住職のひとりごと

広島県福山市神辺町にある備後國分寺から配信する
住職のひとりごと
幅広く仏教について考える

室生寺散策2

2006年11月09日 09時22分38秒 | 朝日新聞愛読者企画バスツアー「日本の古寺めぐりシリーズ」でのお話
本堂の右手少し上がったところに大きな五輪塔がある。江戸幕府五代将軍綱吉の生母桂昌院のお墓である。桂昌院は仏教に帰依して綱吉とともに真言僧護持院隆光を師と仰いだ。隆光は将軍の外護のもとで僧録司という官職に就き、新義真言宗の関東における隆盛を不動のものとした。

将軍綱吉と桂昌院の帰依を受けて諸寺を再建したが、その一つが室生寺である。山門にも桂昌院の実家の家紋九目結紋(ここのつめゆいもん)が付けられている。因みに戒名は、桂昌院殿従一位仁譽興国惠光大姉。

そして、本堂左の石段を見上げると荘重できれいな五重塔が目にはいる。平成10年の台風で杉の大木が倒れ損壊した。しかし多くの篤信者たちの寄進により、室生山の桧皮を葺いた新しい五重塔が改修した。登ると、誠に小さい。16メートル、通例の五重塔の3分の一だという。しかし周りの木立に囲まれたその姿は美しい。

頂上には水煙はなく、代わりに受け花付き宝瓶、その上には八角形の傘蓋(さんがい)がある。これは高野山の大塔と同じもので、やはり根本大塔を意識した塔なのであろう。金剛界の五仏が祀られている。ここ五重塔がある舞台が第三壇。正にここ室生の神山の霊地である。

五重塔の右手には、織田廟があり、大きな五輪塔が2基、その先に修円廟が小さなお堂として祀られている。修円は、空海、最澄と並び称される平安初期の興福寺の学僧であった。

室生寺は、奈良時代から龍神の住む神山として名を馳せており、皇太子山部親王(のちの桓武天皇)の病気平癒を5人の持戒堅固な僧がこの地で祈願して効験があり、朝廷の命で興福寺の賢憬が開創した。

その後、現在のような伽藍を調えたのが修円である。以来山林修行と法相・真言・天台など各宗兼学の道場であった。江戸時代になって、本末制度ができて、どの寺院もどこかの宗派に属すことになって、初めて宗派を名乗るようになったのであって、それまで、誰でもが宗派にかかわらず縁故によって学べたのであろう。

しかし、桂昌院の働きかけでここ室生寺が再建されて興福寺の支配から逃れ、真言宗新義系の寺院として独立した。それからここ室生寺は桂昌院の庇護のある、女人にも開かれた寺院として、女人禁制だった高野山に対して世に名をとどろかす「女人高野」と名乗り、そう呼ばれるようになったのであろう。

そして、五重塔の左手には、如意山がある。三角をした小山がここ室生寺の中心。古い伝承に室生山には大日如来の宝珠があり、これが垂迹して天照大神となったという。室生寺の真西に三輪山の麓に初めて天照大神を祀った桧原神社があり、真東には伊勢内宮の本地斎宮跡があるという。

この東西の線を太陽の道と言い、室生山が古代の太陽祭祀にまつわる霊地であったことを物語っている。因みに、真言宗の最高の礼儀である正月の後七日御修法(ごしちにちみしゅほう)の導師は、御修法前にここ室生寺の如意山を拝みに来るのだそうだ。

そして、その如意山から上に石段を上がりどこまでも続く石段を上がりきると、奥の院がある。途中に、桂昌院が帰依した大僧正隆光のひときわ大きな墓が沢山の僧侶の墓の中心に見つけられる。丁度この辺りの道は今工事中だ。

途中の窪地はシダの群生地で、この暖地性シダは天然記念物となっている。無明の橋を渡ると、奥の院へ上がる急な石段が聳えている。途中には賽の河原があり小さな石が沢山積まれていたり、地蔵尊、弘法大師像が祀られている。

奥の院には大きな位牌堂があり、その前に弘法大師を祀る御影堂(みえどう)。流板(ながしいた)の二段葺き、鎌倉時代の造。位牌堂は懸け造り。舞台と言うほどではないが、回り廊下があり下界を望める。遙か下に室生の村が見える。

室生寺は、山岳斜面にそれぞれの歴史を顕し、意匠を凝らした伽藍が配置されている。仁王門の先には何もなく、山に向かうと鎧坂が視界を遮る。

出たところには興福寺系の仏たちを祀る顕教の舞台が現れる。

そしてその上には、真言密教の神聖な儀礼の舞台。

さらにその上には霊地室生のシンボル如意山とそれに霊光を指し示すかのような五重塔が設えられている霊山の舞台。

石段を上がる毎に霊位が上昇するかのような造り。見事な舞台設計だと思う。

現在室生寺は、真言宗室生寺派の大本山である。毎年何人かの僧侶が本坊横の護摩堂で四度加行をする。もとは真言宗豊山派の大本山長谷寺との繋がりもあったと言うが、今は余り交流はない。末寺は70数ヶ寺。奈良には10数件で、東京と福島に多いという。今の座主さんは東京のお寺さん。

室生寺は、春よし、秋よし。霊地の空気にひたり、身も心も洗われる。是非一度訪れて欲しい。


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