●落雷事故対策マニュアル 財団法人 埼玉県体育協会 埼玉県スポーツ科学委員会
落雷事故対策マニュアル
1 落雷事故対策マニュアル
近年、落雷による死傷者の発生や落雷事故を避けるため、屋外でのスポーツ
活動を中止又は中断せざるを得ない状況が増えております。
また、落雷事故の裁判では、主催者や引率監督の責任を指摘した判決が出されております。
一方、落雷のメカニズムは、現在の最新科学でも完全に解明されておらず、
関係者も大変憂慮しているところです。本会ではこのような状況を鑑み、
スポーツ科学委員会の英知を結集し落雷に関する最新の知識・情報等を基に
「落雷事故対策マニュアル」を作成しました。是非、ご一読いただきご活用ください。
1.雷の特性
雷雲(入道雲のような積乱雲や頭上に厚い黒雲が広がる場合)は、10 分間ぐらいで急成長し(全寿命はおよそ45 分)、
4~7kmの背丈のものが時速5~40kmという高速で移動します。
そのため、いつ、どこに落雷が起こるか予測は困難です。
どんなに遠くても、かすかにでもゴロッ(雷鳴)またはピカッ(雷光)を認識したら、
すぐにでもグラウンド(屋外プールを含む:以下同様)に落雷する危険があると考えて対処しなければなりません。
人体そのものが電気を通すので、金属を身につけているかどうかということとは無関係に、
落雷を受けることが実験的に証明されています。
屋外スポーツの場合は、広大なグラウンドの中では人間が一番落雷を受けやすいので、死亡事故につながる危険性が高くなります。
2.早めの中断
確率的にはグラウンドに落雷することは少ないと考えられますが、やはりスポーツはすぐに「中断」して安全を確保すべきです。
試合開催のために多くの人手と時間を費やしたことや、中止した試合の再試合のことを考えると、
主催者としてはなかなか「中止」という決断に踏み切れません。
最近の落雷は頻発する傾向にありますが、それでも試合を「中止」する必要はめったにありません。
多くの場合数十分程度の「中断」で済みますので、選手の安全のために先ず試合を止めるべきです。
3.落雷の予測
落雷を予測する上で、以下の4つの状況を注意深く観察します。
特に、(1)から(3)までの前提があり、かすかにでもゴロッ(雷鳴)またはピカッ(雷光)を認識したときには、
スポーツをただちに中断してください。
(1)入道雲が発達したときや、頭上に厚い雲が広がったとき
(2)AM ラジオの雑音が頻繁になったとき(ただし、最近のラジオは雑音が入りにくい設計となっています)
(3)天気予報、気象情報に雷注意報が出ているとき
(4)携帯型雷警報器(ストライクアラート:12、000 円程度)が雷の電磁波を検知しているとき(検知範囲は半径60km の円)
4.落雷からの避難
(1)安全な空間
a.建物等
コンクリート建造物や自動車等の中に避難します。木造建築物は比較的安全空間ですが、
電線などが通っているので壁から1m 以上離れて部屋の中央にしゃがんでいるのが良いでしょう。
b.屋外の高さ4~30m の物体の保護範囲
高さ4~30m の物体(樹木や電柱等)の近くで、45 度以上(つまり高さ15m なら半径15m)に見上げる場所も比較的安全です。
ただし、物体の傍いると側撃を受けるので、必ず4m以上離れて姿勢を低くしてください
(木の幹に近すぎると非常に危険です。コンクリート電柱の場合は2m)。
c.屋外の高さ30m 以上の非常に高い物体の保護範囲
高さ30m 以上の物体(送電線の鉄塔や大型クレーン等)の場合は、その保護範囲は30m 以上には拡大しないので、
物体から4m(送電鉄塔は2m)以上30m 以内の位置で姿勢を低くします。
(2)危険な空間
屋外にいて近くに建物や樹木がない場合には、できるだけ姿勢を低くし、安全な時期を見計らって避難するようにしましょう。
テントのポールは落雷を受け易いので、テントの中は地面にひれ伏しているよりも危険です。
(3)避難方法
避雷針や送・配電線の鉄塔の保護範囲内を通って、安全な建物の中に避難します。
とにかく、雷が遠いうちに避難することが大切です。
しかし、周囲への落雷が激しく逃げられないときは、その場でできるだけ姿勢を低くします。
できれば寝そべることです。
5.スポーツの再開
(1)最後の雷鳴から30 分が経過すれば、雷雲は去ったと判断できますので、スポーツを再開してもかまいません。
20 分でも概ねOK ですが、確実性を重視するならば30 分を基準とします。
(2)しかし、最近の地球温暖化、ヒートアイランド現象等による不安定な大気によるものと考えられる雷雨では、
次から次へと雷雲が発生して飛来しますので、必ずしも30 分間の中断で再開にこぎつけられないケースも多くなっています。
(3)その場合は、ラジオや電話などで雷注意報の解除を確認してからスポーツを再開してください。
6.落雷事故時の応急処置
(1)電気製品の感電とは違い、雷撃は人体の浅い部分を伝わりやすい性質を持っています(沿面電流)。
したがって、重大な火傷等は起こしません。
(2)落雷による死亡は、大量の電流が一度に流れることにより、そのショックで呼吸や心臓が停止することが原因となっています。
したがって、ただちに心肺蘇生法(人工呼吸+心臓マッサージ;胸部圧迫)を施せば助かる確率が高くなります。
3)屋外スポーツに関わる指導者・審判・役員は心肺蘇生法の必要性を認識し、習熟していなければなりません。
落雷による心停止にAED が有効かどうかまだ確認はされていません。
しかし、有用性は考えられますので、心臓マッサージ(胸骨圧迫)で回復しなければAED を試みるべきです。
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