tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

抜釘(ばってい)手術(6)

2009-01-26 22:22:01 | 日記

 
 
 
 

【撮影地】千葉県佐原市伝建地区(2008.11月撮影)
Copyrights© 2006-2009 TETUJIN
all rights reserved.


ヤンキー風の若い男たちが、ひっきりなしに病室に見舞いに来ては騒いでいくし、ベッドでは携帯を使い放題だし、しょっちゅう、タバコを吸いに病院の外へ抜け出してしまうしで、電柱に勝ったヤンキーは、病院からにらまれていた。あまりにも、態度がひどすぎた。だから、一人のナースが彼の母親に苦情の電話をかけたのは当然のことだろう。
一方、彼は個室を希望していた。彼なりに、4人部屋での自分の身勝手な態度に心苦しさを覚えていたのかもしれない。
個室が空いた際に、彼はベッドからの携帯電話で、個室へ移動する相談を母親にした。
彼の母親は、ナースからの苦情もあって、彼が病院から追い出されることを心配していた。個室に移ったら、一人をいいことに、今度は何をするか分からない。大部屋の方が、少しは安心とでも思ったのだろうか。1時間ぐらい、電話で大声でやりあった後、結論は、4人部屋に居続けることに。。

ヤンキーの隣のベッドの歯ぎしり男は、とうの昔にその部屋を逃げ出していた。彼の奥さんが、その病院のほかの病棟に勤務していることもあって、夜は、そこのナースステーションに避難していたらしい。また、もう一人の入院患者は、タイミングよく退院して行った。
だから、手術を終えた週末、4人部屋は、ヤンキー男とぼくの2人きり。

ナースたちが、心配してぼくに声をかけてくる。手術のすぐ後だし、ヤンキーと同室は、気が重くなるのを感じていなかったといえばウソになる。だけど、ナースたちのつらい仕事を考えれば、わがままな若者とのつきあいなど、たやすいことだと自分に言い聞かせていた。
「彼は手術のとき、びびってブルブル震えていたんですよ」
ようやくナースに当り散らすことがなくなったヤンキーが留守のときに、ナースの一人がぼくにそう言った。恐怖心が薄れてきたから、他人とのコミュニケーションがとれるようになったのだろうと。
ぼくはぼくで、どうしていつもナースたちにへりくだっているかと彼に聞かれ、現状の医療機関の問題点、すなわち、老人福祉のための看護とまかないを看護士に押し付けたそのひずみを説明していた。賃金が抑えられ、しかも、考えられないほど重労働であることを。
少しでも彼らの負担を軽くするために、自分でできることは自分ですべきと言うぼくの意見を彼は黙って聞いていた。

ナースたち、ヤンキー男、そしてぼく。三者三様の心がそれぞれ作用しあった。ぼくはこの三者の心のゆるやかな変化を十分に描けるほどの才能がない。ひょっとしたら、死ぬまで文章を考え続けても、書ききれないのかもしれない。「小説を書く」とはそんなものだ・・・・・・と入院中に読んだ川端康成の「掌の小説」に書いてあった。。

ナースたちの手をできるだけ煩わせないようにしているぼくの姿を見て、何かを感じ取ったヤンキーは徐々にわがままな態度を変えていった。だが、なにをどう間違えたのだろう。何かに目覚めたヤンキーは、病棟で一番若いナースを病室でナンパしていた。
「仕事大変だろ。。少しは息抜きしなきゃ。退院祝いしてよ。今度焼肉食いに行こう」・・・・・・鬱。


抜釘(ばってい)手術(5)

2009-01-25 20:13:35 | 日記

 
 
 
 

【撮影地】千葉県佐原市香取(下今井香取神社)/(旧佐原中学校)
(2008.11月撮影)
Copyrights© 2006-2009 TETUJIN
all rights reserved.

入院患者が寝静まった病室にナースコールのチャイムが鳴り響いた。即座にナースステーションから応答が入る。
「どうしました?」
「どうしましたじゃねえよ。用事があるから呼んでいるんだろ」
「すぐ行きます」
ナースの応答が聞え、廊下をパタパタと走ってくる足音が聞こえてきた。
病室のぼくの反対側のベッドに寝ていた二十歳になったばかりの若者だった。「痛てえ、痛っ」さわぎまくる彼が、ナースコールのボタンを押したのだった。

彼はベンツを運転していて、160kmで田舎道のカーブに突っ込み、曲がりきれずに電柱に衝突したのだと言う。
<電柱に勝った>
細めの電柱をへし折ったものの、ベンツは廃車に、そして彼は右足のひざを複雑骨折していた。
救急車で運ばれたのが、成人式の前の週末。そして、即入院。手術はぼくと同じ日、金曜日の予定になっていた。

朝方、またナースコールのチャイム。飛んできたナースに
「隣のウルセイのなんとかしろよ。・・・ぶんなぐってやる」
たぶん、隣のベッドの男が、歯ぎしりでもしたのかもしれない。ただし、ぼくのベッドまでは聞こえてこなかったので、果たしてそれが歯ぎしりであったかどうか確かめるすべはないのだが。
入院した最初の夜からこの騒ぎ。いったい、今回の入院はどうなってしまうのだろう。。


抜釘(ばってい)手術(4)

2009-01-24 00:34:02 | 日記

 
 

【撮影地】千葉県佐原市香取(下今井香取神社)/伝建地区(開運橋)
(2008.11月撮影)
Copyrights© 2006-2009 TETUJIN
all rights reserved.

手術前後の様子はこうだ。
手術の前日の夜9時から、飲食禁止。手術当日の朝、6時の検温に来たナースが排便したかどうか聞いてくる。でも、生活のリズムってものがあって、こんな早朝に便意など催さない。<でなかったら浣腸しますからね>と通告されるも、夕方の手術までにトイレに行けばいいから深刻には考えないようにしていた。結局、体が十分に目覚めたところで、トイレを無事に完了。
8時に手術着に着替えさせられ、点滴注射へ。
点滴静脈注射ができる医師が一人しかいないということで、その日の手術予定の患者がすべて、ナースステーションの受付に集められて、順番に点滴開始。

夕方、手術が終わり、ストレッチャーからベッドへコンベアみたいな機械で移動させられ、もとの病室へ帰還。左手には点滴チューブ。尿道にはカテーテル。手術の終わった右足には包帯。もう、動くことはできない。
ベッドには足枕が用意され、手術した足を上げて寝るように言われる。また、傷口に熱を持つため、氷をたっぷり詰めた氷枕が用意される。反対側の足は、血栓防止くつしたをはかせている。麻酔は2時間ほどで切れるはずなのだが、傷口がさほど傷むわけではない。
もちろん、痛み止めの支給もない。動けずに、何もできないから、今夜は早めに就寝。今日、一日中、絶食を強要されたから、明日は売店に行って、プリンとヨーグルト買ってむさぼり食うぞ。。

翌朝、1勤の若い(かわいい)ナースが体を拭きに来てくれる。
「ついでに尿道カテーテルをはずしてよ」
「うん、はずしましょうか?」
「いや、やっぱり、いい。恥ずかしいし・・・・・・」
結局、尿道のカテーテルは、その後に来た病室担当のナースに抜いてもらった。
「大きく息をはいて」
とチューブを一気に引き抜きながら言われるが、むちゃくちゃ痛い。結局、今回の入院で、一番痛かったのがこれ。
ただ、最初の手術のときは、引き抜いた後、さきっぽから血がにじんでいたが、今回は大丈夫だった。不幸中の幸いだ。


抜釘(ばってい)手術(3)

2009-01-23 23:40:33 | 日記

 
 

【撮影地】千葉県佐原市香取(下今井香取神社)(2008.11月撮影)
Copyrights© 2006-2009 TETUJIN
all rights reserved.

