春風亭昇太師匠は、
僕の住む街に良く飲みに来る。
僕もしばしば遭遇するが、
会うのはいつも、
地元民に愛されている「個人店」だ。
昇太師匠が『笑点』の司会に大抜擢となって以来、
そんな個人店にあやしい女性が出没しているという。
店に来るなり、
名刺のひとつも出さずに、
昇太師匠についてアレコレ聞いてくるらしい。
そんな失礼な人物に答える店主はいない。
常連客も同様だ。
しかし彼女は懲りずに、
まだ別の店に現れ、同じことを繰り返す。
実はすでに、
週刊誌の記者と思われる不躾な女性が、
昇太師匠について嗅ぎまわっているという情報は、
地元個人店の間に行き渡っている。
それどころかこんな注意も、
「記者は可愛らしい女性なので、
ついつい酔った勢いで適当なことをしゃべらないように」
もちろん、この注意は半ば冗談。
「××さん大丈夫?」という酒場の笑いのタネである。
みんなで街の人気者を守る、
そんな昔ながらの空気が、
僕の住む街には今も残っている。