旧商法では、吸収合併に伴う定款変更、就任する役員について、合併契約書に記載することを要するとされていたが、会社法では、吸収合併契約において定めるべき事項とはされていない。当該事項は、吸収合併の法的効果に直接関連を有するものではないことからなされた整理であり、仮に吸収合併契約において当該事項を定めたとしても、債権的効力を有するにすぎないと解されている。したがって、定款変更等の効力を生じさせるためには、吸収合併契約を承認する株主総会決議とは別に定款変更等の決議を経る必要がある。
ここで、上記株主総会決議は、存続会社のみならず、消滅会社においても行う必要があるとの見解もあるようである。旧商法下で合併契約書に記載しなければならないとされていたのは、会社の根本規則である定款は、合併後の存続会社の基本的な在り方を左右するものであるため、合併当事会社間の合意であらかじめ定めておくべきとの考えによるものであり、また、平成9年改正により報告総会が廃止されたことに伴う手当てであるとの考えがあったため、消滅会社及びその株主の意思を反映させるべき、というのが理由であるようだ。
確かに、合併をするからこそ定款変更をするという因果関係があることが多いであろうし、また、存続会社の定款変更は、消滅会社及びその株主にとって、重要な関心事であり、何らかの形で変更後の定款の内容を知らせておくのが相当であるという面は否めない。
しかし、因果関係の有無をどのように区別するかは困難な問題であり、また、消滅会社及びその株主に対しては当該事項を適宜の方法で知らせれば足りるであろう。会社法で、定款変更等が合併契約において定めるべき事項から外されたのは、そうした理由からであると解される。消滅会社の株主総会の承認決議を要求する会社法の明文の規定は存しないし、また、会社法が要求していると解されるのであれば、合併契約の記載は単なる債権的効力にとどまらず、当然会社法における効力を生じさせるものとなるはずである。
したがって、存続会社の定款変更等に関して、消滅会社の株主総会決議を会社法は要求していないものと考えるべきである。