5日(月).神楽坂のギンレイホールが10月28日から31日の4日間「神楽坂映画祭2015」を開きます この映画祭では女優・加賀まりこと監督・森田芳光を特集しています.すべて観たいのですが,仕事の関係でそうも休んでいられません 森田芳光監督映画に絞って観ることにしました
まず「阿修羅のごとく」.大好きな向田邦子の原作で大ファンの黒木瞳が出演します.これを見逃す手はありません 次に「失楽園」.これも黒木瞳主演です.観ない訳にはいきません 最後に「家族ゲーム」.「蘇る金狼」の松田優作が出演するとあってはどうしても観たい映画です
ということで,29日(木)に上映される「阿修羅のごとく」(9:20~),「失楽園」(11:50~),「家族ゲーム」(14:05~)の3本立てを観ることにしました ギンレイホールのシネパスポート会員は整理券が必要なので,さっそくホールに行って整理券をいただいてきました
今から29日が楽しみです.ということで,わが家に来てから373日目を迎え,チケットぴあの情報誌「ぴあクラシック」の表紙を齧るモコタロです
同じ映画でもこっちはMETライブニューイングの「マノン」だよ
閑話休題
昨日,上野の東京藝術大学奏楽堂で藝大オペラ第61回定期公演,モーツアルト「フィガロの結婚」を観ました この公演は3日と4日にダブル・キャストで上演されましたが,4日の出演は,伯爵:堤智洋,伯爵夫人:徳山奈奈,スザンナ:竹田舞音,フィガロ:高崎翔平,ケルビーノ:野間愛,マルチェリーナ:中島郁子,バルトロ:清水那由太,バジリオ:持齋寛匡,ドン・クルツィオ:川上晴央,バルバリーナ:佐々木美歌,アントニオ:萩原潤です.指揮はステ―ファノ・マストランジェロ,オケは藝大フィルハーモニア,演出は直井研二です
自席は1階9列23番,オーケストラ・ピットで前方の座席を潰している関係で,9列とは言え前から4列目のセンターブロック右通路側です.会場は文字通り満席
このオペラで鍵を握るのは,まず第一に序曲のテンポです.マストランジェロの指揮で軽快な序曲が始まります.まさにモーツアルトのテンポです この数分の序曲の中に3時間を超えるオペラの神髄が込められています 第1幕はアルマヴィーヴァ伯爵邸の一室です.舞台は極めてシンプルな造りですが,不足はありません 最初に登場するのはフィガロとスザンナですが,第一声を聴いて,二人ともいい線いってるな,と思いました フィガロは高崎翔平,スザンナは竹田舞音です.かなり歌い慣れている印象を受けます.役作りも申し分ありません
伯爵が登場しますが,最初の印象は強くありません.もっと衣装を考えた方が良かったかもしれません 堤智洋の歌う伯爵は迫力があり良かったと思います
ケルビーノは野間愛が歌いますが,魅力のある声です.しかし,”少年”という役柄としてはイメージがちょっと離れていたように思います.もう少し小柄な人がよかったかな
次にバルトロとマルチェリーナの登場です.バルトロを歌う清水那由太はさすがにプロの歌手です.貫録十分です びっくりするのはマルチェリーナを歌った中島郁子です.存在感という意味では出演者の中で一番でしょう この人に魔笛の「夜の女王のアリア」を歌わせたら素晴らしいのではないか,と思います
第2幕に入って,初めて伯爵夫人の登場です.夫人役の徳山奈奈が舞台に現われた時には,この人で大丈夫か・・・・と”貫録不足”という印象を持ちましたが,彼女の歌うアリアを聴いて,その不安は払拭されました 最初は”線が細い”のかな,という印象でしたが,物語が進むにつれてそんなことはないことが分かってきました.美しく良く通るソプラノです
さて,このオペラの一番の魅力は第2幕の終盤です
「ケルビーノを女装させていると,伯爵が狩猟から急きょ帰ってきて伯爵夫人は大慌て 夫人は一旦化粧部屋にケルビーノを隠し,その後スザンナの機転で伯爵の疑いから逃れる そこにフィガロがやってきて伯爵に「結婚式をお願いします」と頼んでいると,庭師のアントニオが現われ『この部屋から男が降ってきた』と言って,男が落としていった紙切れを伯爵に渡す.『降ってきたのは自分だ』と言うフィガロに,伯爵は『それではこの紙は何だ?』と訊き,窮地に立たされる 夫人とスザンナの機転でどうにか窮地を切り抜けるが,マルチェリーナたちがやってきて『借金が返せなかったらフィガロは自分と結婚する』という証文を見せてフィガロに結婚を迫り,大騒ぎのなか幕が降りる」
このシーンは音楽が途切れることがありません ノン・ストップ・モーツアルトです 最初は2人だった登場人物が,3人になり,5人になり,最後には7人になり,アンサンブルを歌い上げます.これがモーツアルトのオペラの最大の魅力です
第4幕フィナーレも感動的です.フィガロとスザンナの騙し合いは最後にはお互いを許し合うことになり,さらに,浮気者の伯爵も最終的には夫人が許します このオペラは,すべての人を許し,救っています
このオペラは何度観ても,何度聴いても感動します 観るたび,聴くたびに新しい発見があります それはマルチェリーナのアリアであったり,バルバリーナのアリアであったりします
フィガロの「もう飛ぶまいぞ,この蝶々」,ケルビーノの「自分で自分が分からない」「恋とはどんなものかしら」,伯爵夫人の「愛の神よ,安らぎを与えたまえ」「楽しい思い出はどこへ」,伯爵夫人とスザンナの二重唱「風に寄せる」~オペラ「フィガロの結婚」はアリアに次ぐアリアです.こんなに息つく間もない楽しいオペラはありません
「まだ生で『フィガロの結婚』を観たことがない」という人は,是非,一度ご覧になることをお勧めします それはプロの内外のオペラ公演に限らず,学生を含めたアマチュアによる公演であっても良いと思います 今回の藝大オペラはかなり水準が高かったと思います