「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2012・09・20

2012-09-20 07:00:00 | Weblog



 今日の「お気に入り」は、佐野洋子さん(1938-2010)のエッセー「死ぬ気まんまん」から。

 「 七十五歳以上の高齢者は年金から医療費が天引きになるので、大変な騒ぎで、あれは私も
  ひどいと思う。が、バアさんがテレビの中で、『年寄りは死ねということですか』といかっ
  ていると、こっち側では『その通り』と私は叫んでいる。
   私は今のように、老人を敬うことを忘れた、役に立たなくなったものはいらないという国
  に生まれて来てしまった悲劇は、戦後民主主義と一緒に入って来た片手落ちの考えだと考え
  る。家制度をこわした法律のせいだと思う。少なくとも私の子供の頃までは、老人はもっと
  堂々としていた。
   誰もが親のめんどうを見たがらず、死ぬと財産分けでもめる。
   法律がそうなっているからである。
   恥ずかしいと思わんか。親に育てられた恩も忘れるのか。」

  (佐野洋子著「死ぬ気まんまん」光文社刊)




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2012・09・19

2012-09-19 08:00:00 | Weblog



 今日の「お気に入り」は、佐野洋子さん(1938-2010)のエッセー「死ぬ気まんまん」から。

「私は闘病記が大嫌いだ。それからガンと壮絶な闘いをする人も大嫌いだ。ガリガリにやせて、現場で死ぬなら本望という人も大嫌いである。」

  (佐野洋子著「死ぬ気まんまん」光文社刊)



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2012・09・18

2012-09-18 06:00:00 | Weblog



 今日の「お気に入り」は、佐野洋子さん(1938-2010)のエッセー「死ぬ気まんまん」から。

「 根が貧乏性の私は物欲がないのである。
 食欲もないのである。
 性欲もないのである。
 もう物をふやしても困るのである。
 もう男もこりごりである。七十でこりごりと言うと笑われる。今からお前、
 男つくれるのか?はい、つくれません。
 私はガンになっても驚かなかった。
 二人に一人はガンである。
 ガンだけ威張るな。もっと大変な病気はたくさんある。リューマチとか、
 進行性筋萎縮症とか、人工透析をずっとずっとやらねばならぬ病気とか。
 ガンは治る場合も大変多い。治らなければ死ねるのである。
 皆に優しくされながら。
 私はウツ病と自律神経失調症の方がずっと苦しくつらかった。
 ウツ病は朝から死にたいが、死んではいけない病気である。自殺は周りに
 迷惑をかける。私は息子がいなかったら、ウツ病で死んでいたと思う。親
 が自殺した子供にしたくなかった。あの時は子供に命を助けてもらった。」

  (佐野洋子著「死ぬ気まんまん」光文社刊)



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2012・09・17

2012-09-17 06:00:00 | Weblog




 今日の「お気に入り」は、佐野洋子さん(1938-2010)のエッセー「死ぬ気まんまん」から。

 「 私はだらしなく、やるべきことをずるずるのばし、整理整頓が下手で、考えると頭の
  中の整理整頓が私の部屋のように散らかしっ放しだということがわかった。
   父がよくどなっていた。『お前は、みそとくそと一緒か!!』
   はい父ちゃん、私はみそとくそが一緒です。
   それから父は夕飯の時、かならず訓辞をたれた。
  『命と金は惜しむな』
   父は命も惜しまず早死にして、母ちゃんは大変だった。
   惜しむ金もないまま死んだ父はやっぱり、かわいそうである。
   私は死んだ子を持ったことがないが、よくおいしいものを食べた母親が、あの子に
  食べさせたいと思って泪が出るときくが、私は(今や何でもありの世の中になって)
  おいしいものを食べると、あゝ父に食べさせたいと思う。
   親が早く死ぬのも悪いことばかりではない。
   のびのび自由になれるのである。父が長生きしたら、今の自分があるかどうかわか
  らない。私は大いなるファザコンである。死んだから、ファザコンは肥大するばかり
  である。だから私は命を惜しまない。金も惜しまない。」

