一口に三陸海岸とか陸中海岸とか呼んでいる海岸線は、とにかく長い。一般には北端を久慈とし、南端を気仙沼とするようだ。久慈といえば岩手県の最北部で、気仙沼は宮城県でこの間180kmに及ぶという。この長い海岸を中心に「三陸海岸国立公園」が指定され、それから南は「南三陸・金華山国定公園」となる。
私はこれらの全貌を把握したいと思い、ガイドブックを探したが見つからなかった。「まっぷる『たびまる』東北」などを見ても、三陸は断片的にしか出てこない。例えば「盛岡からの三陸ドライブコース」とか「花巻からの…」とか断片的な記事で、三陸海岸を包括的に取り上げているものが無い。『たびまる』でも三陸海岸に触れた記事は数ページに過ぎない。
私は自分の書棚から古いガイドブックを引っ張り出した。昭和63(1988)年発行の実業之日本社版『ブルーガイドブック東北』で、これには陸中海岸だけで約30ページが割かれて詳細に解説されている。前掲『たびまる』をはじめ最近の旅行雑誌では、食べ物や買い物などの浅薄な記事ばかりで、ほとんど役に立たない。こうなると旅行ガイドブックでも“古典”に頼らざるを得ず、今更ながら『実業之日本社』の底力に敬意を表する。
と言うよりも、三陸海岸の人気が以前に比べて落ちているのではないかと気になった。人気が落ちているとしたら理由は何だろう。これだけの観光資源を持ちながら、岩手県は考え直す必要があるのではないか?
それはさておき八戸に降り立ち、新幹線のグリーン車(このツアーは往復グリーン車というのが売り物なのだ)からすっかり田舎風情の普通列車に乗り換え久慈に向かう。「八戸というのはなかなかの工業都市で大都会だなあ」などと思いながら街中を過ぎると、左側に太平洋に面する美しい海岸線が続く。
乗客も少ない各駅停車の普通列車に揺られながら、快晴の太平洋に身を委ねる旅の始まりは、都会の喧騒と緊張感を遮断してくれて、三陸ツアー本番へのアプローチとして十分な役割を果たしてくれた。
一時間40分を経て列車は久慈に到着、ここからは“不思議の国の北リアス”線、つまり本ツアー最初の目玉“スイーツ列車”の始まりである。