わが門の片山椿まこと汝
わが手触れなな土に落ちかも
茨原郡 物部広足
万葉集 2-4418
汝(なれ)
私の家の門のところの片山椿
私が手も触れないうちに土に落ちてしまうかも
防人として徴用されて、郷里を離れて、残してきたあの可愛い子。私が手も触れないうちに、ほかの人のところへ行ってしまうんじゃないかな~って詠っているのですね。
ここの白の椿は藪椿ではありませんが、この時代の椿はヤブツバキです。
椿の園芸種がたくさん作り出されるのは江戸時代くらいからです。
冬枯れの時期、ほかにはあまり見るべき花のない時期、椿だけは日差しを受けてつやつやと咲いています。
古事記には、常緑樹で、葉に光沢があり、冬枯れの時期に赤く華やかな花をつける椿はめでたいものとされていました。
万葉集にも椿を詠んだ詩はいくつか掲載されています。
そのうちの一つは椿の灰(紫に染めるときに椿の灰を使った)を詠んだもの。
紫は灰指すものぞ海石榴市(つばいち)の八十(やそ)の衢(ちまた)に逢へる児や誰
12-3101
ところが、古今集には椿を詠んだ詩はなし。
新古今集には一首のみ。
とやかへるたかのを山の玉椿
霜をばふとも色はかはらじ
全中納言匡房
7-750
とやかへるは鷹尾山の枕詞。
鷹尾山の美しい椿は霜を浴びても、色は変わらない。
祝いの詩です。
こちらは先ほどの黄水仙と同じく、昨日岬の家へ戻ったときに、家へのご挨拶で挿したものです。