水曜日は当直だった。当直医用の夕食を食べ終わったころに、内科クリニックから連絡が来た。
発熱(39℃の高熱)で受診した20歳女性が、両下肢の脱力で動けなくなっているという。発熱以外の症状は左胸痛だが、乳房痛だった。出産後・授乳中でもないんですが、乳腺炎のようですと言われた。
発熱はその日の朝からで、前日までは何ともなかったそうだ。朝から倦怠感があり、午後まで自宅で休んでいたが、午後に発熱に気づいて内科クリニックを受診した。歩いて受診したが、その後に脱力で倒れ込んだ。
救急搬送されて、型通り新型コロナ(抗原定性)とインフルエンザ迅速検査を提出した(陰性)。当直の看護師さんが婦人科の助産師さんだったので、いっしょに診察してもらった。
確かに左乳房は硬結・熱感・圧痛があり、症状のない右乳房とは違う。呼吸性の痛みではないようだ。血液検査では白血球17000・CRPと炎症反応上昇を認めた。
肺炎・胸膜炎や胸壁の炎症との鑑別もあり、胸部CTで確認した。肺炎・胸膜炎の所見はなく、胸壁にも問題はなかった。乳腺はCT画像上は左右差がなかった。
ストレッチャー上で両下肢の膝立てはできる。手を貸すと、車いすに自分で移乗して、尿検査のためトイレまで行けた。脱力は高熱と朝から食事をとっていないことによる症状のようだ。
精神科病院に通院しているというが、現在は処方はなかった。左前腕にリストカットの痕が目立つ。救急隊の既往歴欄にはうつ病となっていたが、神経症レベルの問題だろうか。現在は仕事をしていない。
付き添ってきた母親は落ち着いていた。といって関心がなさそうというのでもない。言い方は変だが、普通の母親だった。他の疾患は否定的で乳腺炎として入院で診ます、他科の先生とも相談します、と説明した。
点滴と抗菌薬はセファゾリンで開始した。出産後・授乳中の乳腺炎ではないので、扱いとしては外科になる。外科は確かに乳癌を担当するが、通常は乳腺の結節・腫瘤を診て、乳癌との鑑別が専門だろう。乳腺炎はどうなのかと思った。
翌日に相談すると、エコー検査で乳房の炎症を確認して、外科で診ますと言ってくれた。