tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

ジングルベルの鈴が鳴る(1)

2007-12-20 20:14:27 | プチ放浪 都会編

Jingle, bells. Jingle, bells. Jingle all the way !
Oh, what fun it is to ride, In a One horse open sleigh !!

クリスマスソングとして有名な『Jingle, Bells』は、1857年の9月16日にJames Lord Pierpontによって『One Horse Open Sleigh』という題名で米国のボストンにある日曜学校の感謝祭の式典のために作られた歌であって、クリスマスソングとして作られたものではない。題名のJingle bellsも、りんりん音がする鈴の音を意味するものであり、雪の中を1頭のウマが曳くソリに乗って楽しむ様子を歌った単なる冬の歌だった。そんなこの歌の経歴に関係なく、この曲を耳にした誰しもが、「ああ、クリスマスが近いんだな」などと思い心が弾んでしまうものだが男は違った。この曲を耳にするたびに、ひどくつらい気持ちになった。男はクリスマスが苦手だったのだ。
「うちはクリスマスもサンタもないからな」
彼は小さい頃から子供にそう言って聞かせた。だから、遠慮しているのか子供はクリスマスに何も欲しがらない。ただ、クリスマスが近づくと寂しげな顔つきになり、夕げの食卓で目を合わせることがなくなった。そんなことも煩わしく、彼をいやな気持ちにさせる一因でもあった。

この時期になると、通りの街路樹はオレンジ色のイルミネーションに彩られ、どこからともなくクリスマス・ソングが流れてくる。仲良さそうに寄り添うカップルたち。どいつもこいつも浮かれやがって・・・・・・。
月末の仕入れ代金の手形払いに行った銀行からの帰り道。足早に駅前の喧騒の中を歩いていると人にぶつかりそうになった。大きな袋を抱え、サンタクロースの衣装を身にまとった男だった。顔中が真っ白なひげで覆われていて、若いのか年寄りなのかその男の年齢はさっぱり見当がつかない。サンタクロースの格好をしたその男は笑顔でチラシの紙を差し出してきた。どうせ配るならティッシュにしろよ。いつもなら、差し出されたチラシを無視するのだが、どっかの店のバーゲンの宣伝かと思い直して黙ってひったくった。サンタクロースの男は、とびきりの笑顔で会釈した。ジロリと男はにらみ返した。だが、なぜか、サンタクロースの男の笑顔を見て懐かしいような気がした。

もうとうの昔に亡くなった男の父親は、商店街の一角にある小さな本屋の店主だった。当時、古マンガ本を買い求める学生たちがたまに来店はするものの、一冊の売り上げ利益があまりにも小さすぎて店の景気はてんでふるわなかった。赤字がかさむ一方で、店もつぶれそうだった。だから、早朝から酔っ払いたちが冷やかしに来る深夜まで、店を開けて客を待った。小学校にあがって間もない彼の息子(つまり、この物語の子供の頃の主人公)を思い浮かべると、週末ぐらいは一緒にいてやろうと思うのだが、生活のためには店を閉めるわけにはいかない。男の父親は来る日も来る日も年中無休で売れない本を売って働いた。
そんなある日、男の父親は来ない客を待って店のレジの前でつい、ウトウトまどろんでしまった。そして、そのまま帰らぬ人となった。原因は足元に置いた練炭。一酸化炭素中毒だった。30年前の昨日。クリスマス・イブの前日のことだった。

明日へ続く。

マイ・ラク?シ?ュアリー・ナイト- 椎名林檎

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