「正義と哲学のはなし」
小川仁志監修
宝島社 840円
「頭脳労働と肉体労働の給与格差は正しいのか?」
「出世する人は、本当に社会の勝ち組なのか?」
「原子力発電所が地方に置かれるのは正しいのか?」
「高額所得者は、多額の寄付をしなければならないのか?」・・・
身近な疑問を、西洋哲学者34名が、図解で解説する一冊。
宝島社ムック本の新刊です。
宝島社の面白さは、単にブームに便乗するだけではなく、違った視点、角度から切り込んでいく無邪気な冒険的アプローチ。
監修は、異色の哲学者小川仁志氏。世俗のドロドロしたテーマに対して身の上相談的アプローチをする「人生をやり直すための哲学(PHP新書)」以来、個人的に注目している哲学者です。
分析的、批判的に展開する西洋哲学の立場から、われわれが直面するさまざまなテーマに対して解決の糸口を提示していきます。
プラトン、アリストテレスからはじまり、ロールズ、サンデルまで。
西洋哲学の入門書として、特に若い方々にお勧めしたい一冊です。
わたし自身10ページ読んだところで挫折した、難解なロールズ著「正義論」も、この本の持つコンセプトのようにベタで挑戦すれば、読破できるかもしれません。
サンデル博士が白熱教室で見せたコミュニタリズムとリベラリズムの対比も、驚くほどシンプルに「まんが」化されています。
リーマンショックによる景気停滞、3.11後、老若男女を問わず、内面化、教養化が進んでいるように思います。
その端緒といえるのが200万部を超えた「もしドラ」。
以降、ニーチェやブッダなどの哲学・思想などの潮流が生まれてきました。
芸人を使ったバラエティ番組とクイズ番組に占領されたテレビ業界や携帯ゲーム機や軽薄短小なツィッターやブログに囲まれているわれわれにとって、久々の良識(コモンセンス)の復活という気がします。
不況にあえぐ出版界に見られる嬉しい潮流・・・3つの流れ
第1の流れ 「マネジメント」へのスポットライト
経営者や管理者しか知らなかったドラッカーを、復活させた「もしドラ」の貢献は大だと思います。
まさか女子高生が「マネジメント」の本を手にするとは・・・。
今や2匹目のドジョウを狙ってコトラー本やポーター本まで誕生しています。
第2の流れ 「哲学」へのスポットライト
ニーチェやプラトン、サルトル、ヴィットゲンシュタインまで再注目されています。
NHKの白熱教室以降、ロールズやサンデルまでが日常会話に出てくるようになりました。
第3の流れ 「思想・宗教」へのスポットライト
映画ブッダや中国古典まで東洋思想を含めたジャンルも赤丸急上昇中とのこと。
論語や菜根譚などの書籍も売れているようです。
この流れは、なぜかキルケゴールを想起させます。
産業革命後、暗く沈んでいたデンマークの市民都市社会に対して、キルケゴールが提示した「美的実存」「倫理的実存」「宗教的実存」。
特に、3.11以降、「実存」への関心が高まってきているように思われます。
次のブームは、サルトルやフーコーなどのフランス系の方向に行くかもしれません。
書店でお買い求めになる時、ちょっと恥ずかしさもあります。
表紙が、アキバ系のメイドカフェの女の子のイラストだからです。
中高年の方は、照れを乗り越え、タバコ2箱分を投資されてはいかがでしょうか?