たちも病院に到着していた。警察官に死亡確認したことを伝えた。
AIを行うと、頭部CTでくも膜下出血などの頭蓋内出血はなかった。胸腹部CTで両肺に肺水腫を認めた。死因は溺死で間違いない。警察が検死を行ったが、体表に外傷はなかった。
川に落ちてそのまま流されて滝壺に落ちたらしい。誤って滑り落ちたと思われるが、故意に突き落とされた可能性も否定はできない。後は警察の問題になる。警察官から、翌日大学の法医学教室で司法解剖になりますと言われた。遺体は警察で引き取って行った。
その日は一日内科当番なので、病院に泊まって待機していた。司法解剖後に結果がFAXで送られてくるので、それを参考に記載してくださいということだった。死体検案書は解剖所見以外を一通り記載しておいた。「死亡診断書・死体検案書記載の手引き」には、解剖ありの項目に「司法解剖施行」とだけ記載した例が載っていたので、その通りにした。その日の日直の内科の若い先生に、司法解剖の結果が夕方FAXで送られてくるので、解剖欄に追加すべきことがあったら、追記してもらうことにした。
司法解剖の結果は、「肺水腫があり、肺の割面から多量の水腫液を認める」とだけあった。今回の場合は、診断としてはAIで充分だった。もちろん司法解剖が絶対必要な状況だが。
半日後とか翌日の発見であれば救急搬送はされず、警察医が呼ばれたのだろう。