狼魔人日記

沖縄在住の沖縄県民の視点で綴る政治、経済、歴史、文化、随想、提言、創作等。 何でも思いついた事を記録する。

続・世にも不思議な宮城晴美の論文 木に竹を接ぐ目くらまし論

2009-07-02 10:01:40 | ★集団自決

 

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 論文から消えたキーワード

さて、読者の中には宮城晴美氏の世にも不思議な論文を既に全文をお読みになった方がいると思うが、左翼の方が沖縄戦を論じるとき、必ずといっていいほど出てくるお題目のようなキーワードが論文には一回も出てこないのにお気づきだろうか。

特に、宮城氏の場合は、法廷証言の際提出した「陳述書」にもこのキーワードが繰り返し述べられており、このキーワードは日本軍が構造的に住民の自決を強制したものとされていた。

左翼の方々が沖縄戦での「悪逆非道日本軍」を糾弾するとき必ず出てくるキーワードとは「軍官民共生共死の一体化」というお題目である。

先日行われた「太田昌秀・佐藤優講演会」でも太田氏はこのキーワードを繰り返し、実際は「共生共死」ではなく「共死」のみを強制したと断定し、聴衆の拍手を得ていた。

このキーワードについてはここでは触れず稿を改めて論じてみたい。

■知られたくない『母の遺したもの』の真実■

この論のいかがわしさは、①冒頭の論者のプロフィール紹介にも垣間見ることが出来る。

著書の紹介で、『母の遺したもの』は紹介せず、『新版 母の遺したもの』を紹介しているが、旧版の「母の遺したもの」こそ、座間味集団自決の生き証人である彼女の母・宮城初枝氏が書き遺した真実を語る遺言ともいえる書物であり、彼女を一介の那覇市の臨時職員から、出版後3ヶ月で「那覇歴史博物館・主査」の要職に出世させた重要な本ではないのか。

彼女が自著のリストから削除せねばならぬ理由は、それだけこの本が彼女にとっても「集団自決訴訟」にとっても重要な意味を持つからである。 

つまり旧版「母の遺したもの」とは、その記述を読めば、宮城氏が法廷で証言するわずか一ヶ月前に唐突に前言を翻した卑劣な言動が白日の下に晒されることになり、読者の目には触れて欲しくない本なのである。

■「集団自決」『母の遺したもの』の衝撃■

言葉を替えれば座間味村での集団自決と、虚偽の「梅澤命令説」が流布され定着した経緯について、全容をほぼ明らかにしたのが、旧版『母の遺したもの』といえるのである。

宮城晴美氏は『母の遺したもの』の出版の5年前の平成7(1995年)年6月に、沖縄タイムスに「母の遺言」という記事を書き、この中で、後に『母の遺したもの』で発表する内容の概要を述べている。

まず、同記事の「上」では、母・初枝氏が、『悲劇の座間味島』に記載した「梅澤命令説」証言が独り歩きしたことにより苦悩し、その結果梅澤氏を戦後、社会的に葬ってしまったという自責の念を有しており、娘である晴美氏に手記の書き直しを託したとの経緯が述べられている。

そして、記事「中」には、宮城晴美氏は、母初枝氏が援護法の補償を島民が受けるために「梅澤命令説」を公的に証言せざるを得なかった事情を明らかにしている。

そう、宮城晴美氏はタイムス紙上で、母の証言として、援護法のため「梅澤命令説」という虚偽の証言をしたことを自分の筆で書いているではないか。

新報論文④のつぎのくだりを読むととても同じ人物が書いた文だと信じることが出来ない真逆の記述がある。

その人たち(証言者)がいま最も懸念していることは、「靖国」を賛美する人たちによって、「集団自決」の悲惨さが美化されだしたことや、援護法適用のために「集団自決」の軍命が「方便」であったとして、元戦隊長らを擁護する動きが出ていることである>

新報論文④では、あたかも援護法適用と集団自決の軍命は関連無いように記しているが、前記タイムスの記事では、母初枝氏が援護法の補償を島民が受けるために虚偽の「梅澤命令説」を証言したと書いているではないか。

更に、タイムス記事では、虚偽の証言をした詳述が続いている。

その『隊長命令』の証人として、母は島の長老からの指示で国の役人の前に座らされ、それを認めたというわけである。
母はいったん、証言できないと断ったようだが、『人材、財産のほとんどが失われてしまった小さな島で、今後、自分たちはどう生きていけばよいのか。島の人たちを見殺しにするのか』という長老の怒りに屈してしまったようである。
 それ以来、座間味島における惨劇をより多くの人に正確に伝えたいと思いつつも、母は『集団自決』の個所にくると、いつも背中に『援護法』の“目”を意識せざるを得なかった。」

この部分こそ母・初江氏が真実を歪曲せねばならなかった理由が語られている重要な箇所ではないのか。

ただ、この部分は、おそらくは、あまりに赤裸々に実情を明らかにし過ぎる叙述であるとの考慮からであろうか、『母の遺したもの』では、削除されている。

 さらに、同記事の「下」では、宮城晴美は、「島の有力者たちがやってきたものの、いつ上陸してくるかも知れない米軍を相手に、梅澤隊長は住民どころの騒ぎではなかった。隊長に『玉砕』の申し入れを断られた五人は、そのまま壕に引き返していった」、「その直後、一緒に行った伝令が各壕を回って『忠魂碑前に集まるよう』呼びかけたのである」、「伝令の声を聞いたほとんどの住民が、具体的に『自決』とか『玉砕』という言葉を聞いていないなどと宮城晴美は母の体験や住民から聞き取り調査した結果を要約して述べ、原告梅澤が住民に「玉砕」の指示を出していないことを明らかにしている。

