能率技師のメモ帳 経済産業大臣登録中小企業診断士・特定社会保険労務士の備忘録

マネジメント理論、経営理論を世のため人のために役立てるために

経営学は役に立つのか?「仕事に役立つ経営学」で知るニッポンの経営学最新研究テーマ 日経文庫

2014年12月13日 | 本と雑誌

経営学を学ぶと儲かりますか?という問い。


う~ん。経営学者や経済学者にあまり大金持ちはいないし、大学教授としてコンサルタントや社外取締役でパートタイムジョブをしても、さほど儲からないし・・・。

なかなか難しい命題です。

個人的な意見としては、学ばないより学んだ方が良い・・・という、とても情けない結論です(笑)。

経営という激務の中で、精神衛生上、安定、安心を保つためのサプリといったところでしょうか?

 

経営学というカテゴリーが登場して約100年。

19世紀、英国の産業革命により、組織的、技術革新的な産業が勃興したことが、その起点と言えます。

アメリカのF.T.テイラーの科学的管理法やフランスのファヨールの管理論がその始まりとされています。


よくよく考えてみると、古代エジプトのピラミッドや中国の万里の長城などのビッグプロジェクトにも経営理論やマネジメント理論があったはずです。

何万人という労働者、天井知らずの建築費用などを誰かが計画を立て、そのプロジェクトを進めていたはずです。


が、経営学ということになると、やはりテーラーやファヨールからの文脈が、ヨーロッパ大陸、特にドイツでの研究の中で「経営学」に帰結したと言われています。

もともとは、経済学の枝分かれ・・・経営経済学としてスタートします。

経済学は数学的、定量的な証明が可能と言われる学問で、特定のモデルの中での実証が可能と言われています。


「学」とは、サイエンス。

特定の手順を踏めば、特定の結果が導き出せるのがサイエンス。

インプットとアウトプットの因果関係が一定の手順で紐づけられるのが科学なのです。


「STAP細胞はあります!」と断言しても、手順を踏んで常に再生可能な状態にならなければ、それは科学ではないのです。


そして、経営学。

だれがやっても、特定の手順を踏めば、一定の結果が導き出される・・・。

それは、経営学の世界では、とても難しいことだと思います。

この手順で経営戦略を踏めば大きな成果が上がる、こういった組織、システムを作れば、能率的・機能的な会社組織になる・・・ということが、常に言えないからです。

雑誌で、ある経営者が「社会科学」という言葉に疑義を述べられていました。

経済学、法律学、商学、経営学などがサイエンスなのか?というわけです。

その文脈からすると、人文科学、リベラルアーツも???です。


経営学の世界でも、ある手順を踏めば、確実に一定の成果が再生できる・・・とは言えないことが多々あります。

なぜか?

それは、経営の世界では、変数が多すぎるのです。

外部環境、顧客の意思決定、社員の意識や感情、時代のトレンド、競合他社の出方などなど、それらを定量的、数学的に把握するのは、現時点ではビッグデータの時代とはいえ、それは無理といえます。


天才と言われるマイケル・ポーター博士が打ち出した5Fや競争戦略・・・一世を風靡しましたが、その理論さえ複雑な市場や環境の中で万能とは言えませんでした。

今のところ、経営学は役に立たなくはない・・・というのが精いっぱいのところだと思います。

偉い学者先生が、経営に関する事象をモデル化して、フィールドワークやケーススタディを繰り返していますが、人間をバラバラにして再び組みなおしても、そこに生命がないように、かなり難解なパズルを解くことに努力されています。

それでも、ある単純化された特定のモデルの中では成立するものの、決して万能とは、言えないのです。


それでも、シンプルなビジネスフレームワークや人間の心理面、組織文化やヴィジョン分析などを通じて、自論や持論を展開する経営コンサルタントや学者がたくさん存在しています。

ある大企業が、ある大学の先生を入れて社内改革をしたところ業績が急降下した・・・有名な経営コンサルタントがコンサルしたところ立派なチャート図やスライドは完成したものの何も変わらなかった・・・という話を聞くたびに寂しい気持ちになります。

変数が無数にあるため、何でもありの世界の弊害が出ているのです。


でも、経営学を学ぶことは、仕事を面白くさせます。

世の中の仕組みの一部分を垣間見ることが出来るからです。

そんな中、現在のニッポンの経営学の概要を概観できるコンパクトな一冊が出版されました。

 

日経文庫 仕事に役立つ経営学

日本経済新聞社編 日経文庫 860円+税

 

日経文庫の新刊である同書は、日経朝刊に掲載された「経営学はいま」を再編集したもの。

日本の経営学の世界で、それぞれの分野の第一人者である大学教授が最新の研究分野のテーマを初心者でも分かりやすいように解説した一冊。

経営学の初心者、経営学部の学生、社会人の自己啓発に最適な本です。


特に、経営学の各分野で、どんな研究が行われているかが把握できるのが、大きなメリット。

しかも、それぞれの先生が、初心者でも分かりやすいよう丁寧な解説、そして、推薦本を明示(ブックガイド)されています。

 

目次

1.企業の経済学 経営を経済学から読み取る 浅羽早大教授

キーワード・・・企業価値・範囲の経済・ネットワーク外部性・企業統治・社外取締役・同族企業

 

2.事業の立地戦略 誰に何を売るのかを問う 三品神戸大学教授

キーワード・・・事業の変数・ポーター5F・M&A・傍流人材

 

3.戦略イノベーション 間違いと違いは紙一重 楠木一橋大教授

キーワード・・・独自のストーリー・賢者の盲点・非合理の理・経営者のセンス・非連続性

 

4.不確実性 シナリオ分析と多様性で危機を乗り越える 岡田慶大教授

キーワード・・・逆張り投資・先制的破壊・創発的戦略・オプション的発想・みんなの意見

 

5.組織開発 変わり続けることに対応できる人と職場をつくる 金井神戸大教授

キーワード・・・参加型経営・人事部4つの役割・プロセスデザイン・サーベイ・謙虚な質問

6.ダイバーシティ 多様性と一体感の両立を目指して 鈴木神戸大教授

キーワード・・・コラボ・空間距離・職場のレイアウト・理念経営・関わり合い・心理的契約

 

7.起業 ベンチャー精神を育む「場」をつくる 東出早大教授

キーワード・・・できる理由・時間価値・余裕がアイデアをうむ・リーダー経験

 

8.企業倫理 コンプライアンスを超えて 梅津慶大准教授

キーワード・・・8割がブラック企業・長寿企業・賢い企業行動・社会的責任・経営教育

 

9.企業会計 企業の実態を「見える化」する 加賀谷一橋大准教授

キーワード・・・基準統合・情報開示・のれん処理・短期志向化・価値創造力・指標

 

10.財務戦略 企業財務とリスク 中野一橋大教授

キーワード・・・生産性・無借金・利益率のバラツキ・利益のパイ

 

11.技術経営 革新的な技術を経営の成果につなげる 武石京大教授

キーワード・・・理・文協働・勝てる力と有利な立場・先行と後発・不確実性・外部の革新

 

マーケティングやICT戦略、グローバル戦略は、特に章をとって取り上げられていません。

分野の第一線の研究者の掲げるテーマは、日本の経営学のホットコーナー。

一冊の新書版でこれらに触れられるというのは、とても「役に立ち」ます。

経営学に関心のある方は、必読の一冊だと思います。


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