人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

中川右介著「国歌と音楽家」を読む ~ ヒトラー 対 フルトヴェングラー、ムッソリーニ 対 トスカニーニ、スターリン 対 ショスタコーヴィチほか

2022年04月05日 07時13分37秒 | 日記

5日(火)。わが家に来てから今日で2642日目を迎え、ロシア軍によるウクライナ侵攻をめぐり、ロシア軍から解放された首都キーウ近郊で、一般市民とみられる多数の遺体が見つかり、ロシア側の戦争犯罪を問う声が国内外で急速に高まっているが、ロシア側は関与を否定している  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     CNNの映像を見れば 一般市民虐殺は明らかだ 人殺しプーチンの暴走を止めないと

 

         

 

昨日、夕食に娘が職場の同僚を通じて仕入れてきた「サーロインステーキ」を焼き、「卵スープ」と一緒にいただきました 特大ステーキは柔らかくてとても美味しかったです

 

     

 

         

 

中川右介著「国歌と音楽家」(集英社文庫)を読み終わりました 中川右介は1960年東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。出版社勤務を経て、アルファベータを設立し、代表取締役社長として雑誌「クラシックジャーナル」などを出版 著書多数。toraブログでは「現代の名演奏家50~クラシック音楽の天才・奇才・異才」(幻冬舎新書)、「20世紀の10大ピアニスト」(同)、「怖いクラシック」(NHK出版新書)をご紹介しました

 

     

 

本書は「週刊金曜日」の2011年4月29日号から2013年4月5日号まで隔週掲載された論考を、2013年10月に「七つの森書館」から刊行した単行本に大幅な加筆・修正を施して2022年2月に新書版として刊行したものです

著者は「はじめに」で本書の内容について次のように述べています

「この本は、音楽史に刻まれている大音楽家たちが、20世紀という戦争と革命の時代に国家とどう対峙したかを描く、歴史読み物である 国家と音楽家・・本来ならば対峙するものではない。だが、20世紀という『戦争と革命の世紀』は多くの音楽家を国家と対峙せざるを得ない局面に追い込んだ ある者は妥協した。ある者は屈服した。ある者は対立を避けて国外へ出た。闘い抜いた人もいるし、死の一歩手前にあった人もいれば、故国喪失者となった者もいる 『音楽に国境はない』と言われるが、そんな能天気なことは平和な時代だから言える。少なくとも、音楽家には国境がある

本書は次の9章から構成されています

第1章「独裁者に愛された音楽」:ドイツのヒトラー政権とフルトヴェングラー、エーリヒ・クライバー、ワルター、ベーム、クレンペラー、クナッパーツブッシュ、カラヤンとの関係

第2章「ファシズムと闘った指揮者」:イタリアのムッソリーニとアルトゥーロ・トスカニーニ

第3章「沈黙したチェロ奏者」:スペインのフランコ政権とパブロ・カザルス

第4章「占領下の音楽家たち」:ナチス占領下のフランスにおけるアルフレッド・コルトー、シャルル・ミュンシュ

第5章「大粛清をくぐり抜けた作曲家と指揮者」:スターリン政権とショスタコーヴィチ、ムラヴィンスキー

第6章「亡命ピアニストの系譜」:ポーランドのショパン、パデレフスキ、ルービンシュタイン

第7章「プラハの春」:チェコのスメタナ、ターリヒ、アンチェル、クーベリック、ノイマン

第8章「アメリカ大統領が最も恐れた男」:J.F.ケネディとレナード・バーンスタイン

終 章「禁じられた音楽」:イスラエルにおけるワーグナーの音楽、バレンボイムの挑戦

本書を読み終わって、「よくもこれだけの歴史的事実を調べ上げられたものだ」と感嘆せざるを得ませんでした 本書は巻末に収録されている「参考文献」に掲げられた数多くの著作物に裏付けられています 初めて本書を読んで、自分のあまりの無知さ加減を思い知らされました

第1章ではヒトラーのナチス政権と音楽家との対峙が書かれていますが、ユダヤ人であることから国外に亡命した音楽家もいれば、国内に留まって指揮活動を続けた音楽家もいます

著者はこの第1章の扉で次のように問いかけています

「史上最も芸術に理解があり芸術を保護し支援した政治家は、おそらくアドルフ・ヒトラーである 彼の政権ほど、クラシック音楽とオペラを優遇した政権はない。それゆえに音楽家たちは、戦後、ナチス協力者として批判された はたして、音楽家たちに罪はあったのかなかったのか

