
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、昨日引用した
「 灰谷説は良心的にすぎる」と題した文章の続きです。
「 この灰谷健次郎は『フォーカス』が生首事件の中学生の顔写真を載せたことに抗議して、「『フォー
カス』が犯した罪について」と題した一文を投じた。フォーカスは即座にこれを掲載した。
灰谷いわく自分はこの少年の顔写真を載せたと新聞で知って戦慄した。まだ犯人ではない、容疑者の
前途はどうなる、少年法を無視した非難に対して、フォーカスはこの犯罪は少年法の枠を越えていると
答えて反省の色がない。
灰谷は新潮社からたくさん本を出している。事と次第によってはその本を全部ひきあげるというほど
の字句で結んだ。
全部引きあげたら打撃だろうと言わぬばかりなのはおどしではない。本気のつもりだろうが版元はび
くともしない。流行作家は二、三年ごとに死んでいる。今回私はこの誤解または自惚(うぬぼれ)につい
て言いたい。有力な版元と作者の間は主人と奉公人に似ている。版元は先生々々と言うが、実は使って
やるのだと思っている。」
(山本夏彦著阿川佐和子編「『夏彦の写真コラム』傑作選2」新潮文庫 所収)