認知症関連商品の開発

2025年01月12日 11時40分32秒 | 医科・歯科・介護

いま、認知症の人たちの暮らしを支えようという商品開発が企業の間で広がっています。その開発には認知症の人たち自身も参加。ガスコンロや靴下など、当事者の声を生かした新たな商品も生まれています。いったいどのようなものなのでしょうか。

(経済部記者 野中夕加)

ガスコンロを安全に

 
ガスコンロを安全に
10年あまり前に若年性アルツハイマー型認知症と診断されたノブ子さん(76)。

日々の暮らしで不安に感じていることの1つが、毎日の料理です。

このところ、調理中にガスの火を消し忘れてしまうことが増えました。
ノブ子さん
「やっぱり自分でも危ないという意識があって、いつも恐る恐るやっています。認知症はさっきしたことも忘れるという特徴があるので、失敗してお鍋を焦がしてしまうこともあります」
認知症の人が抱えるこうした不安を少しでも和らげることができないか。

名古屋市の大手ガス機器メーカーと福岡市の大手都市ガスは新たなガスコンロを開発しました。
開発したガスコンロ
開発にあたっては、認知症の当事者やその家族、100人以上に参加してもらい、実際の調理の際にどのような困りごとがあるのか聞き取りを行いました。

ノブ子さんも、その1人です。

2年あまりかけて完成したコンロには、認知症の人の意見などが随所に反映されています。

その1つが、色使いです。
新たなコンロは、火の周りを黒色で統一しました。

黒以外の色だと、火が見えにくいことを指摘されたためです。
見え方の違いを比べると、青い炎がより見えやすくなったのがわかります。

色の工夫はこのほかにも。

火をつけたり消したりするスイッチは、左のコンロを緑色、右のコンロをオレンジ色にしました。
目立つ色にして、押し間違いを防ぐのが狙いです。

音声ガイドにもこだわりました。

「右コンロ 火を消しました」「右コンロ 15分間使用しています」などとゆっくりと聞き取りやすい声で知らせてくれます。
リンナイ営業本部 中野一志室長
中野一志室長
「われわれが分かっていることと、認知症の人が理解して使えるのとは、本当に違うことがよくわかりました。現場に出向いて、触って試してもらってものづくりをしていくことが非常に重要だと改めて感じました」
高齢になり認知機能が低下すると、料理をさせてもらえなくなるというケースも少なくないということで、担当者は、新たなコンロを使って、認知症になっても、少しでも長く安全に料理を楽しんでほしいと考えています。
当時開発を担当 西部ガス佐世保 河野雄彦さん
河野雄彦さん
「いま高齢になっている人の大半は、昔からガスの炎を使って調理してきたはずで、炎の大きさを確認しながら調整して料理をすることが体に染みついていると思います。このガスコンロを使って、もう一度、料理の楽しさや料理を一緒に作ることの楽しさを感じてもらいたいです」

靴下をはきやすく

認知症の人向けの商品はこのほかにも広がっています。

名古屋市の衣料品メーカーが開発したのは、靴下です。
開発のきっかけは4年前。

メーカーの社長が、認知症の人が靴下をうまくはけなくなり、外出の機会が減ってしまうケースがあるということを、初めて耳にしたことでした。
大醐 後藤裕一社長
後藤裕一社長
「外に出る機会が少なくなるとさらに引きこもって、人とのコミュニケーションが減っていくと知って衝撃を受けました。靴下をはくというささいなことがスムーズにできるだけで、暮らしやすくなるのならとすぐにサンプルを作ることにしました」
開発には認知症の人たちも参加しました。
靴下の向きがわからず、かかとの位置を合わせられない。

力が弱いため、はき口をうまく広げられない。

話を聞く中で、認知症の人たちがどのようなことに困っているのかが見えてきました。

試作を繰り返して完成した靴下には、かかとの部分がどこにもありません。
どの向きから足を入れてもフィットするようにするためです。

靴下のはき口にも工夫がこらされています。

色をつけて、どこから足を入れるのか見分けやすくしたほか、伸縮性のある糸を使って広げやすくしました。
認知症の女性(真ん中)
認知症の女性
「はき口のところも色がわかりやすくて、よく伸びてすごくはきやすいです。ほかにもいろいろな柄があるとおしゃれだと思いました」
会社には「靴下をはけるようになり、外出の機会が増えた」とか「自分ではけるようになり、自信になった」いう声も寄せられ、好評だということです。

直面する厳しい現実も…

一方で、厳しい現実も。

この1年近くで売れたのは1500足あまりと目標に届いていません。
利益はほとんど出ておらず、通常だと生産を中止せざるをえないレベルの厳しい数字だといいます。

商品の認知度が低い上に、従業員20人あまりのこの会社では、広告にかける資金や人材の確保が難しいのです。

それでも会社は、商品開発や販路拡大に今後も取り組む方針です。

対象とする商品を、下着などに広げることも検討しています。
後藤裕一社長
「認知症の人が年々増えているのが今の日本の現状ですが、そうした人たち向けの商品はほとんど無いと感じています。認知症の人がはきやすい、着やすいものへのニーズはこれからますます増え、市場も大きくなると思っています。いまは採算面ではちょっと厳しいですが、何とか続けてもっともっとやっていきたいです」

”オレンジイノベーション”商品開発の動き広がる

こうした認知症の人が使いやすい商品の開発は、国も後押ししています。

経済産業省は、3年前から、企業と認知症の人たちの団体を結び付けるなどして当事者参加型の開発を支援してきました。

紹介したガスコンロや靴下も、その一環として誕生しました。

その名も「オレンジイノベーション・プロジェクト」。

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