私的図書館

本好き人の365日

九月の本棚 2 『砂の妖精』

2004-09-28 02:37:00 | 日々の出来事
ようやく秋らしい空になってきましたね。

仕事の帰りに見上げた空に、薄い雲をまとった見事な月が出ていて、思わず月見団子を想像してしまいました(笑)

食欲の秋近しって感じです☆

子供の頃車に乗せられていて、帰りが遅くなった時なんか、よく月を眺めていました。
どこまでもどこまでも、月が追いかけてくるような気がして、思わずシートの下に隠れたり、座席に寝そべって外から見えないようにしたり。
そんなことをしていると決まって「じっとしてなさい!」と親に叱られたものです。

まさか自分の息子がお月様から隠れようとしていたなどとは想像もつかなかったのでしょう(当たり前か☆)

子供たちの世界って大人になってしまうとなかなか分からないことが多いですよね。

「あたしたち、砂の妖精を見つけたんです」

「じょうだんは、おやめ」

せっかく正直に話したジェインの言葉は、お母さんに一蹴されてしまいます。

今回ご紹介する本は、何でも願いをかなえてくれるけれど、とっても気難し屋の妖精が登場する物語。

E・ネズビットの『砂の妖精』です☆

イギリスのロンドンから郊外に引越してきた幼い五人兄妹。
シリル、アンシア、ロバートにジェイン、そして一番小さい”坊や”が今回の主人公。

家の近くの砂利掘り場で、オーストラリアにぬける穴(!)を掘っていた子供たちは、砂の中から変てこな生き物を掘り当ててしまいます。

「ほっといてくれ!」と叫ぶこの変な生き物。
カタツムリみたいな目に、コウモリのような耳を持つずんぐりとした体。
彼こそが、もう何千年も生きてきたという砂の妖精、「サミアド」でした。

サミアドをみつけた者は昔から何でも願いをきいてもらえると知った子供たちは、さっそく最初の願いを言ってみます。

プクッとふくれたサミアドが、空気が抜けるようにシューとしぼむと、それでお終い。
願いはかなったはずでした。
ところがそれがたいへんなことに…

一日に一つ願いをきいてもらう約束をした子供たちは、次々に願いをかなえてもらいます。

キレイになりたい。
お金が欲しい。
空を飛んでみたい。

ところがその度にどういうわけかとってもめんどうなことになって、子供たちはさんざんな目に会ってしまいます。

サミアドの魔法の効き目は日没まで。
さらにサミアドは忠実に言葉通りに願いをかなえるので、子供たちも慎重に言葉を選ばなければなりません。
でもそこはほら、よくあることでついつい口がすべってしまってなんてことに。

自分でかなえておいて「やれやれバカな願いをしたものだ」というサミアドの性格もなかなか屈折していていい感じ☆

そのくせやっぱり子供たちにせがまれて願いをかなえてやったりしている。

子供たちはあんまりたびたびヒドイ目に会うので、しだいにサミアドは意地悪をしているのではないかと思いはじめます。
願い事をかなえてもらうのはもうこりごりだといったんは考えますが、この大きな誘惑に勝つことはできません。

ストーリーもさることながら、作品の雰囲気がとってもあったか♪
ときどき読者に語りかけるような文章で綴られた物語は、まるで作者のネズビットが私達に物語を読んで聞かせてくれているかのようです。

それからどうなったの?
次はどうなるの?

読者はその話術にメロメロ。
ところどころ意味ありげな言葉を織り交ぜながら、「でもそれは、また別のお話…」なんて進めていく手腕はさすがです。

幼い時から小説家になりたくて、自作の物語を友達に読んで聞かせていたというネズビット。
六人兄弟の末っ子で、自身五人の子供の母親でもあった彼女は、子供の本を書き始めたのこそ四十歳と遅かったのですが、大人になっても子供の世界を理解できる数少ない作家の一人なのは間違いありません。

願いをかなえてくれる不思議な砂の妖精(水が大嫌い!)と子供たちの夢と希望がいっぱい詰った物語。

読書の秋にそなえて、こんな一冊はいかがですか?

「おはなしオバサン」ネズビットの紡ぎ出す魔法の世界をどうぞ楽しんで下さい☆





E・ネズビット  著
石井 桃子  訳
角川文庫