今回の宮城氏の論文にも、「『米の配給だ』 『いや玉砕だ』と住民の情報が錯綜し、」というくだりがあるが、いずれも住民がパニックになった状況の自決であることでは完全に一致している。

晴美氏が書いたこれまでの文を読めば、論文④の<援護法適用のために「集団自決」の軍命が「方便」云々>という文章を同じ人物が書いたとは到底信じられないだろう。

■タイムスが絶賛した『母の遺したもの』ー■

平成12年12月、宮城晴美は『母の遺したもの』を発表し、県内でも話題になった。

この出版を報道する沖縄タイムスの記事で、この書籍の紹介として「『集団自決を命じたのは座間味村役所の助役だった』という事実-中略-を収録」と書かれている。

当時、「梅澤命令説」が虚偽であり、「宮里盛秀助役命令説」が真実であることがこの書籍により明らかにされたと、一般的にとらえられた。

そして、発表の約1年後、『母の遺したもの』は第22回沖縄タイムス出版文化賞を受賞する。

その受賞を報じる沖縄タイムスの記事では、この書籍の紹介として「実は軍命はなかった、と母は著者に明かす」とまとめられている。

なお、この書籍の出版当時は一般的に「隊長命令」と「軍命令」とは異なるなどとは特に意識されてはいなかった。

「集団自決問題」の火付け役とも言える沖縄タイムスですら、『母の遺したもの』には集団自決に際して「軍命」はなかったことがが確かな根拠にもと語られているものと認識し、その真摯な叙述ぶりとも合わせて高く評価して賞を授与したのであった。

改めて指摘するが、宮里盛秀助役が最終的に集団自決を住民に命じたことが『母の遺したもの』には次のように明瞭に語られている。

「追い詰められた住民がとるべき最後の手段として、盛秀は『玉砕』を選択したものと思われる。」(p216)

「結局、住民を敵の『魔の手』から守るために、盛秀は自分や妻子の命をもかけて、『玉砕』を命令し、決行した。」(p219)

「梅澤命令説」が虚偽であったことは、『母の遺したもの』の発行と、それが沖縄タイムス出版文化賞を受賞したことによって、学問的にも社会的にも完全に確立し、定着したといえるのである。

■靖国論を集団自決の検証に持ち込む大愚■

くり返すが、集団自決問題は歴史の事実解明というある意味単純な問題であった。 

ところが左翼勢力は「隊長命令」の証明が不可能だと悟ると、「軍の命令」、さらに「軍の関与」と論点ずらしを行っていく。 

そして大江健三郎氏の「軍のタテの構造による仕組まれた命令」といった究極の論点ズラシに至るのである。

この論理は沖縄の左翼勢力が合言葉にする「軍官民共生共死」と結びついて第32軍が「軍官民の共死」を命じていたと発展していく。

しかし、「軍官民の共死」のスローガンは、現代史家秦郁彦氏が米公文書館から発掘した、英文訳の「南西諸島警備要領」により、学術的には完全に否定されている。(『沖縄戦「集団自決」の謎と真実』)

論理的に否定されると、今度は「靖国を賛美する人びと」といったレッテル貼りで、論点をごまかすのは左翼勢力の手法だが、歴史の真実の解明には「靖国賛美」も「靖国嫌悪」も無い。 

ある事実が「あったのか、なかったのか」を客観的に検証するに「靖国云々」や「男女差別云々」といった恣意的概念を持ち込まねばならぬほど宮城氏の論は破綻しているのである。

いや、むしろ彼女の「集団自決論」はそれ自体で既に破綻しているので、ジェンダー論や「靖国賛美論」で目くらましでもしなければ何も語れない立場なのであろう。

■ジェンダー論で歴史を語る愚かさ■

前稿の末尾でジェンダーの視点で歴史を論じるのは木に竹を接ぐような不毛の議論だと述べたが、

ジェンダーでは教組とも言うべき上野千鶴子東大教授が、「従軍慰安婦問題」にジェンダー論で首を突っ込んできて、雑誌『論座』の対談で、論戦相手の日下公人多摩大学教授に木っ端微塵に論破された例が記憶に新しい。

ジェンダー教組上野千鶴子氏が「従軍慰安婦」問題の「強制連行の有無」に参戦した様子は次のエントリに詳しい。

役者は揃った  河野談話見直しへ 従軍慰安婦の虚構性

現在の時点でも行き過ぎだと批判の多い「ジェンダーの視点」で、過去の家父長制度が強固だった戦時中の歴史を論じる愚かさは、ジェンダーの大先輩上野千鶴子女史が既に身をもって証明していることを宮城晴美氏はご存知なかったのだろうか。


 

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沖縄戦「集団自決」の謎と真実
秦 郁彦
PHP研究所

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