娘の主宰するオペラ普及団体ミャゴラトーリの『リゴレット』公演が半月後に迫った。6月4日(日)、新宿区の牛込箪笥区民ホールで15時の開演である。小劇場演劇的オペラとして、シリーズ的に岩田達宗氏の演出になるもので、『ラ・ボエーム』(2014年)、『カヴァレリア・ルスティカーナ』(2015年)、『カプレーティとモンテッキ』(2016年)に続く第4弾である。
『リゴレット』というのはどんなオペラか?
原作はヴィクトル・ユーゴーの戯曲で、その題名『王は愉しむ』が示すように、主人公のテノール・マントヴァ公爵の放蕩物語(女たらし物語)がまず頭に浮かぶ。代表的なアリア「女心の歌」(♪風の中の羽根のように いつも変わる女心・・・)がそれを示している。
一方、オペラの題名でもあるリゴレットに焦点を当てると、心も凍るような悲劇が浮かぶ。リゴレットはマントヴァ公に仕える背むしの道化師で、辛辣な発言や立ち居振る舞いで宮廷人に嫌われる存在だ。そのリゴレットが宝物のように育てたのが娘のジルダ。家からも出さず大事に育てた16歳のジルダは、マントヴァ公の巧みな誘いに堕ちる。それを知ったリゴレットは、殺し屋に大金を払ってマントヴァ公の殺害を計画、しかし、すでにマントヴァ公を慕うジルダは、その身代わりになって殺し屋の手に罹る。リゴレットが「してやったり」と殺し屋から受け取った袋から出てきたのは、マントヴァこうではなく、シルダであった。彼は大金を払って自分の娘を殺すことになったのだ。
この複雑な物語を、全く別の視点から見ることもできるかもしれない。
このオペラには、二人の重要な女性が登場する。一人はジルダで、動機はともあれ深窓で育てられたこの女性の純愛を受けたマントヴァ公爵は、彼女の中に、それまでの女性と全く別のものを見たかもしれない。言葉は平凡だが「掃きだめの鶴」であっただろう。
もう一人、こちらは掃きだめをこそ住処(すみか)とする、夜ごとはした金で体を売る売春婦マッダレーナという女性がいる。彼女の兄が前述の殺し屋で、つまり彼女は、「殺し屋の兄を持つ売春婦」という、社会の最下層に生きる女性である。しかし彼女にも愛は芽生える。マントヴァ公の暗殺を知るマッダレーナは、「何とか命だけは助けて」と兄に願う。その結果身代わりとして殺されるのがジルダとなったのだ。マントヴァ公は、このマッダレーナの愛をどう受け止めたのだろうか? 因みにマッダレーナとは、イタリア語で、「マグダラのマリア」の意、キリストが娼婦の中で唯一許した女性である。
これらのことを、オペラ界の鬼才岩田達宗氏がどう描く出すのであろうか?