収穫の終えたりんご園は寂しい。
たわわに実っていた筈の枝の間を木枯らしが吹き抜けている。
数件、送ってもらうところがあって
女房がそれらの支払いをしているすきに
ぼくは園内に入ってリンゴを盗む。
いくつかのとり残しをねらって・・・・。
この悪徳の行為がなんともスリルがあって好きなのだが
きょうは主人が出てきて
「あの辺りにまだ生っているかも・・・」と
奥のほうを覗いては余計なことを呟いてみせる。
眼をつぶっているから盗んで来いと言わんばかり・・・
これじゃあ駄目!
緊張感と罪悪感のない盗みなんて
ちっともスリリングではない。
コガラの一群がせわしそうに熟柿を啄ばんでいる。
メジロもやってくるらしい。
「山に木の実が豊富なのでことしは飛来が少ない」
と 主人が言う。
主人が目配せしたあたりの
大きいのを盗んだつもりのリンゴ・・・・
家に戻ってから皮を剥くと、半分は虫食いであった。
ぬ、ぬ、奴め!
霊智欲しからばりんご丸かぢり やす