私的図書館

本好き人の365日

四月の本棚 2 『ジェイン・エア』

2008-04-28 03:40:00 | 本と日常
ご注意。

「良家の子女の方はこの小説をお読みにならないで下さい。」





こんな注意書きがされていたかは定かではありませんが、出版当時、良家の子女が読むにはふさわしくないといわれ、そのあまりにも情熱的で愛と自由に生きる女性主人公に批判の声も出た問題作。

今回はシャーロット・ブロンテの*(キラキラ)*『ジェイン・エア』*(キラキラ)*をご紹介します☆

もちろん、そんな批判には目もくれず、当時の人たち、そしてその後多くの人たちにこの作品は歓迎され、今もたくさんの人たちに読み継がれています。

書かれたのはヴィクトリア時代の19世紀イギリス。

書いたのは牧師の娘として生まれたシャーロット。

彼女には二人の妹がいて、のちにそれぞれ小説を書き、「ブロンテ三姉妹」として有名になりますが、当初は財政的にも決して豊かな境遇ではありませんでした。

彼女自身、家庭教師をしたり私塾を開いたりして働いています。

階級社会が根強く、女性の自由な表現や発表の場など、まだまだ少なかった時代。

この『ジェイン・エア』も、妹エミリー・ブロンテの書いた『嵐が丘』も、当初は男性名のペンネームで発表されました。

では、どんなお話かというと…

ヒロイン、ジェイン・エアは生まれて間もなく両親を亡くし、母の兄である伯父の家に引き取られます。

しかし、ジェインを愛してくれていた伯父が亡くなると、自分の子供同様にジェイン育てると約束した伯母も、その子供たちも、ジェインに辛くあたるようになるのです。

あまりに不条理な暴力。
残酷な描写と、歯に布きせぬ赤裸々な人間性の表現。

人間の生々しい感情が文章から伝わってきて、確かに刺激的。

結局、家を追い出され、孤児院のような寄宿学校に追いやれるジェイン。

ジェインは決して美人ではありません。
それどころか、何度も器量が悪い、かわいくないと表現され、人間の魅力が見た目ではないことが強調されています。

他人に頼らず、理性で物事を考え、男性相手だろうとハッキリ物を言う女性。

それがジェインなのです。

厳しく貧しい寄宿学校で、それでもなんとか勉学を修めたジェインは、その学校の教師となり、やがて、自立するために家庭教師として裕福な家に勤め先を見つけます。

しかし、その家には世間から隠し続ける一つの秘密がありました。

ここから物語は、サスペンスとロマンスの交差する展開になだれ込んでいきます!!

男性を愛する気持にゆらぐジェイン。
隠し部屋から聞こえる奇妙な笑い声。
許されない結婚。
からみあう人間関係、そしてもつれあう愛情。

確かに、ヒロイン、ジェインの感情を前面に出し、世間の常識や当時の宗教的規制に収まり切らない女性の自由への渇望を描いた点では、評価できます。

しかし、もう一つ煮え切らないのも事実。

労働者の子供たちに勉強を教えることになっても、それは彼女の生き甲斐とはなりません。

本を読み、絵を描き、勉強にいそしむ彼女ですが、向学心や探求心が人生の選択肢に入ってくることはないのです。

彼女の人生に、一人の男性が現われてからは。

恋愛小説と思えば、それはしかたのないことかも知れませんが、自分の意見を持ち、当時の常識に挑戦するかのような女性像を表現した前半を考えると、そこのところがちぐはぐに思えてしまいます。

しかし、ジェインの生き方は波乱万丈です。

辛い子供時代。寄宿学校でのささやかな友情と、家庭教師と上流貴族という身分違いの恋。

そして何もかも失い、家々の扉を叩きパンを恵んでもらう物乞いにまで身を落とす。

しかもその後も様々な運命が彼女を待ち受けているのです。

果たして、ジェインの愛の行方は?



男性と食事したら、おごってもらうのがあたり前?

ジェインなら、いわれのないお金は受け取らないでしょう。

いわれのないほどこしも受けないに違いありません。

与えられるだけの愛は、あなたへの愛情ではなく、彼の自分自身への愛なのかも知れません。

…あぁ、「愛」なんて自分で書いてしまった。
なんて恥ずかしいんだ。











シャーロット・ブロンテ  著
遠藤 寿子  訳
岩波文庫