友人の歯科院で奥歯をいっぽん抜いてもらう。
虫歯ではない。
アサリの殻をうっかり噛んだため根がぐらぐらしてしまった。
この年齢になってもぼくには一本の虫歯もなく
歯医者がおどろくほどである、
これはぼくの唯一誇れることであって
小学5年生のとき
歯のコンクール郡大会で入賞し
一年分の歯磨き粉を賞品に頂いた。
母親がなかなか贅沢〈グルメ〉なひとで
ぼくを身ごもっているときも
トンカツを食べに度々隣町まで出かけていったそうだ。
昭和16・7年のころ
そのような勝手は許されない社会情勢の中でも
世間知らずの母は食べたいものを自由に食べていたようだ。
そのお蔭もあって丈夫な歯が作られたのだと思う。
「抜いた歯はねんごろに処分させて戴きます」 と
笑いながら歯医者がジョークを飛ばしたが
思えば、この奥歯は母から譲りうけたもの・・・・・・
粗末に放り棄てられては確かに申し訳ないような気がする。
従弟が今日、フランスに帰っていったが
さよならはいつだって寂しいものだ。
いのちとは丸きものなり寒卵