私的図書館

本好き人の365日

『絶望名人 カフカの人生論』

2012-02-15 23:33:35 | 本と日常

ネガティブかポジティブかといえば、ポジティブなことがもてはやされ易い現代。

前を向いて歩こう。
夢をあきらめるな。
日本ガンバレ。

そんな言葉がすぐに思い浮かびます。
でも、いま絶望している人に、そんな言葉が本当に届くのか…
軽い気持ちで口にした励ましの言葉が、かえってその人を傷つけることだって…
言葉って難しいですからね。

ある人には当たり前にできることでも、ある人にとってはすごく困難なこともあります。
健康な人には、階段を一段登るという行為の難しさと苦痛はなかなかわからないものです。


 将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。
 将来にむかってつまずくこと、これはできます。
 いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。

   ―カフカ―


ものすごく後ろ向きな言葉ですよね♪
今日は『変身』などの名著で知られる作家、フランツ・カフカの言葉を取り上げた、頭木弘樹さんの、

『絶望名人 カフカの人生論』(飛鳥新社)

を読みました。


 カフカはあらゆることに失敗する


小説を書くことが自分の人生だと思いつつ、生涯作家としては認められず、普通のサラリーマンだったカフカ。
体が弱く、不眠症で、父親のせいで自分が歪んでしまったと思いつづけていたカフカ。
結婚したくてしかたがないのに、一生独身だったカフカ。
彼の書いた長編小説はすべて未完です。

始終グチをこぼし、仕事が嫌で、病気や家族のグチを言い続けたカフカ。

そんな彼が残した言葉が、これがとっても面白い♪

成功して大金持ちになったり、立身出世をして名前を残したり、偉人といわれる人々の名言集はたくさんありますが、しょせんは成功者の後付。マネしたからって誰もが彼らのようになれるわけじゃない。
しかし、カフカは誰よりもネガティブに人生をとらえ、失敗に学ばず、自分を変えようともしないで、ただひたすら嘆き続けます。

人のつまずかないようなところでつまずいてしまう人にしか見えない現実。
生きにくさを感じている者にしか感じられない一日一日の重み。
頑張れといわれても、頑張れない人はたくさんいる…それは、自分の人生の否定でもあるから。

カフカの言葉自体は面白いのですが、この本、文字は少ないし、解説は多いし、そのくせ値段がやたらと高い!
装丁にお金かけすぎなんだよ飛鳥新社!!
水野敬也さんの『夢をかなえるゾウ』くらいペラペラにすればいいのに~

カフカは道端の草の上に寝転んでいる時、知り合いの紳士が立派な馬車に乗って通りすぎていくのをみつけて、「社会的な地位から追い落とされていることの喜び」を感じます。

”弱者”だから見える世界。
ネガティブだからこそ、気付いてしまう、世間がもてはやす価値観や生き方の危うさ、その本当の価値。

なんとなく、太宰治の作品と共通している物を感じました。

…それにしても、値段高いなぁ。