● 原子力規制委員会委員長及び委員候補3名の人事案の撤回を求める緊急要請
原子力規制委員会委員長及び委員候補3名の人事案の撤回を求める緊急要請
2012年8月1日
内閣総理大臣 野田佳彦 殿
環境大臣・内閣府特命担当大臣(原子力行政担当)細野豪志 殿
経済産業大臣 枝野幸男 殿
脱原発弁護団全国連絡会
共同代表 河 合 弘 之
同 海 渡 雄 一
事務局長 只 野 靖
第1 はじめに
脱原発を志向する全国140名余の弁護士有志で構成される私たち脱原発弁護団全国連絡会は、政府が2012年7月26日に国会に提示した原子力規制委員会の委員長及び委員の人事案のうち、田中俊一氏及び更田豊志氏・中村佳代子氏については、以下に述べるとおり、原子力規制委員会設置法(以下「設置法」という。)及び内閣官房原子力安全規制組織等改革準備室名義の平成24年7月3日付「原子力規制委員会委員長及び委員の要件について」(以下「7月3日要件」という。)が定めた原子力規制委員会委員長及び委員の欠格要件に明らかに該当すると思われるので、速やかに政府に対し、人事案を撤回することを求める。
第2 委員選任のプロセスが求められていた手続を満たしていない
6月28日に示された国会事故調の報告書は新たな規制組織の独立性について「高い独立性:①政府内の推進組織からの独立性、②事業者からの独立性、③政治からの独立性を実現し、監督機能を強化するための指揮命令系統、責任権限及びその業務プロセスを確立する。」ものとし、委員の選定のプロセスについては、「委員の選定は第三者機関に1次選定として、相当数の候補者の選定を行わせた上で、その中から国会同意人事として国会が最終決定するといった透明なプロセスを設定する。」とされた。
日本弁護士連合会は7月19日付の会長声明において、法の定める欠格要件と政府の定めたガイドラインに従うだけでなく、委員長・委員が国会の同意人事となっている趣旨
を踏まえ、「候補者の原子力安全に関する過去の主要な言動を国会事務局において収集し、国会に提出した上で、候補者を国会に招致し、その資質と識見に関して時間をかけて質疑を行い、そのプロセスを公開し、さらに、その候補者に対する国民の意見を聴取するべきである。」と意見を述べている。
現在政府が進めている委員の選定のプロセスはこのような国会事故調や日弁連が必要とした手続を全く満足しておらず、このような形で委員の選任が強行されれば、国民の信頼は地に墜ちてしまうであろう。
第3 更田氏・中村氏と田中氏は不適格である。
1 法の定める欠格要件
法7条7項は、規制委員会の委員長及び委員の欠格事由について、以下のとおり定めている。
「一~二 (略)
三 原子力に係る製錬、加工、貯蔵、再処理若しくは廃棄の事業を行う者、原子炉を設置する者、外国原子力船を本邦の水域に立ち入らせる者若しくは核原料物質若しくは核燃料物質の使用を行う者又はこれらの者が法人であるときはその役員(いかなる名称によるかを問わず、これと同等以上の職権又は支配力を有する者を含む。)若しくはこれらの者の使用人その他の従業者
四 前号に掲げる者の団体の役員(いかなる名称によるかを問わず、これと同等以上の職権又は支配力を有する者を含む。)又は使用人その他の従業者」
2 政府の定めた欠格要件
さらに、政府は、7月3日付要件において、委員長及び委員について、上記法律上の欠格要件に加えて、以下の欠格要件を加えた。
「 ① 就任前直近3年間に、原子力事業者等及びその団体の役員、従業者等であった者
② 就任前直近3年間に、同一の原子力事業者等から、個人として、一定額以上の報酬等を受領していた者」
3 原子力事業者とは
「原子力事業者」については、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(「原子炉等規制法」)58条1項に以下の定めがある。
「製錬事業者、加工事業者、原子炉設置者、外国原子力船運航者、使用済燃料貯蔵事
業者、再処理事業者、廃棄事業者及び使用者(旧製錬事業者等、旧加工事業者等、旧原子炉設置者等、旧使用済燃料貯蔵事業者等、旧再処理事業者等、旧廃棄事業者等及び旧使用者等を含む。以下「原子力事業者等」という。)(略)」
このように、原子炉等規制法は、営利組織か非営利組織かで、区別を設けていない。これは、核原料物質、核燃料物質及び原子炉が本質的に危険なものであり、営利・非営利に関係なく、ひとしく規制する必要があることによる。
こうした法律の趣旨及び文言からいって、原子炉等規制法がいう「原子力事業者等」は、設置法が欠格事由とする原子力事業者にそのまま該当するというべきである。また、7月3日文書における「原子力事業者等」についても、別異に解すべき理由はない。
4 委員候補の更田豊志氏・中村佳代子氏は明らかに法に定める欠格要件に該当する
