人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

クリスティアン・アルミンク、新日本フィルとマーラー「交響曲第3番」で有終の美を飾る!

2013年08月04日 07時01分08秒 | 日記

4日(日)。昨日、すみだトりフォニーホールで新日本フィルの第513回定期演奏会を聴きました 10年間、新日本フィルの音楽監督を務めてきたクリスティアン・アルミンク最後のコンサートです 演奏するのはマーラーの「交響曲第3番ニ短調」。アルト独唱は藤村実穂子、女性合唱は栗友会合唱団、児童合唱は東京少年少女合唱隊、コンサートマスターはチェ・ムンスです

 

          

 

開演30分前からアルミンクによる最後の「プレトーク」がありました。彼は語ります

「なぜ私が最後の演奏会でマーラーの交響曲第3番を振るのかというと、10年前に新日本フィルの音楽監督に就任した時の演奏会のプログラムがマーラーの第3番だったからです マーラーのこの曲についてはプログラムに詳細に解説が書かれているので多くは語りませんが、この曲は物語性をもっていて、それが私の10年間の指揮者としての活動を振り返る上で最適な音楽だと思いました これまで、ルネッサンスから現代まで400年に亘る音楽を取り上げてきましたが、プログラミングについては、目新しいものを聴いていただくようにと意識してきました。毎年、新しいテーマ設定をして年間を通して演奏してきました 特に印象に残っている演奏として、オネゲルの劇的オラトリオ『火刑台上のジャンヌ・ダルク』やフランツ・シュミットのオラトリオ『七つの封印を有する書』などが挙げられます。リヒャルト・シュトラウスの歌劇『ばらの騎士』(2008年か?)も印象に残っています。最後に、このオーケストラにとっても、皆さまにとっても輝かしい未来が待っていることを祈っていますアフヴィーダ―ゼーエンは日本語では『さよなら』のことですが、ドイツ語のそれには『次にお会いするのを楽しみに』という意味が込められています。それでは皆さま、アフヴィーダーゼーエン! さよなら

プレトークが10分程で終わったので、ロビーに出ました。CD売り場に、先日第2ヴァイオリン奏者・篠原英和さんの「プレトーク」打ち上げ会にお見えになっていた新日本フィル事業部のNEさんの顔が見えたので声をかけました

tora   「こんにちは。先日はお世話様でした

NEさん 「こんにちは。ブログ拝見しました。私たちのこともイニシャルで書かれていて・・・・

tora   「本名を出すのはまずいと思いまして・・・・

NEさん 「それはまずいです

tora      「アルミンク、今日が最後ですね

NEさん 「今日はきっと良い演奏になると思いますよ

tora      「楽しみにしてます。明朝7時にはブログにアップします

NEさん 「ありがとうございます

爽やかなNEさんでした 残念ながら新日本フィル事業部のもう一人のNHさんにはお目にかかれませんでした。お元気でしょうか

開演時間になりました。最初に女声合唱約70人が舞台の最後列にスタンバイします。そして、オケの面々が登場し所定の位置に着きます。コンマスのチェ・ムンスの合図でチューニングが始まります 弦の首席を見ると第2ヴァイオリンに見慣れない女性が座っています。出演者一覧で確かめると千葉清加とありました。他の女性奏者がロングスカートの衣装の中、パンタロンのようなパンツルックです 女性はこっちのスタイルの方がカッコいいと思うのですが、マイナーな考えでしょうか? そのすぐ近くには室内楽シリーズのプレトークを長年務められた篠原英和さんがデンと控えています

アルミンク最後の演奏会とあってか、管楽器陣を見渡すと、オーボエ:古部賢一、フルート:荒川洋、ホルン:井出詩朗、クラリネット:重松希巳江、ファゴット:河村幹子といった錚々たるメンバーがそろっています。チェ・コンマスの隣は西江辰郎王子です

この曲は2部構成で、第1部が第1楽章「力強く。決然と」、第2部が第2楽章以降で、第2楽章「メヌエットのテンポで。きわめて中庸に。急がず!」、第3楽章「コーモド。スケルツァンド。急がずに」、第4楽章はアルト独唱が入り「とてもゆっくりと。神秘的に。一貫してpppで」、第5楽章はアルトに児童合唱と女声合唱が加わり「テンポは快活に、表情ははずんで」、第6楽章は「ゆっくりと。落ち着いて。感情を込めて」となっています

マーラーは当初、この曲に標題を付けていました 全体のテーマとしては「夏の夜の夢」(他にもいくつかある)、そして第1楽章は「夏が進み来る(バッカスの行進)、第2楽章は「野の花が私に語ること」、第3楽章は「森の動物たちが私に語ること」、第4楽章は「人間が私に語ること」、第5楽章は「天使たちが私に語ること」、第6楽章は「愛が私に語ること」と付けました。しかし、後にすべて破棄されます

 

          

 

会場一杯の拍手に迎えられてアルミンクの登場です。この人は必ずタクトを持ちます。楽員とのコンタクトには必携の道具なのでしょう アルミンクのタクトが振り下ろされ第1楽章が開始されます。ホルンが、トランペットが、トロンボーンが厚みのある重厚な音楽を奏でます 管楽器はもちろん、弦楽器も打楽器もかなり力が入っています。アルミンクの集大成を飾るべく全力を挙げて演奏する姿が見えます

第1楽章が終わって、しばらくアルミンクは間を置きました。これは遅刻して入場するお客さんを受け入れる間でもありますが、それよりも、ここで第1部が終了し、これから第2部へ入る区切りでもあるからでしょう

