「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2013・06・23

2013-06-23 14:00:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、中野孝次さん(1925-2004)の著書「ローマの哲人 セネカの言葉」より。

「結局のところ、彼ら(多忙の人)がいかに僅かしか生きないかを、君は知りたいのですか? ならば、
見たまえ、彼らがみなどんなに長く生きたいと願っていることか。よぼよぼの老人が、誓いを立てて
ほんの少しの歳月のおまけを得させてくれと神に乞う。自分たちはまだ若いのだと言いたてる。彼ら
は嘘でみずからに媚び、好んでみずからを欺く、それで同時に運命をも欺くことができるとでもいう
ように。 しかし彼らがついに、人間は弱いもので死ぬべき定めにあることを完全に思いださせられ
たとき、彼らのなんと恐れおののいて死んでゆくことか。彼らはまるで、人生から去ってゆくという
のでなく、、むりやり引きずり出されたように死んでゆくのです。自分たちは愚かだった、よく生き
て来なかった、と彼らは叫び、もし今度この病から逃れることができたら、今度こそ閑暇の中に生き
ようと言う。そして彼らがこれまで味わうことのできなかったことを得ようとしてももはや叶わず、
すべての試みが空しく終ったことに、やっと気づくのです。
 それに対し、あらゆる雑務から遠く離れて人生を送っている人にとって、人生が長くないわけがあ
りましょうか? その人生からは何一つ他所(よそ)に運び出されず、何ものもあっちこっちにばら撒
かれず、その何一つ運命の手に委ねられません。何一つとして怠惰によってダメにされず、何一つ気
前よく人に与えてしまって奪いとられることなく、また余計なものは何一つないのです。いわば、そ
の全部に利子がつくのです。だから、たとえどんなに短くとも、その人生は十分以上に満ち足りてい
ます。――またそれ故に、いつ最後の日が来ようとも、賢者は、しっかりした足どりで死の中へ入っ
てゆくことを少しもためらわないのです。
                          『人生の短さについて』11-1・2」

(中野孝次著「ローマの哲人 セネカの言葉」岩波書店刊 所収)





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