その上でナチス政権下における音楽家たちの動向を紹介しています 要約すると次の通りです

「ドレスデンのザクセン州立歌劇場音楽総監督フリッツ・ブッシュはユダヤ系ではないが、弟で世界的なヴァイオリニストであるアドルフ・ブッシュがナチスへの嫌悪感を表明したことから、指揮する予定だったオペラが中止となり、やがてドイツを離れることになる 同歌劇場の後任には”ナチスを礼賛していた”カール・ベームが就任した ベームはゲッペルスのよき相談相手となる。ライプツィヒのゲヴァントハウス管弦楽団はブルーノ・ワルターの指揮で演奏会を予定していたが、彼はユダヤ系だったため中止の命令が出された ワルターは当時ナチスの支配下になかったオーストリアに亡命した。ワルターの代役として指揮をしたのはリヒャルト・シュトラウスだった。ベルリン州立歌劇場の指揮者オットー・クレンペラーはユダヤ系だったため、歌劇場を解雇される前に自ら辞め、ドイツを出てスイスへ亡命した ベルリン州立歌劇場音楽監督エーリヒ・クライバー(カルロスの父親)はユダヤ系ではなかったが、ナチス政権が上演作品について口を出してきたので嫌気がさして歌劇場を辞任しドイツを去った

 

     

 

しかし、著者はこの記述だけでは終わらせません 次のように続けます

「このようにさまざまな理由で、多くの音楽家たちがドイツを出て行った ブッシュ、ワルター、クレンペラー、クライバーらは著名だったので、亡命しても仕事があり、最も恵まれた部類に入る 収容所に送られ殺された音楽家もいれば、失業した者もいる。ユダヤ人であれば、確実に悲劇が待っていた

そして、国内に留まってナチス政権に抵抗しながら指揮活動を続けたフルトヴェングラーの活動を紹介しています ひと言で言えば、彼はヒトラーに政治的に利用されながらも、ゲッペルスとタッグを組んで何とか指揮者として生き延びたと言えます

 

     

 

また、クナッパーツブッシュについては「過激な国粋主義者で、ナチスが政権を取る前からその思想に共鳴していた。彼はナチスに入党はしなかったが、ナチスから同志と見做された しかし、バイエルン州立歌劇場を解任されてしまう。失脚の理由は戦後になって、『クナッパーツブッシュは極右思想だったが、一方で規律が嫌いで皮肉屋でもあり、客演先でうっかりヒトラーをからかう発言をし、それがヒトラーの耳に入ったからだ』と伝えられたが、実情は違った ヒトラーの逆鱗に触れたのは事実だが、それは、クナッパーツブッシュの音楽があまりにもひどかったからだ 当時の演奏の録音が遺っていないので、クナッパーツブッシュのどこがどう悪いのかの検証はできないが、とにかくヒトラーはその音楽を嫌ったのだ。失脚の理由は政治的発言ではなく、芸術上の欠点だった クナッパーツブッシュやベームは、ナチスの党員ではなかったが、ナチス政権に忠実に尽くした。それなのに彼らが日本でそれほど批判されることなく、名声を得ていたのは他にもっと『悪い奴』がいたからだった それはヘルベルト・フォン・カラヤンである。実際に党員だったのだから、言い訳はできない」と説明しています

 

     

     

カール・ベームやハンス・クナッパーツブッシュについては著者の指摘の通り、日本では”悪いイメージ”がありません カラヤンについても同様です。これは、レコード会社の”売らんかな”の商業主義と無関係ではないと思います LP時代とCD時代初期のクラシック業界を振り返ると、音楽評論家たちはカラヤンやベームの新譜が出るたびに こぞって絶賛し、多くのクラシックファンに影響を与えていました 一方、クナッパーツブッシュについては音楽評論家・宇野功芳氏が「分かる人には分かる」というスタンスで絶賛していました

 

     

 

第2章「ファシズムと闘った指揮者」ではムッソリーニ政権に対峙したアルトゥーロ・トスカニーニの気骨ある行動が紹介されています トスカニーニに対しては、これまで「楽団員をブタ呼ばわりする独裁的指揮者」というイメージしか持っていませんでしたが、本書を読んで、徹底的に権力と対峙し自己の信念を貫いた偉大な人物として再認識しました

 

     

     

第3章以下の章も、私の知らない歴史的事実のオンパレードでした 400ページを超える力作ですが、初めて読む人にもクラシック通にも参考になると確信します 広くお薦めします

 

     

 

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