  (佐野洋子著「死ぬ気まんまん」光文社刊)




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死ぬ気まんまん 2012・09・16

2012-09-16 07:00:00 | Weblog



 今日の「お気に入り」は、佐野洋子さん(1938-2010)のエッセー「死ぬ気まんまん」から。

「 私が愛する人は皆、死人である。私は知りたい。死んでも憎みたい人が、これから先出て
 来るだろうか。あの嫌な奴も死ねば許せるだろうか。
  私も死ねば『いい人だったね』と皆思ってくれるのだろうか。
  死んだらそれも自分にはわからないのだから、つまらない。」

  (佐野洋子著「死ぬ気まんまん」光文社刊)


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2012・09・15

2012-09-15 06:30:00 | Weblog



 今日の「お気に入り」は、「敦盛」から。


 にんげん五十年
 下天(げてん)のうちに
 くらぶれば
 夢まぼろしのごとくなり
 ひとたび生を稟(う)け
 滅せぬもののあるべきか


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2012・09・14

2012-09-14 08:00:00 | Weblog



 今日の「お気に入り」。

 「如何なる場合も平気で生きる」

  「なおかつ平気で生きる」

   「それでも平気で生きる」



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神も仏もありませぬ 2012・09・13

2012-09-13 07:00:00 | Weblog




今日の「お気に入り」は、佐野洋子さん(1938-2010)のエッセー「神も仏もありませぬ」から。

「 いったいいくつになったら大人になるのだろう。混迷は九歳の時よりより複雑で底が深くなるばかり
 だった。人間は少しも利口になどならないのだ。そしてうすうす気が付き始めていた。利口な奴は生
 れた時から利口なのだ。馬鹿は生れつき馬鹿で、年をとって馬鹿が治るわけではないのだ。馬鹿は、
 利口な奴が経験しない馬鹿を限りなく重ねてゆくのだ。そして思ったものだ。馬鹿を生きる方が面白
 いかも知れぬなどと。
  そして六十三歳になった。半端な老人である。呆けた八十八歳はまぎれもなく立派な老人である。
 立派な老人になった時、もう年齢など超越して、『四歳ぐらいかしら』とのたまうのだ。私はそれが
 正しいと思う。私の中の四歳は死んでいない。雪が降ると嬉しい時、私は自分が四歳だか九歳だか六
 十三だかに関知していない。
  呆けたら本人は楽だなどと云う人がいるが、嘘だ。呆然としている四歳の八十八歳はよるべない孤
 児と同じなのだ。年がわからなくても、子がわからなくても、季節がわからなくても、わからない
 からこそ呆然として実存そのものの不安におびえつづけているのだ。
  不安と恐怖だけが私に正確に伝わる。この不安と恐怖をなだめるのは二十四時間、母親が赤ん坊を
 抱き続けるように、誰かが抱きつづけるほか手だてがないだろうと思う。自分の赤ん坊は二十四時
 間抱き続けられるが、八十八の母を二十四時間抱き続けることは私は出来ない。
  そしてやがて私も、そうなるだろう。六十三でペテンにかかったなどと驚くのは甘っちょろいも
 のだ。」

   (佐野洋子著「神も仏もありませぬ」ちくま文庫 所収)



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2012・09・12

2012-09-12 07:00:00 | Weblog



 今日の「お気に入り」は、以前朝日新聞に連載された大岡信さんの「折々のうた」の中で紹介された歌。


  十年余の看とり辛からむと友は言ふ独りになるはもつと恐ろし

                        (久恒 啓子)


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2012・09・11

2012-09-11 07:00:00 | Weblog




 今日の「お気に入り」は、以前朝日新聞に連載された大岡信さんの「折々のうた」の中で紹介された歌をいくつか。


  三界に家なしと言いしは過去のこと女一人が優雅に暮らす

  わが鬱を映したくなし三面鏡小さく開き化粧をおとす

                     (岩手 康子)





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