馴染みの店へひさびさに行ったら、
その店の奥さんにいきなり、
「ヤマナさんに聞きたいことがあったんですけど、
忘れちゃったんですよ」
と言われた。
そんなことを言われても、
「そうですか」
としか返しようがない。
そしてしばらくすると今度は、
「◎◎さんって放送作家さん知ってますか?」
と尋ねられた。
だが、僕はその◎◎さんは知らなかった。
そう答えると、
「◎◎さんについて何か聞きたいことがあったんですけど、
忘れちゃったんですよ」
着地点のない会話に僕が困っていると、
彼女は申し訳なさそうにこう言ったのだ。
「今の話、全部なかったことにして下さい」