今日の「お気に入り」。
「 若い頃の時間というのは大きな砂時計をスタートさせた状態に似ています。
砂時計の下を見ると、砂が落ちていくのは見えます。しかし上の部分を見ても、砂は
減っていくようには見えません。それどころか砂は微動だにしないように見えます。
つまり時間は亀の歩みのようにゆっくりと動いているようにしか思えないということ
です。砂が減っていくスピードを自覚できるようになるのは、砂が半分以上、いや残
りの四分の一くらいになった時でしょうか。すり鉢状になった砂が、中心からすごい
勢いで落ちていくのが見えます。本当は最初から砂の落ちていくスピードは変わって
いないのに、その速度は加速しているようにさえ思えます。でも、その速度を遅くす
ることも、砂を戻すこともできません。
私たちの人生も砂時計同様、時間の砂を止めることも戻すこともできません。砂は
確実に『 死 』に向かって落ちていきます。ちなみにヨーロッパにおいては、砂時
計は伝統的に『 死 』の暗喩として使われるということです。
私は現在六十四歳です。日本人男性の平均寿命が約 八十一歳なので、砂時計に譬
えると、ほぼ八割の砂が落ちたところです。 私はそれを眺めながら、砂の落ちる
速度はこんなに速かったのかなと、今さらながら驚きと同時に実感しています。
しかし繰り返しますが、砂の落ちる速度は昔からずっと一定だったのです。 長い
間そのことがわからなかっただけなのです。」
「 この年になって初めて、人間にとって何よりも大切なものは『 時間 』であると
気付いたわけです。 金や物は、チャンスに恵まれさえすれば、いくらでも増や
すことができます。しかしいくら増やしたところで、あの世には持っていけません。」
( 百田尚樹著 「 百田尚樹の新・相対性理論 ― 人生を変える時間論 ― 」新潮社刊 所収)