第2楽章が管楽器の荘重なメロディーで始まります。これを聴くとその昔、ケン・ラッセル監督映画「マーラー」(1974年。イギリス)で観たあるシーンが思い浮かびます。記憶が正しければアルマ・マーラーが海岸で繭のような中で蠢いている場面です

この楽章が終了すると、アルト・ソロの藤村実穂子がパープル色のシックなドレスで登場、指揮者の斜め前方にスタンバイします そして、2階のパイプオルガン右下のバルコニーには少年少女合唱団28人がスタンバイします

第3楽章は、舞台裏のトランペットと舞台上の弦楽器や管楽器との会話がすばらしく、心に沁みます。これを聴くと、マーラーの音楽は楽器と楽器の会話で成り立っているのではないかと感じます

マーラーは1893年から、ザルツブルク郊外のアッタ―湖畔のシュタインバッハに構えた”作曲小屋”で交響曲を作曲、第3番は1895年から翌年にかけて作曲しました 大自然を前にしてマーラーは弟子で指揮者のブルーノ・ワルターに「見るべきものは何もない。僕がみんな曲に書いてしまったからね」と語ったと言われています。彼が書いてしまったのは、自然との会話だったのではないか、と私は思います

第4楽章に入ります。アルトのソロで「おお、人間よ、心せよ!・・・」で始まる独唱が始まります。バイロイト音楽祭でワーグナーのヒロインを9シーズン連続で歌った経験をもつ藤村実穂子の歌声はまったくムリがなく、自然に会場の隅々まで楽々と届きます 何と深い声なのでしょうか。彼女は感情を込めて歌い上げます

次いで、間を置かずに第5楽章に突入します。少年少女合唱団が鐘の音を模倣し、女声合唱が最後の晩餐でのイエスを、アルト独唱がペテロを歌います。この音楽は軽快です

そして第6楽章の”すべてが許された世界。すべてを達観した世界”とでもいうべき静かで穏やかな音楽が奏でられます 最初は弦楽器のみで、途中から管楽器が加わります。それは”浄化された世界”です

10年の長い年月の間には、アルミンクと新日本フィルの間には色々とあったことでしょう 2年前の3.11東日本大震災を受けて発生した福島原発事故の際には、当初予定されていたアルミンク+新日本フィルによる新国立劇場での「ばらの騎士」は急きょ中止になり、日程をずらして別の指揮者で代替公演が挙行されました アルミンクは放射能汚染を恐れて急きょ帰国したからです。当事者ではないので明確なことは分かりませんが、原発事故がある程度落ち着いた後アルミンクが再来日した際には、新日本フィルの団員との間にわだかまりがあったやに聞いています そうしたことを乗り越えてこの日を迎えた訳です。マーラーのこの第6楽章は、そうしたすべてを洗い流すような、すべてを許すような音楽として、この日のプログラムとして最良の選択だったと言えるでしょう

アルミンクのタクトが宙に上がり最終楽章のフィナーレが終わっても、誰一人、あわてて拍手をする者はいませんでした この時、背筋が寒くなるような感動を覚えました。彼のタクトが下ろされ、弦楽器の弓が下ろされて初めて、堰を切ったように拍手 とブラボーの嵐が舞台上のアルミンクと藤村実穂子、合唱、オケに押し寄せました アルミンクは、トロンボーン、トランペット、ホルン、クラリネット、オーボエ、バスーン・・・・と管楽器の首席を立たせ、女声合唱を、そして少年少女合唱を立たせて賞賛を送ります

藤村実穂子、そしてコンマスのチェをはじめ弦楽器の首席奏者一人一人とハグをして健闘を称えます。チェがアルミンクに花束 を贈呈した時は会場が興奮の坩堝と化し、ほとんど会場全員総立ちのスタンディング・オベーションでアルミンクを讃えました こんなに圧倒的なスタンディング・オベーションは見たことありません 私はこれまでスタンディング・オベーションをしたことが一度もないのですが、今回は会場の雰囲気に乗せられて立ち上がって拍手を送りました 前の人達が立っているので舞台が見えないのですよね

聴衆が半数近く会場から出た後、なおも拍手が続く中、チェ・ムンスがアルミンクを連れて再度舞台に登場しました。お互いに肩を組んで、ハグを繰り返して、これまでの友好関係を確かめ合いました。聴衆はさらにヒートアップ、一段と大きな拍手を送りました 

あらためてコンサートのチラシでアルミンクの10年間を振り返ると、「プレトーク」は自ら出演するすべての定期演奏会の開演前に、延べ119回実施 また、公演回数は定期演奏会が118回、名曲シリーズが49回、特別演奏会が70回、墨田区での公演5回の計242回だったということです。長い間お疲れ様でした

最後に、アルミンク指揮新日本フィルによるお薦めCDをご紹介しておきましょう。それはヴェルディの「レクイエム」です この演奏は2010年9月10日、11日の、すみだトりフォニーホールでのライブ録音ですが、私も11日の当日会場にいました。ノルマ・ファンティー二の素晴らしいソプラノが印象に残っています そう言えばこの時の合唱も栗友会合唱団でした

 

          

          

                 

アルミンクは夕べ、錦糸町のどこかでチェ・コンマスはじめオケの仲間たちと打ち上げで盛り上がったのではないかと想像します オケのレパートリーを拡大し、室内楽シリーズを提唱するなど、音楽監督として新日本フィルに新鮮な刺激を与え、全体のレベルアップを図ってくれたアルミンクには、あらたなステージに向けて頑張ってほしいと心から思います。アフヴィーダーゼーエン、アルミンク!

 

コメント (2)
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