旅館の部屋に入ると、
ぷんと微かに嫌な臭いが鼻をついた。
ワキガの臭いだ。
安いビジネスホテルだと、
ベッドに前泊者の体臭が残っていて、
嫌な気分になることはあるが、
今回は温泉旅館の和室である。
すると家人が言った。
「ワキガの人の霊がいるんじゃないの」
なるほど。
それで思い出したのが、
阿刀田高さんの短編だ。
普通、霊というと、「見た」「聴いた」と視覚や聴覚でその存在を知る。
ならば、その他の感覚
「嗅覚」や「味覚」で知る霊がいてもいいんじゃないかという着想で、
小説を書いたそうだ。
阿刀田さんの小説の場合、
香るのはもちろんワキガなどでではなく、
確か香水だったが。