古い日本家屋の縁側から、庭を眺めてみませんか?
マンション住まいでも大丈夫。
人混みにもまれて、列車に乗る必要もなし。
ただ一冊の文庫本を手に取るだけ。
今回は、庭に植えられた木々や草花、タヌキやキツネ、河童に湖をおさめていらっしゃる浅井姫命、それと犬のゴローが登場する梨木香歩さんの清々しい小説。
『家守綺譚』をご紹介します☆
清々しい小説ってどんなの?
という純真無垢な疑問を抱いた方、そう、それは、まるで雨後の竹林のような清々しさを読書後あたえてくれる世にもまれなる小説…
余計わかりにくくなりました?☆
亡き親友の家に、「家守」として住むことになった”私”、こと綿貫征四郎。
売れない文章書きの彼は、いっこうにすすまぬ原稿と、これまたいっこうに温かくならない懐をもてあましながら、二間続きの他人の座敷から、伸び放題の庭の草木を眺め、池を眺め、田んぼや山を眺める日々を送っています。
庭先のサルスベリがすべすべしていて撫でると気持ちがいいので撫でていると、夜中に硝子戸を微かにたたく音がする。
少し濃い目の桃色をしたサルスベリの花が、房となって硝子戸に当たっているのだが、その様子がどうも尋常ではない。
どうやらサルスベリの木に惚れられたらしい…
しかたがないので話し好き(!)というサルスベリのために、根元で本を読んで聞かせる征四郎。
このサルスベリが女性の姿になって、あやうくタヌキに騙されそうになった征四郎を助けたりなんかします♪
白木蓮。
南蛮ギゼル。
ドクダミ。
カラスウリ。
葛。
竹の花。
家に住みついた犬のゴローは人格者で、河童と掛け軸の中のサギのケンカを仲裁したとかで、近辺ではちょっとした顔だったり、河童の女の子が脱いでいった河童衣を(ゴローのつてで)返しにもらいに来たり、そうかと思うと、竜田姫の侍女が鮎の姿で庭の池に迷い込んだり、カミナリが落ちて白木蓮が白竜を身ごもったり。
どのお話も、ちょっと不思議で、でもすごく懐かしい☆
忘れてしまった友達を思い出した時の罪悪感とも、照れくささともとれる気持ち。
そんな気持になったことありませんか?
彼らはどこにでもいます。
特別の場所じゃない。
ちょっと目をこらせばあなたにも見えるかも☆
風にそよぐ木々の枝の間に。
水面に浮かぶ水草の影に。
舞い散る桜の花の中に。
竹林の奥にひっそりと…
英国に留学した経験も持つ作者の梨木香歩さん。
彼女の描く草や木や花、庭や家屋の様子が好きです♪
長年日本に住んでいると、自然についてもイメージが出来上がっていて、ついつい頭の中の形で見てしまうってことありませんか?
桜といえば実物を見ないでも花びらの形や色が思い浮かんだり、チューリップといえば、描くのは同じような形ばかり。
本当は一本、一本、木も花もみんな違って見えて、季節や時間で輝きも変わるはずなのに。
梨木果歩さんの描く自然は、まるでそのものを実際に目で見て感じた姿を描いているように感じます♪
女の子は髪が長くて赤い服を着てスカートをはいている?
そんなトイレの表示板みたいな女の子、実際にはいませんよね♪
一人一人がそれぞれ違った姿をしている。
だから、話好きなサルスベリがいてもいいんじゃないかな☆
主人公の征四郎もいい性格していますが(なんたってサルスベリのために本を読んでやるくらいですから☆)、実はこの物語で一番活躍しているのは犬のゴローかも知れません♪
河童とサギの仲裁をしたことで、すっかりみんなに信頼され、ひっぱりだこのこのゴロー。
犬好きの隣のおかみさんからは、征四郎のぶんの晩のおかずまで頂いちゃうちゃっかり者なのです☆
そろそろ梅雨入りした所も多くなってきました。
この時期、草や木や花たちは大きく成長する時期。
雨が降ってうんざりという人もいるかも知れませんが、私は雨は眺めている分には大好きです♪
あのすべてが濡れて清められたみたいな雰囲気。
清々しい空気。
思いっきり深呼吸したくなります。
さあ、あなたも縁側に腰掛けて(他人様の縁側ですが)、雨に濡れたサルスベリやヒツジクサ、都わすれなどを眺めてみませんか?
もしかしたら、葉っぱの影に、小鬼が隠れているのを見つけることができるかも知れませんよ☆
梨木 果歩 著
新潮文庫
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