ストレッチャーに横になったぼくは、手術着の前をフルオープンにされ、心電計の電極シールを胸に貼られた。背中を消毒した後、横になってひざを抱えるように指示され、突き出した腰椎に脊椎麻酔の注射が打たれた。3度目の手術。2度目の脊椎麻酔(腰椎麻酔・下半身麻酔)。脊椎麻酔では意識がなくなることはない。麻酔の注射針は、裁縫で使う縫い針程度の大きさらしい。それを背中の背骨と背骨の間に刺す。<チクっとしますよ>担当医が痛いですかと聞いてくる。
背中から注射されるのは、見えてない分怖い。薬液が注入されそうになって、足が無意識に反応した。まるで、カエルの足に電気を通したような反射。まくらもとの年配のナースが、<動くな>というように、背中を曲げてとか、いろいろ指示してくるのだが、その言葉に反応できるほどの余裕はない。
前回の麻酔では、痛み止めが最初からされていたのだろうか。<痛み止めをしながらしますので・・・>担当医の言葉は素直に頭に入ってくる。信頼関係の差だろう。脊椎麻酔はチクリとする程度で、馬尾神経という神経の束に直接あたらない限り、さほどの痛みはないらしい。薬が注入されると、まず足が暖かくなってくる。続いて、感覚がなくなってきて、最後に足が動かなる。
冷点が鈍れば痛点も鈍る。5分程度そのまま横向きになったままの状態で、ガーゼか綿花を濡らしたもので下半身 の皮膚を触り「冷たさ感じますか?」と聞かれる。触られると皮膚がピリピリする感覚が勝り、冷たいかどうかの判断は難しいのだが、明らかに麻酔の効いている部分とそうでない部分では冷たさの度合いが異なる。
<もう麻酔が効いていますね>尿道にカテーテルを入れながらナースが言う。カテーテル。イヤだけどやっぱり、入れられるんだ。。

仰向けになって手術が始まる。
手術中は、医師やスタッフの声、様々な音が聞こえてくる。麻酔開始から40分。手術終了が告げられ、ホッチキスの針みたいなので縫合。無事に終了。
ナースが手につけた血中酸素濃度計の固定用絆創膏をはがすときに
「ごめんなさい。ここ麻酔効いてなかったですね」
思いっきり絆創膏を引き剥がした後にこう言ったのだが、これは患者の緊張を解きほぐすためのジョークなのだろう。
「いやあ、手術中一番痛かったのが、手術が終わってナースが絆創膏をはがしたとき」
なんてことを言わせたいのだろう。。だが、そうは行かない。これも、尿道にカテーテルを入れられた恨み(苦笑)。。それでも、手術後、パンツをはかせてくれたから許す。さて、明朝、カテーテルを抜くまでは、寝たきりに。


抜釘(ばってい)手術(2)

2009-01-22 21:17:10 | 日記

 
 

【撮影地】千葉県佐原市香取(下今井香取神社)(2008.11月撮影)
Copyrights© 2006-2009 TETUJIN
all rights reserved.

右足に埋め込まれていた長さ8cm、幅1cmほどの黒いチタンプレート。円形、および、楕円形の大きな穴が7つ開けられていて、厚み1~2mm。骨に沿うように厚み方向に湾曲が、長さ方向に微妙な曲げが加工されている。厚みも、長さ方向で1mmから2mmへと変化させてある。穴の形の相違は、骨とプレートの固定に重きを置いた円形と、ある程度の耐衝撃性を考慮して骨の補強に重きを置いた楕円形状に機能分担させているのだろう。穴の数に合わせて2種の長さのスクリューがプレートの固定のために使われていた。

3度目の手術。手術室の中は映画に出てくるような見慣れた風景だった。光を反射する塗料でコーティングされた白い壁には、手術の経過時間を表示する大きなデジタル時計が掛けられていて、赤のデジタル数字を浮かび上がらせている。
手術用のストレッチャーのまわりには、血中酸素濃度計、血圧・心電計などの全身管理モニター装置が配置され、そのそばにいろいろな手術道具を詰め込んだ収納カートが見える。中に見えるのは、サイボーグも真っ青のドリル、骨錐、どこを切るのか知りたくない大型の骨用のこぎりなどの大工道具たち。。
ストレッチャーの真上には、まさに典型的な無影灯(オペライト)。
点滴スタンドを転がしながら手術室へ歩いて入室したぼくは、脇に置かれた踏み台に足を掛けてストレッチャーへ。手術室内にはオルゴールの音色のBGMが流れていた。
BGMで心に残ったのが、ユーミンのひこうき雲。たしかこの曲、飛行機雲を空を上っていく少年の命にたとえて歌っていたはず。数年前に愛犬が死んだとき、この曲を聴いて涙したっけ・・・・・・苦笑。