毎年、クリスマスが近づくと、男は亡くなった父親のことを思い出してしまう。男は当時の父親に近い年齢になった。父親の店を引き継いだ母親が引退し、その後は男が経営していた。店を受け継いでから、男は父親の気持ちが痛いほどわかるようになった。家族のために店を守る・・・・・・。男は気づかないうちに、彼の父親の生き方をトレースして生きているのだっだ。
<今日はクリスマス・イブか・・・・・・> 男はふと気になって、さきほどのサンタクロースの格好をした男から渡されたチラシを見た。それは、チラシではなかった。古ぼけた一枚のクリスマス・カードだった。プレゼントを抱えたサンタクロースが描かれたその絵柄は、ひどくレトロな感じがした。カードを開くとそこには、古ぼけたインクの文字。どこかで見たような気がする手書きの几帳面な文字が並んでいた。
『メリー・クリスマス。いつも見守っているよ。だからがんばれ。文男へ』
男は、なぜ、自分の名前がそこに書かれているのかわからなかった。だれかが亡くなった父からのクリスマスカードを偽造して、物陰から男の反応を見て楽しんでいるのだろうか・・・・・・。あわてて周りを見渡したが、どこにも、どっきりカメラがありそうな気配はない。男は、さっきのサンタクロースがチラシを配っていたところまで引き返した。<ヤツを捕まえてとっちめてやろう。冗談がすぎる> しかし、サンタクロースはもういなかった。男はその古ぼけたカードをもう一度見た。そして、呟いた。
「親父か・・・・・・?」
男は狐につままれた思いで、その場に立ち尽くした。そして男はいつか映画で見た古いアメリカ映画を思い出していた。映画では、落ちこぼれの天使が案内する“もし彼が生きていなかったら”という仮定の世界で、主人公は自分の存在理由をかいま見て人生の素晴らしさに気が付く。<・・・・・・落ちこぼれの天使?>
男はこれまで奇跡など信じることはなかった。だがこの時はこの広い世界で、見習いのどんくさい天使が一人ぐらいいてもいいかと思いはじめていた。男は、腕時計を見た。7時だった。<クリスマス・イブか!> 男は帰って今日はもう店を閉めようと思った。俺にはかけがえのない家族がいる。家族のもとに帰ろうと。街角にはジングルベルが鳴り響いていた。
おわり
クリスマスキャロルの頃には