日本3大奇書の筆頭、読んだ者は精神に異常をきたすと言われていて、しかも長いので、ある程度は読みにくさを覚悟して読み始めたのですが、割とすんなり読み切れました。
最初の導入部は見事で、精神病院の一室に閉じ込められた感がヒシヒシと伝わってきました。
物語は、目覚める前の記憶を完全に失った青年が、何かしら重大な事件に巻き込まれており取り戻したときにすべてが解決すると言われます。とは言え、まったく覚えていないのだから仕方ありません。部屋で見せられた物の一つに「ドグラ・マグラ」という記憶を失い入院していた青年が記憶を取り戻すまでを記した本がありましたが、それは物語の最後まで開かれることなく終わります。
「胎児の夢」「脳髄論」「阿呆陀羅経」と来て、二人の博士の闘争に巻き込まれたらしいと悟る主人公なのですが、自分が誰なのかまったく解りません。
精神遺伝による殺人者なのか、その遺伝を持っていると知って、その引き金になる巻物を見せたヤツが悪いのか。
隣の部屋の精神を病んだ絶世の美少女が婚約者なのか。その子は自分に殺されているのではないのか。それとも別の誰かに殺されたのか。
なぜ、隣の部屋で叫んでいるのか。
自殺したはずの博士が突然現れて、これは陰謀だと主張し出したり、確かな物が全くなく物語が進みます。
何やら、真相に近づいたと思うとスルリと逃げられ、いつまで経っても、その糸口を掴むことはできません。
真相がまったく解らないまま、物語は終わります。
で、何が面白いのかと言えば、夢の面白さと言えるでしょう。
わたしは徹夜をしたとき、午前5時頃に猛烈に眠気が襲ってきて、そのときに思ったのは「寝たい」ではなく、「夢を見たい」でした。睡眠時に夢を見ることは人間にとって心地良いことであろうと思われます。
たとえそれが悪夢であっても。
『ドグラ・マグラ』は、胎児の夢の再現です。卵細胞が二つに分裂したときから始まる単細胞生物から脊椎動物、そして人間へ進化した過程を辿りながら、胎児は夢を見ています。そして、先祖が体験したことの記憶すら夢の中で再現しているのです。