しかるに、委員候補の更田豊志氏は、現在、独立行政法人日本原子力研究開発機構の副部門長である。同機構は、高速増殖炉もんじゅを設置し使用済み核燃料の再処理を行う原子力事業者である。更田氏は、現在においても同機構の従業員であって、同氏が上記の政府の欠格要件に該当することは明らかである。
また、委員候補の中村佳代子氏は、公益社団法人日本アイソトープ協会のプロジェクトチーム主査である。同協会は、研究系・医療系の放射性廃棄物の集荷・貯蔵・処理を行っており、「原子力に係る貯蔵・廃棄」の事業を行う者であり、法の施行後は原子力規制委員会による規制・監督に服することになるのであって、法7条7項3号の定める原子力事業者等に該当する。中村氏は、現在においても同協会の従業員であって、同氏が上記の政府の欠格要件に該当することは明らかである。
政府は、独立行政法人日本原子力研究開発機構・公益社団法人日本アイソトープ協会は営利企業ではないため、「原子力事業者等」に該当しないとしているようである。しかし、原子力規制委員会と同委員会の規制対象となる者との間の利益相反を防止するとの欠格要件の趣旨は、非営利団体にも等しく妥当する。政府の解釈は、欠格要件を定めた法の趣旨を理解せず、「原子力事業者等」を不当に狭く解するものであって、不当であることは明らかである。
5 委員長候補の田中俊一氏の経歴は実質的に欠格要件に該当する
委員長候補の田中俊一氏は、日本における原子力発電研究の拠点であった日本原子力研究所の副理事長まで務め、その後も上記日本原子力研究開発機構の特別顧問、高度情報科学技術研究機構(旧(財)原子力データセンター)の会長、顧問を歴任し、原子力
発電の推進に一貫して関わり、2007年から2009年まで、原子力委員会委員長代理を務めたものである。同機構は、高速増殖炉もんじゅを設置し使用済み核燃料の再処理を行う原子力事業者であることは前述したとおりであり、田中氏についても、欠格要件に該当する。
仮に、在任期間の点で、法及び政府が定める欠格要件に直ちに該当するものではないとしても、上記の欠格要件の趣旨に鑑みれば、実質的には欠格要件に該当するものといえる。
さらに、田中氏は金額が少ないとはいえ原子力事業者から最近も相当額の報酬を受け取っていた事実も判明しており、原子力損害賠償紛争審査会における自主避難者の実情についての無理解な発言なども考慮すると、上記のような欠格要件を定めた法の趣旨に鑑み、原子力規制委員会委員長候補としての適格性がないといわざるを得ない。
6 結論
よって、更田氏・中村氏及び田中氏については、いずれも政府が定めた欠格要件に該当するため、委員候補を差し替えるよう求める。
以上
(本声明に関する問い合わせ先)
脱原発弁護団全国連絡会
(東京共同法律事務所 03-3341-3133)
弁護士海渡雄一、弁護士只野靖
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【ポイント1 法の欠格要件と政府が定めた欠格要件】
○法の欠格要件(法7条7項3号)
原子力事業者等及びその団体の役員、従業者である者
○政府が定めた欠格要件
就任前直近3年間に原子力事業者等及びその団体の役員、従業者等であった者
*更田氏・中村氏が該当
【ポイント2 明らかな利益相反のおそれ】
○規制委員会設置前
許可・規制
原子力安全・保安院 独立行政法人日本原子力研究開発機構
文部科学省 公益社団法人日本アイソトープ協会
○規制委員会設置後
許可・規制
独立行政法人日本原子力研究開発機構
原子力規制委員会
公益社団法人日本アイソトープ協会
【ポイント3 営利性は問題となりえない】
○政府の見解=「原子力事業者等」は営利企業に限られる。
○しかし・・・
①利益相反のおそれは営利性に関わらず存在
②法の欠格要件は営利性を要件とせず→政府の要件も同様に解すべき
③他の法律でも「原子力事業者」は営利企業に限られず
(原子炉等規制法、原子力損害賠償法等)
原子力規制委委員会設置法
7条7項 次の各号のいずれかに該当する者は、委員長又は委員となることができない。
三 原子力に係る製錬、加工、貯蔵、再処理若しくは廃棄の事業を行う者、原子炉を設置する者、外国原子力船を本邦の水域に立ち入らせる者若しくは核原料物質若しくは核燃料物質の使用を行う者又はこれらの者が法人であるときはその役員(いかなる名称によるかを問わず、これと同等以上の職権又は支配力を有する者を含む。)若しくはこれらの者の使用人その他の従業者
四 前号に掲げる者の団体の役員(いかなる名称によるかを問わず、これと同等以上の職権又は支配力を有する者を含む。)又は使用人その他の従業者
原子力規制委員会委員長及び委員の要件について(内閣官房原子力安全規制組織等改革準備室)
2(2)法律上の欠格要件に加えて欠格要件とする事項
② 任前直近3年間に、原子力事業者等及びその団体の役員、従業員等であった者
②就任前直近3年間に、同一の原子力事業者等から、個人として、一定の額以上の報酬等を受領していた者 |