破産手続開始後の会社分割の可否について,拙編著「会社分割の理論・実務と書式(第6版)」(民事法研究会,平成25年1月刊)564頁では,次のとおり解説しているところである。
清算株式会社は,吸収分割または新設分割をすることができる。ただし,剰余金の配当等が禁止されるため,人的分割類似行為を行うことはできない。また,破産手続開始の決定または解散を命ずる裁判を原因として解散した場合(会社法471条5号,6号)には,会社分割をすることはできないと解される。
(注)相澤哲編著「立案担当者による新・会社法の解説」(商事法務)150頁
登記研究642号「質疑応答」171頁)。
ところで,破産手続中の株式会社においても,事業を継続して,その事業を譲渡することはあり得るところであり(破産法第78条第2項第3号),実例もあるようである。
http://www.houjinhasan.com/case/business_alienation.html
とすると,破産手続開始後の会社分割についても,肯定され得るのではないかと考えられる。NSR-3の情報によれば,東京地裁で許可の実例もあるそうである。
次の書籍も肯定説である。
小泉正明・栗原千亜希「経営改善を支援する企業再生の教科書」(秀和システム)
※ 192頁
江頭教授は,次のとおり,合併についてであるが,否定説であるようである。
「破産財団の管理・処分権限が破産管財人に専属し,株主総会が合併承認決議をできないので,合併をすることはできない」(江頭憲治郎「株式会社法(第6版)」(有斐閣)852頁
仮に肯定されるとしても,会社法及び破産法に特別の規定は存しないので,原則どおり,会社法所定の手続に従うことになるが,官報での公告実例は,見当たらない。
まあ,新設分割で,債務の承継がなければ,官報公告は要しないわけであるが。
江頭説に立てば,「破産財団の管理・処分権限が破産管財人に専属し,株主総会が会社分割承認決議をできないので,会社分割をすることはできない」ということになるが,破産管財人が許諾しており(破産法第78条第1項),裁判所の許可(同条第2項第3号類推)も得られるのであれば,株主総会等の決議により,会社分割をすることができると解してもよいのではないだろうか。組織法上の行為ということで,破産管財人の権限外と考えることもできようが,破産管財人の意向を無視して進めることは背理であろう。
破産手続開始決定後の手続において,「事業の譲渡」と会社分割を比較して,会社分割を選択するニーズもそれほど多くはないかもしれないが。