米新政権の発足後、初めて対面の首脳会談に臨んだ菅義偉首相とバイデン米大統領。共同声明と会談後の記者会見で、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設が「唯一の解決策」とする立場を踏襲した。県にとって「普天間の一日も早い危険性除去につながらない」(幹部)辺野古移設が、対中国を念頭に両首脳が前面に出した「日米同盟強化」の名の下に正当化された。県側は「思考停止だ」と反発を強める。(米国特約記者・平安名純代、東京報道部・嘉良謙太朗、政経部・大城大輔)

 辺野古移設が共同声明に盛り込まれたのは、2017年2月の首脳会談以来とみられる。

 声明は米海兵隊のグアム移転や、馬毛島への米軍空母艦載機の陸上空母離着陸訓練(FCLP)移転も明記した。ただ、首相は共同会見で、辺野古だけに言及した。

 首相は官房長官時代から辺野古移設を主導しており「並々ならぬ思いがある」(政府関係者)。バイデン政権初の対面会談でもあり、日本側関係者は「会談や声明で『辺野古』がどこまで取り上げられるかは、首脳に委ねられる」としていた。最終的に、首相の意向が反映したとみられる。

うなずく大統領

 「米国と日本は全て同じ方向を向いているわけではない。しかし、辺野古移設に関しては、われわれの足並みに乱れはない」

 会談に同席した米政府高官は本紙の取材に、うっすらとした笑みを浮かべ、こう答えた。「辺野古移設を着実に進める」との首相の言葉に、バイデン大統領が満足そうにうなずいたと情景描写もしてみせた。

 首相は、在日米軍再編を進める理由を「地元の負担軽減を進める観点から」と語る一方で「日本の防衛力強化への決意を伝えた」と胸を張った。

 首相に応えるように、声明は「米国は、核を含むあらゆる能力を用いた日米安全保障条約の下での日本の防衛に対する、揺るぎない支持を改めて表明した」との文言を盛り込んだ。

 ホワイトハウス高官は「中国が米国や同盟国にとって脅威だと明示できたことは、大きな収穫」と前のめりな姿勢を見せる

負担軽減に懸念

 ただ、沖縄周辺では日米共同訓練が増加し、自衛隊による南西諸島の基地機能強化も進む。会談が発した「同盟強化」の号令に、県関係者は「基地負担軽減を訴える沖縄の声はかき消されていないか」と懸念する。

 米中対立が深まり、国内世論には辺野古の新基地建設を正当化する向きもある。

 県幹部は「集中から分散へと変わってきている米軍の戦略上、それでいいのか。『中国が脅威だから辺野古が必要』というのは、思考停止だ」と批判した。

(写図説明)会談後、共同記者会見に向かうバイデン米大統領(右)と菅首相=16日、ワシントンのホワイトハウス

(写図説明)日米共同声明の「台湾」を巡る表記比較