「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2013・06・09

2013-06-09 13:55:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、中野孝次さん(1925-2004)の著書「ローマの哲人 セネカの言葉」より。

「あなたの苦しみは、もしそれになんらかの意味があるとしたら、それはあなた御自身の不幸に
関わっているのですか、それとも亡くなった方に関わっているのですか? 息子を失ったことで
あなたの心を動かしているのは、彼から何の喜びも受けなかったということですか、それとも、
もし彼がもっと長く生きていたら、彼からもっと大きな喜びを得られたろうにということですか?
 もしあなたが彼から何の喜びも得ていないと言われるなら、あなたは失ったことをもっと楽に
堪えられたでしょう。なぜといって人間は、自分が何の喜びも楽しみも感じないものを慕ったり
しないからです。
 しかし、もしあなたが大きな喜びを得ていたとお認めになるなら、それが奪いとられたことを
あなたは嘆くべきでなく、すでにそれを得ていることを感謝しなければなりません。なぜなら、
息子を育てること自体が、あなたの御苦労に対する大変な報酬だからです。あなたはまさか、犬
とか鳥とか、その他のつまらぬペットを世話する人たちが、見たり、触ったり、物言わぬ生きも
のの甘えるさまに一種の喜びを覚えるのに対し、人間の子を育てる人たちには、育てることの喜
びは育てること自体にはない、とおっしゃるのではないでしょうね。仮に彼の熱心な勉強ぶりが
あなたに何ももたらさず、彼の誠実さが目につかず、彼の賢さがあなたに何も語りかけなかった
としても――あなたが彼を息子に持ったこと、彼を愛したこと、まさにそのこと自体が報酬なの
です。
 『しかし、彼はもっと長く生きることができたでしょうに』とおっしゃるのですか。そうかも
しれませんが、にもかかわらずあなたは、そもそも彼という者を授からなかった場合を思えば、
それよりはるかによい目に遭われたのですよ。長くはなくとも幸福である方がいいか、ぜんぜん
幸福を味わわないのがいいか、という選択を迫られたら、あなたはどうなさいますか。たとえ間
もなく去ってゆく幸福であっても、恵まれた方がそれを恵まれないよりはるかによいのではない
でしょうか。
                           『マルキアへの慰め』12-1~3」

(中野孝次著「ローマの哲人 セネカの言葉」岩波書店刊 所収)







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人のために尽せ 2013・06・02

2013-06-02 14:40:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、中野孝次さん(1925-2004)の著書「ローマの哲人 セネカの言葉」より。

「言うまでもなく人間は人のために役立つことを求められている。もし可能ならなるべく
多くの人に。それが出来ぬなら少数者に。それも出来ぬなら身近な人々に。それも出来ぬ
なら自分自身に。なぜなら、人は自分が他人のために役立つ人間であることを示すとき、
公共の利益のために行動しているからです。
                            『閑暇について』3-5 」

「自分以外の誰のためにも生きていない人は、だからといって自分のために生きているわ
けではない。
                            『手紙』55-5 」

「早くに死ぬか遅く死ぬかには、何の意味もありません。大事なのは、善く死ぬか悪く死
ぬかということだけです。そして善く死ぬとは、悪く生きることの危険を逃れることです。
                            『手紙』70-6 」

「進歩の大きな部分は、進歩しようと欲することにあります。
                            『手紙』71-36 」

「千年前に生きていなかったと泣く者があったら、これほどの馬鹿はいないでしょう。同
じく千年後には生きていないと泣く者がいたら、これまた大馬鹿者です。この二つは同じ
です。君は千年前にも千年後にも存在していない。この二つの時間は我々に関係ないのです。
                            『手紙』77-11 」

「正しい行為の報酬は、それを行ったということの中にある。
                            『手紙』81-19 」

「他人のために役立つことをした人は、自分自身のために役立つことをしたのです。
                            『手紙』81-19 」


  (中野孝次著「ローマの哲人 セネカの言葉」岩波書店刊 所収)













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