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今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から、再録。
「この世の中はやきもちで動いているのではないかと、かねがね私は怪しんでいる。」
「利息に課税してはいけないと、私は論じたことがある。預金はあらゆる税金を払って残ったカスである。あるいは
宝である。それを定期にして生ずる利息は零細である。さらにそれに課税すれば、二重三重に課税したことになる。
課税するのは銀行ではない。国だと銀行は言うかもしれないが、銀行が熱心に抵抗したと聞かないから銀行と国は
一つ穴のムジナである。
定期預金できるものは持てるもの、持てるものから奪っていいと思うのは嫉妬である。わが国の税制は国民の嫉妬
心に便乗して、とうとう私たちの住宅をウサギ小屋といわれるまでにしたのである。」
「税金なんて一割ぐらいがいいのである。その代り世話にならなければいいのである。失業したら、毎日自分でかけ
ずり回る。貧乏したら親戚知人に助けてもらう。老後は子供と共に住む。死水は子供にとってもらう。養老院へはは
いらない。親子は互に助けあう。助けなければ、親不孝と言って世間が爪はじきする。個人がするのではないから、
それには力がある。すこしばかりの病気なら、医者にかからない。安静にして治す。怪しやそれで治るのである。治
らなければ死ぬ。人生五十といって、四十五十で死ぬから、惜しんでくれるのである。医者は午前宅診午後往診とい
って、午前中四、五人の患者をみて、散薬と水薬を与えると、どういうわけかそれがよく効くのである。午後からは、
これも二、三の患家を回ってそれでおしまいで、結構食べていかれるのである。そのかわり長者番付に出ることはな
い。絶対にない。
国は何もしてくれない。してくれないから税金をとらない。そして橋の下には乞食がいる。本当のことをいうと、
私は乞食はいたほうがいいと思っている。貧乏はあったほうがいいと思っている。」
( 山本夏彦著 「恋に似たもの」 文春文庫 所収 )
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