旅のプラズマ

これまで歩いてきた各地の、思い出深き街、懐かしき人々、心に残る言葉を書き綴る。その地の酒と食と人情に触れながら…。

好評だったミャゴラトーリ公演 オペラ『愛の妙薬』

2019-06-17 15:04:16 | 文化(音楽、絵画、映画)

 

 岩田達宗氏の演出によるミャゴラトーリ公演「小劇場演劇的オペラ」は、『ラ・ボエーム』以来今年で6回目になる。演目は、ミャゴラトーリが発足時に取り組んだ『愛の妙薬』。しかも、岩田氏の新解釈が至る所に取り入れられた、実に楽しい日本版『愛の妙薬』として登場した。
 先ず、原作は農村が舞台と思われるが、ここでは都会が舞台で登場人物たちはバンドマンたち。指揮者の柴田真郁氏はバンドマスター役を演じながら指揮を執る。そこに現れる妙薬を売る薬売りドゥルカマーラが、『男なつらいよ』の寅さん役ときた。寅さんのセリフそのままに日本語で登場したのには驚いたが、思えば、寅さんという男は、いつもマドンナに惚れる男として登場するが、最後は、そのマドンナの恋の成就を助ける男として終わる。つまり、『愛の妙薬』を売る男としてはピッタリなのかもしれない。これにより、この世界的オペラが、その原型を失うことなく、実に自然に、身近な日本版オペラになった。
 ネモリーノは、うだつの上がらないバンドマン(原作は下層農民)、可哀そうないじめられっ子として登場する。それが、こともあろうに花形歌手(原作は地主の娘)アディーナに恋をする。そもそも成就するはずのない恋だ。そこを可能にするには、寅さん流の神がかり的妙薬が必要だった…、しかしそれは「
薬}ではなく、ネモリーノのひたむきな愛を知るアディーナの「心」であった
 また、その妙薬がコーラというのも驚いた。これまで見た『愛の妙薬』ではワインであった。ワインはヨーロッパでは普通の飲物だろうが、日本人には高級感がある。コーラという最も普通の飲物が、不可能と思える二人を結び付けようとするところに面白さがあった。

 これらの手法を取り入れたことにより、平凡な喜劇に堕したのではないかと言えば決してそうではない。ドニゼッティオペラの高い品格を維持し、その芸術性、音楽性を格調高く謳い上げている。それは、岩田氏と柴田氏に指導された、出演者たちの高い力量が生み出したのだろう。特に、主演者はもとより、わき役、合唱隊を含めた歌唱力が素晴らしい。オーケストラ役を一人でこなす浅野菜生子さんのピアノともども、日本最高の水準にあるのではないかといつも思う。 実に楽しく、且つ、音楽的欲求を十二分に充たしてくれるオペラであった。


  
     
  カーテンコールで観客に応える出演者たち(上が初日6月6日、下が二日目(同7日)


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