人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

映画「愛、アムール」を観る~シューベルト、ベートーヴェン、バッハが流れる中で

2013年08月19日 07時00分17秒 | 日記

19日(月)。16日付日経夕刊「あすへの話題」というコラムで、ヴァイオリニストの千住真理子さんが『卵』という題でエッセイを書いていました 要約すると、

「夏バテには生卵だ。コップに2~3個割り入れかき混ぜず、調味料も入れず丸のみだ。その日一日力尽きないし、食欲がなくてもつるりと飲み込んでしまえばいい。映画『ロッキー』の影響だ。1個から試して、3個、4個と試した。かなりバテた時には1日6つ飲んだこともあったが、さすがにお腹を壊した 時間のある時には、丸のみでなく卵ご飯にする。ご飯を多めに盛って卵2つ、更に納豆も加えてかき混ぜ、海苔で包みながら食べるのが私流だ。喉ごし良く、栄養もあり、満腹感も得られて食事時間も短縮できる 日本人は昔から生で食す習慣があるからか、日本の卵は安心して生のまま頂ける。こんなに新鮮で美味しい卵は、日本ならではでないか

「なるほど、これが千住真理子の夏バテ解消法か」と感心しました。今や卵かけご飯専用の醤油まで売っている日本です。昔から「卵は物価の優等生」と言われてきたように、とにかく安いですし 私も小さい頃、風邪をひいた時に生卵を丸のみしたのを覚えています。ただ、悪玉コレステロール制御の薬を常用している現在では、出来るだけ卵は控えるようにしています それでもたまに、卵かけご飯の魅力に勝てない時があります。日本人ですかねえ

 

  閑話休題  

 

昨日、暑さ真っ盛りの中、高田馬場に出かけ早稲田松竹で「愛、アムール」を観ました この映画はミヒャエル・ハネケ監督、2012年フランス・ドイツ・オーストリア映画です

 

          

 

パリの高級アパルトマンで悠々自適の生活を送る音楽家ジョルジュと妻アンヌでしたが、ある日、妻の発病でこれまでの生活が暗転します アンヌは自宅で過ごしたいとして病院への入院や介護施設への移転を拒み、ジョルジュは自宅で男手ひとつで彼女を介護することになります 自分の力では何も出来なくなり、記憶が次々と薄れていくアンヌをジョルジュは辛抱強く介護します 誰もが直面する「老い」と「死」のテーマに二人の老優が静かに挑戦しています 

さて、この映画では最初にタイトル・ロールが映し出されますが、バックに音楽は流れません。静かに幕が開いていきます。それは、返ってドラマの中で使われる音楽を否が応でも引き立てることになります

シャンゼリゼ劇場で若手ピアニストがシューベルトの「4つの即興曲作品90」の第1番を弾くシーンがありますが、カメラは聴衆を映すだけで、演奏しているピアニストは映しません。それが逆に、冒頭の力強い和音を印象付けることになります そのピアニストはかつてアンヌの弟子だった男性であることが後で分かります。彼は劇中アレクサンドルと呼ばれますが、実は本名で、アレクサンドル・タローというヨーロッパで活躍中のピアニストだそうです

アレクサンドルが老夫婦のアパルトマンを訪ねた時、アンヌに「小さい頃、ベートーヴェンのバガテルを弾かされて、先生に『なぜこんなつまらない曲を練習しなければならないのか』と食って掛かって叱られたことがあります 先生、覚えておいでですか?」と訊くと、アンヌはニッコリ笑みを湛えて「パガテルを弾いてちょうだい。ト短調の」とリクエストします ピアニストは、「今ですか?しばらく弾いていないのでうまく弾けるかどうか・・」と言いながらもベートーヴェンの「6つのバガテル作品126」の第2曲「アレグロ」を弾きます。早いパッセージと遅いパッセージが交互に現われる曲です

次に、アンヌが自室で寝ている時にジョルジュがピアノを弾くシーンがあります。その時彼が弾いていたのはシューベルトの「4つの即興曲作品90」の第3番です

そして、介護に疲れたジョルジュはアンヌがピアノを奏でている幻想を見ます。その時アンヌが弾いていたのはバッハ/ブゾーニによるコラール「主イエス・キリストよ、われ汝に呼ばわる」BWV639です この曲は印象的です。ベートーヴェンでもシューベルトでもないバッハの宗教曲を彼女が奏でているという幻想です。バッハと言えば神を連想します。いよいよ彼女は神の世界に旅立つことを決意したのか、とも想像できます

最後はジョルジュが予想外の決意をして実行に移しますが、誰がジョルジュの行為を非難できるでしょうか人間だれもが避けられない「老」と「死」、現代社会が抱える”老老介護”の深刻な問題を目の前に突き付けられます ハネケ監督は、声高に問題提起をするのでなく、あくまで”静かに”語りかけます

エンドロールも音楽がなく、静かに文字だけが流れていきます。並みの監督ならここでシューベルトの即興曲の何番かを流すところでしょう。ハネケ監督の美意識の高さを感じます

 

          

 

家に帰って、CDでシューベルトの即興曲、ベートーヴェンのバガテル、バッハのコラールを聴きました シューベルトとベートーヴェンはイエ―ノ・ヤンドゥーの演奏、バッハはアンヌ・ケフェレックの演奏です

 

          

          

          

          

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする