慢心

2年前に介護施設を開業し、今やすっかり実業家になった女性と数か月ぶりに会った。
すっかり元気がない。

聞くと、自分の親がお金をせがむようになったらしい。しかも実の姉にまで…と
のこと。いろいろあって、3か月前に家族との縁を切ったのだとか。
「そんな家族じゃなかったんだけど、本当にお金って人を変えてしまう
んですね…」と。

彼女は私と同い年で、長いこと介護施設で働いていて、「いつかは…」と思っていた
ところ、旦那さんの親に土地を譲ってもらったタイミングで、開業にこぎつけた。県
の補助金を利用し足らないところは、銀行からの借金でまかなったと聞いた。

施設は当初から満床で、今年に入ってさらに土地を借り、同じ規模でもうひと施設
建設中なんだとか。介護ビジネスは右肩上がりだが、それでもワタミのように上手く
いかないところもある。彼女は現場を知っていることが、強みになったのかもしれな
い。確かにこのことろ身なりが随分、派手になった気がしていた。時計もバッグも、
車も高級外車になったと聞いた。

「休みもないし、自分へのご褒美だから…」という言葉も度々、聞いた。

最初のころは、生き生きとしていて、「ひたすら、みんなのおかげです…」という
姿勢にも好感が持てた。今でも、口から出る言葉は謙虚だが、どこか浮足だっている
ようにも見える。そういう姿に親や兄弟が反応したのかも…と、一瞬、思った。
だからといって、親が子に金をせがむのはどうかと思うけれど…。

欲しいものがあり、お洒落もしたい。それを人に頼るわけでもなく、自分の力で
手に入れているのだから、それはそれで凄いことだと思う。人手不足の業界でも、
上手く人を育て、回していける才能もある。
けれど、周囲への感謝を忘れると、いつの間にか孤立していることもある。

なんとなく、彼女を見てそう思った。

成功から学ぶことの多くは慢心であり、失敗から学ぶことは、ことのほか多い。
良いことの後には、悪いこともあり、結して天狗になってはいけない。

いつでも、心に留めておきたい。

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