今年度の「G7・サミット」が、シチリア東部の街タオルミーナで開かれると聞いて、あの「シチリアの旅」を懐かしく思い出していた。すでに12年も前のことであるが。
シチリアは、地中海の真ん中に浮かぶ三角形の島である。首都パレルモを擁す北側の海岸線はティレニア海に面し、ローマ帝国、ナポリ帝国、ヨーロッパ列強に向かってきた。南側の線は地中海に面しアフリカと対峙する。古くから、いわゆるカルタゴ戦争に明け暮れてきた。東側はイオニア海に面し遠くギリシャを臨む。ギリシャ文明の跡を色濃く残すシラクーサ、カターニアなどという美しい名の街が並ぶ。
その中の一つがタオルミーナで、名前の美しさでは引けを取らない。シチリアの名峰エトナ山の山裾にできた瘤のようなタウロ山が、イオニア海に流れ落ちる絶壁にへばりつくように生まれたこの町は、イタリア屈指の名勝といわれている。知る人が多いであろう映画『グラン・ブルー』の舞台となった街である。そういえば『グラン・ブルー』は、美しい海と坂道の多い街並み、強烈なシチリアの太陽に輝くホテル「サン・ドメニコ・パレス」、主人公ジャックとジョアンナが恋を育んだウンベルト通りなどを、いやというほど見せつけてくれた。
しかし、シチリアの有史3000年の歴史は、大国の侵略の歴史でもある。紀元前814年頃のフェニキア人のカルタゴ建設に始まり、前756年のギリシャ人の入植、前264年のローマのシチリア遠征と続く。従って、東海岸のシラクーサやカターニアには、夥しいギリシャ・ローマの遺跡が残っている。
タオルミーナにも、郊外の切り立った岸壁の上に大規模なギリシャ劇場跡が残されている。ゲーテは、その劇場の最上段に腰を下ろし、エトナ山からカターニャ、シラクーサまでの美しい海岸線を眺めてこう記している。
「見渡せばエトナ山脈の山背は全部視界に収まり、左方にはカタニア、否シラクサまでも伸びている海岸線が見え、この広大渺茫たる一服の絵の尽きるところに、煙を吐くエトナの巨峰が見える…」(岩波文庫『イタリア紀行(中)』154頁)
シチリアを侵略した大国は、前の文化に自分の文化を上塗りして次々と去っていったが、自然界にあってはこのエトナ山が破壊と豊饒を繰り返した。何回にも及ぶ大噴火と大地震、中でも1693年の大地震ではこのタオルミーナも全壊したといわれるが、反面、噴火による火山灰が豊かな土壌を育て、たぐいまれな豊富な果実や農産物を育んできたのだ。
禍福はあざなえる縄のごとしというべきか。このような歴史が刻まれた地で開かれる「G7」、現代の大国首脳たちは、そこで何を語り合うのであろうか?
カターニャからエトナ山を望む(2005年3月6日撮影)