tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

高額役員報酬2つの見方、さてどちらが?

2022年07月28日 16時34分37秒 | 経営
今朝の朝日新聞で「増える役員報酬、増えない賃金」という見出しで役員報酬が増加している問題を取り上げていました。

高額役員報酬に先鞭をつけたのはアメリカで、「ラストベルト」などという言葉が日本でも有名になったことに象徴されますように、実物資本主義が衰退してマネー資本主義が盛行するようになったリーマンショック前から議論の対象になってきたように思います。

日本では伝統的に役員報酬は、大卒初任給の20倍程度などと言われていましたが、アメリカでは1ケタ違うなどと言われていて、なぜそんなことになるのかが研究対象だと言う学者先生もおられました。

その後、リーマンショックにめげず、この傾向はますます強まり、何年か前から日本でも年収1億円を超える経営者が増え、1億円以上の開示が義務となったのがもう10年程前でしょうか。
何年か前、開示の数が200人を超えたという新聞記事がありましたが、この3月期には600人を超え、昨年より100人以上増えたようです。(1億円でも30倍程度)

アメリカでは、全国労働組合組織のAFL=CIOの調査があって、大企業の役員の平均報酬は平均で日本円にして25億円、従業員の平均給与の300倍以上という事だそうですから、まさに桁違いもいいところで、近年この格差への批判は強いようです

しかし、そうした批判はあっても、役員報酬の上昇は止まらないようで、そこで主張されている高額報酬が当然という考え方の中心は、基本的には「業績連動」というところにあるようです。

会社の利益が増えた、株価が上がった、という場合に、それを実現した経営者、役員の報酬をそれに連動してあげるのは当然という考え方でしょう。

業績の向上は従業員が良く働いたからという点がどう考慮されているのかはわかりませんが、従業員の給料は、基本的にジョブ型ですから、職種別マーケットか労使交渉で決まっているという事でしょう。

ここで問題になるのが、賃金や報酬は、その人の働きによって決めるのが本当にいい制度かという問題でしょう。

確かに、能力主義とか成果主義という考え方は、能力や、成果によって賃金報酬が増えるから、それが刺激になって人は良く働き企業の発展や経済成長が起き、社会は豊かになるのであって、働いても、働かなくても収入が同じようだったら、働く意欲は失われ、社会は進歩しなくなるという考え方があります。

しかし、能力主義、成果主義を徹底ていくと、どうなるかといった問題が必ず出て来るのです。

人間の能力には人それぞれ大きな差があります。成果が上がるかどうかには運もあります。それによって賃金報酬が決まると、格差が異常に大きいという結果になります。格差が大きくなると社会は不安定になります。

つまり、「何でも平等」という社会も「能力と成果次第という社会」もサステイナブルではないのです。

本当に必要なことは、企業の付加価値、国のGDPという「みんなで稼いだ富」の配分を、「能力や成果による配分」という要素と同時に「より良い明日の社会のために必要な配分」という要素(教育、研究開発、格差縮小)も確り織り込んだ形にすることなのです。

この、後者への配分を確保するために、日本の企業では昔から「2倍働いて給料2割増し、3倍働いて給料3割増し」などと言われる賃金制度を作って来ているように思います。

社長の給料が新入社員の20倍という日本の企業の現実は、そうした知恵の結果だったのではないでしょうか。