うさぎくん

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21世紀をいかに生き抜くか

2017年04月07日 | 本と雑誌

岡崎久彦 PHP研究所

岡崎大使の有名な「戦略的思考とは何か」を読了した後、同氏の最近の考えを知りたくて購入した。「戦略的」は名著とはいえ、かなり古い本(1984年)だ。東西冷戦は厳然と存在し、中国は未だ台頭してない時代た。

購入したのはもう数年前のことで、もしかしたら岡崎大使存命中のことだったかもしれない。軽く読んで、これは少しきっちり読まないとダメかなと思っていったんお蔵入り。昨年の秋ごろからまた読み始めた。メモを取りながらの精読の形をとったが、さすがに少々時間をかけすぎたようだ。

序文で触れられているように、これはヘンリー・キッシンジャーの「外交」をテキストに、岡崎氏が超党派の若手議員たちの勉強会で講義したものを、1冊にまとめたものである。底本となった「外交」は、読んでみたい気もするが、おそらく僕には歯が立たないかもしれない。

西欧における近代国際政治と、20世紀以降台頭したアメリカとの関係、そしてその中で日本がどのような立場をとってきたかを、岡崎氏の経験と独自の見解を交えながら話は進んでいく。

近代の国際政治は1648年のウェストファリア条約に始まり、欧州大陸における力のバランスの中で次第に熟成されてきた。やがて「優れて十九世紀的な近代西欧文明」の時代が去り、アメリカ外交という、従来の常識の通用しない相手に世界は翻弄される。日本もその例に漏れない。これは岡崎氏が繰り返し主張されている持論だが、日英同盟の破棄、そしてアメリカ世論を無視した形での真珠湾攻撃が、先の大戦での悲劇を招く。

岡崎氏というと、よく知られているようにかなり親英米的な立場を取られることが多く、本書でも随所でそれがみられる。特に中国政策の見解などに、そうした色が強いように思える。「戦略的思考・・」では、中国についてはほとんど触れられていなかった(予見も不可能だったのだろう)。本書ではさすがに繰り返し中国に言及している。

その視点は基本的に、中国対アメリカを中心とする西側民主主義国の、価値観を中心とした外交的対立構図にある。冷戦時代の対ソ外交包囲網のような体制を、西側諸国に求めることを念頭に語っておられるようだ。そこには、英米を中心とした世界秩序へのかなり強い信頼が垣間見える。

最終章でも、急速な軍拡を続ける中国に対し、自壊、または穏やかに終息するケース、西側諸国とのソフトな、あるいはハードな対立を経て包囲による終息を迎えるケースなどを想定している。近未来の中国を、80年代後半のロシア、あるいは帝国日本、90年代の日本、20世紀初めごろのドイツ、ナチスドイツ、さらに19世紀の英米関係などになぞらえて、未来を描いている。そのどれもが、視点を米国に置いている。

かつての英国のように、アメリカがいわゆる「衰退」する可能性については、意見の異なる複数の識者の著作や論文を紹介しながら、軍事的にはともかく、経済的な衰退というのはかなりの時間を要する、と論じている。要するにあまり心配をしていないようだ。

岡崎氏はトランプを見ることなく、世を去られたわけだが、我々はその先を見続けていかなければならない。自分たちで正確なビジョンを描くことは難しいにしても、自分なりに情勢を判断する努力は必要と思われるが、その方法は?

岡崎氏は巻末にこんなことを書いている。世界情勢を知るには、覇権国であるアメリカの情勢を知る必要がある。これは難しいようだが、方法は簡単。世界中のすべての情報を、一日も漏らさずフォローし、それを長期間続けること、だそうだ。

至言ではあるが、素人には情報の取捨選択からして難しい。やれるものならやってごらんなさい、という、岡崎大使のメッセージなのかもしれない。

コメント
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